東京朝鮮中高級学校の「高校無償化」裁判の提訴から3年半、9月13日(水)午後、東京地裁の判決が下った。
判決は14時だが、13時半が傍聴抽選の締切時間なので、13時15分ごろ裁判所前に到着すると高校生や親でいっぱいだった。「最後尾」というプラカードをもった職員が農水省側の生垣の曲がり角のあたりに立っていたが、抽選の列が裁判所外まで並んでいるのを見るのは初めての体験だ。わたしの周囲は高校生がいっぱいだったが、男子も女子もみな背が高い。抽選票をもらうとわたくしは1011番、結局1500人もの人が列に参加した。10倍以上の倍率だが、わたくしの前後50番ほどは数字が飛んでいてとてもムリだった。
しかし、判決言い渡しはわずか10秒で、「棄却――不当判決」だった。
その模様はこの動画(リンク)で見られる。
夕方、竹橋の日本教育会館で報告集会が開催された(主催:東京朝鮮高校生の裁判を支援する会、東京朝鮮中高級学校ほか3団体 参加1100人)。6時開場、6時半開始だったが、こちらもいっぱいかと17時45分ごろに行った。するとすでに開場していて6割程度席が埋まっていた。壁には裁判支援の横断幕がたくさん貼られていた。
まず弁護団の李春煕(リ・チュニ)弁護士より判決の説明があった。
2010年4月高校無償化法(公立高等学校に係る授業料の不徴収及び高等学校等就学支援金の支給に関する法律)は成立した。本来すべての学校に適用されるはずだったのに朝鮮学校にだけ適用されなかった。そして民主党政権のもと第三者機関で審査され「政治的外交的理由で判断してはいけない」という原則が確認された。ところが2012年12月の総選挙で自民党が政権を握り12月26日に文科大臣に就任したばかりの下村博文大臣は朝鮮学校をはずすことを決定し、2日後の28日の記者会見で「拉致問題等があり、国民の理解を得られない」とその理由を語った。明らかに高校無償化法の理念に反し、違法なものだ。自民党は野党時代から着々と準備し、専門家の審査会の結果と無関係に「政治的外交的理由」で子どもたちの未来を決めたのだ。弁護団は、この点を裁判の最大のポイントとした。
その点を明らかにするため数々の努力をし、文科省の内部資料である不指定の決済原義を提出させた。表題に「ハの規定の削除に伴う朝鮮高級学校の不指定について」とはっきり書いてあった。審査の結果、朝鮮学校に問題がありはずすのではなく、最初からハを削るという結論があり朝鮮学校を不指定にしたことがこの内部文書から明らかになった。
また2人の役人を承認申請し尋問した。あたふたし、しどろもどろの答弁で、「拉致問題」などが理由になったことが明々白々となった。
ところが今日の判決で、田中一彦裁判長はわれわれの主張をほぼ無視した。そして朝鮮学校をはずしたことは違法ではない、文科大臣の裁量の範囲内だと、国の主張を丸呑みにした。
具体的にみると、指定の審査の手続きは「本件規程」と呼ばれる。校舎、教員数など客観的要件が書かれているが、その13条に「指定教育施設は、高等学校等就学支援金の授業に係る債権の弁済への確実な充当など法令に基づく学校の運営を適切に行わなければならない」、すなわち学校はいったん生徒のために受け取ったカネをきちんと取り扱うようにという一見当たり前のことだが、国はこれを拡大解釈し適正運営がなされておらず、朝鮮総連に不当な支配を受けている疑いがある、と主張した。その証拠として公安調査庁の調査の記録や産経新聞の新聞記事を出した。そして下村文科大臣は規程13条の適正運営をしていないから不指定にした、とずっと主張した。しかし真実は最初から結論が決まっていて、専門家の審議など一切無関係で、拉致問題を理由に「ハ」を削除した。
ところが今日の判決は大臣の裁量の逸脱濫用はない、という一点に絞って判断した。裁量とは、行政に広い権限を認め、法律にはっきり書いてあってもその解釈は国が決められる、裁判所は判断に立ち入らないというものだ。審査会審議の突然の打ち切りも「法律上の問題はない」と言い切った。
そして原告が述べていることは「判断するまでもない」と切り捨て、一切触れなかった。下村文科大臣の不指定の理由は「政治的外交的理由による」ということまで否定した。12月28日の記者会見は「素直に読めば不指定の理由ではなく、本人の見解を述べたもの」だという。
判決を聞き、まずガッカリした。敗訴するとすれば相当ムリなものになると思ったが、まさにそうだった。しかし暗闇が深ければ深いほど夜明けは明るい。逆にすっきりして闘志がわいてきている。必ず高裁でひどい判決をひっくり返したい。
このあと8人の弁護士から補足説明や感想が述べられたが、金舜植(キム・スンシク)弁護士の解説もわかりやすかったので、紹介する。
国は、不指定の理由として「ハの削除」と「規程13条」を主張した。東京の弁護団は、その2つはウソで本当の理由は「政治的外交的理由」による排除で、排除する手法として根拠規定「ハ」を削除した、規程13条は後付けの理由だ、という闘い方を取った。広島の判決で、広島地裁は2つの理由のうちどちらかひとつでも採用できれば国の処分は正当化されるとし、13条で正当化されるのだから「ハの削除は検討する必要がない」とした。
法律は民主党政権時代につくったものだが、なんでも裁量でできるわけでなく専門家会議でまず基準をつくる(これが規程)、それに沿って「教育上の観点から客観的に判断すべきで、政治的外交的判断をしてはいけない」として規程ができた。この考え方のもとにできた法律だった。ここが国のウィークポイントなので、そこを裁判で突いた。証人尋問でうまくいったが、残念なことに裁判官が交代した。
裁判で負けるにしても、事実の立証を積み重ねてきたので、負けてもここまでとは予想しなかった。
そのほか、印象が強かった発言のみ紹介する。
牧田潤一郎弁護士
判決は104pもあるが、ほとんど国の主張の引き写しだった。なぜこの法ができあがったのか自分できちんと考え、それを判決に表してほしかった。裁判官のなかにはそれができる人もいて、大阪ではできたのだからできないことはないと思う。
伊藤朝日太郎弁護士
大阪判決を昨日読み返した。産経新聞がよく報道するような朝鮮学校をめぐる「疑惑」を、事実に基づいてひとつずつひっくり返している。東京の判決は「疑惑」をそのまま受け入れて判決している。「さまざまな報道が繰り返しなされていたことを考慮すると、文科大臣の判断は適正だ」という言い方をしている。まさにこの判決は、日本社会にはびこる偏見を反映したものにほかならない。この根拠のない偏見に基づく判決は必ず糺されなければならない。
師岡康子弁護士
この判決は広島判決に輪をかけてひどい内容だ。どちらも裁量論で切っているが、なぜ東京の朝鮮学校が就学支援金を受け取った場合、流用される恐れがあるのか、具体的にまったく検討されていない。出ているのは産経新聞、公安調査庁、25年前の事件に関する広島の判決だけで恐れがあるとしている。これは事実認定ではなく、たんなる偏見だ。だったら朝鮮学校はなにをやっても疑われることにしかならない。こんなものが認められるはずがない。
喜田村洋一弁護団長の「メッセージ」より
本日の判決は、結論も論理も明らかに誤っているので必ず勝たなければいけないし、また勝ちます。
朝鮮学校の生徒や卒業生3人のスピーチがあった。そのなかで女性の卒業生のことばの一部を紹介する。
この裁判は元生徒たちの精神的な苦痛への損害賠償請求のはずだったが、この判決で生徒や卒業生をさらにつらい思いをさせることになったと思うと、くやしい。わたしが在学中に無償化が始まり、朝鮮学校だけがはずされたことで在学中は持ちきりだった。それで弁護士になり在日朝鮮人社会に貢献したいと、法学部を志した。しかしもう4年でもうすぐ卒業だ。これから控訴審で裁判が長引くとわたしが弁護士になってしまうかもしれない(いや、なりたいが)。今後も勝つ日まで、自分ができることを続けていきたい。
オモニ会は、2010年にできた組織だ。歴代会長・副会長など5人の方からスピーチがあった。敗訴判決を聞き「日本に正義はあるのか」「この国は1910年の韓国併合から今日までなにも変わらない」「学ぶという主張のどこがいけないの」など、わたしたちには耳の痛い言葉、刺激的な言葉も含まれていた。
最後は、観客席の人たちも含め全員起立して「子どもたちの学ぶ権利を取り上げるな!」とシュプレヒコールを上げた。
東京朝鮮中高級学校・慎吉雄校長からは「300万人以上の日本人や外国人高校生に適用されているのに、2000人に満たない朝鮮学校には適用されない。これを民族差別といわず何というのか。しかしこの闘いで支援する日本の皆さんがいかに多いかを知った。99人のいじめっ子がいても1人の親友、心から激励してくれる友がいればどんなつらいことにも勝てることを学んだ。わたしたち教師は、朝鮮学校の正しさ、すばらしさを生徒たちの姿、行いで示し、多くの日本の人たちに正しく知ってもらうため、より多くの行動を起こし来校してもらう努力をする。」
東京と同じく裁判闘争をしている愛知、大阪、広島から連帯アピールがあった。(福岡は飛行機の時間があり先に退出)
そのなかで広島初中高級学校校長は「敗訴した広島判決には「朝鮮学校に適用すると、生徒数を水増しするかもしれない、なおかつ代受領した支援金をどこに使うかわかららない」とありもしないことを書いている、そこで8月1日に控訴しいま控訴審の準備を進めている。「逆転を得意とする広島です」と締めくくった。
ソウルから訪日した「ウリハッキョと子どもたちを守る市民の会」のソン・ミヒさん、主催者である「フォーラム平和・人権・環境」の藤本泰成さんのスピーチが続いた。
最後に、東京朝鮮高校生の裁判を支援する会・長谷川和男共同代表から「行動提起」があった。
「今度は日本人が闘わなければいけない。全国の仲間と連帯して闘いを大きくつくっていこう。そのために必要なことは、普通の日本人が世論をつくっていることを肝に銘じ、まずひとりひとりが日本人の心を変えていく。そして歴史に責任をもてる闘いを組んでいくことが必要だ。勇気をもって、政治情勢に左右されない本当の朝鮮学校支援の闘いを全国に巻き起こそう」とアピールし、10月25日18時半開会の「朝鮮学校の子どもたちに学ぶ権利を!全国集会」(代々木公園野外ステージ)への参加を呼びかけた。
エンディングは、毎週文科省前・金曜行動で朝鮮大学生に歌われている「声よ集まれ、歌となれ」の合唱だった。観客も全員起立して歌った。
どれだけ叫べばいいのだろう 奪われ続けた声がある
聞こえるかい? 聞いているかい? 怒りが今また声となる
怒りに満ちた、力強い歌声がホールいっぱいに広がった。
☆たまたま前日の9月12日、今年の司法試験の発表があった。朝鮮大学校出身者2人を含め、数人合格したそうだ。東京朝鮮中高級学校出身の女性は、舞踊部出身で登下校中にもチマ・チョゴリを着用していた。広島朝鮮初中高級学校の無償化世代の卒業生も2人合格とのアナウンスがあった。
☆牧田弁護士は、自分の頭で考えて判決を書く裁判官の例として、大阪地裁のことを引き合いに出した。翌14日東京地裁でも日本郵便の契約社員の正社員との格差訴訟で春名茂裁判長は一部違法の判決、日本IBMのロックアウト解雇撤回訴訟で吉田徹裁判長は違法の判決を下した。東京の裁判官でもやればできるのである。
☆師岡康子弁護士の発言の一部を「25年前の事件に関する広島の判決」に修正しました。
判決は14時だが、13時半が傍聴抽選の締切時間なので、13時15分ごろ裁判所前に到着すると高校生や親でいっぱいだった。「最後尾」というプラカードをもった職員が農水省側の生垣の曲がり角のあたりに立っていたが、抽選の列が裁判所外まで並んでいるのを見るのは初めての体験だ。わたしの周囲は高校生がいっぱいだったが、男子も女子もみな背が高い。抽選票をもらうとわたくしは1011番、結局1500人もの人が列に参加した。10倍以上の倍率だが、わたくしの前後50番ほどは数字が飛んでいてとてもムリだった。
しかし、判決言い渡しはわずか10秒で、「棄却――不当判決」だった。
その模様はこの動画(リンク)で見られる。
夕方、竹橋の日本教育会館で報告集会が開催された(主催:東京朝鮮高校生の裁判を支援する会、東京朝鮮中高級学校ほか3団体 参加1100人)。6時開場、6時半開始だったが、こちらもいっぱいかと17時45分ごろに行った。するとすでに開場していて6割程度席が埋まっていた。壁には裁判支援の横断幕がたくさん貼られていた。
まず弁護団の李春煕(リ・チュニ)弁護士より判決の説明があった。
2010年4月高校無償化法(公立高等学校に係る授業料の不徴収及び高等学校等就学支援金の支給に関する法律)は成立した。本来すべての学校に適用されるはずだったのに朝鮮学校にだけ適用されなかった。そして民主党政権のもと第三者機関で審査され「政治的外交的理由で判断してはいけない」という原則が確認された。ところが2012年12月の総選挙で自民党が政権を握り12月26日に文科大臣に就任したばかりの下村博文大臣は朝鮮学校をはずすことを決定し、2日後の28日の記者会見で「拉致問題等があり、国民の理解を得られない」とその理由を語った。明らかに高校無償化法の理念に反し、違法なものだ。自民党は野党時代から着々と準備し、専門家の審査会の結果と無関係に「政治的外交的理由」で子どもたちの未来を決めたのだ。弁護団は、この点を裁判の最大のポイントとした。
その点を明らかにするため数々の努力をし、文科省の内部資料である不指定の決済原義を提出させた。表題に「ハの規定の削除に伴う朝鮮高級学校の不指定について」とはっきり書いてあった。審査の結果、朝鮮学校に問題がありはずすのではなく、最初からハを削るという結論があり朝鮮学校を不指定にしたことがこの内部文書から明らかになった。
また2人の役人を承認申請し尋問した。あたふたし、しどろもどろの答弁で、「拉致問題」などが理由になったことが明々白々となった。
ところが今日の判決で、田中一彦裁判長はわれわれの主張をほぼ無視した。そして朝鮮学校をはずしたことは違法ではない、文科大臣の裁量の範囲内だと、国の主張を丸呑みにした。
具体的にみると、指定の審査の手続きは「本件規程」と呼ばれる。校舎、教員数など客観的要件が書かれているが、その13条に「指定教育施設は、高等学校等就学支援金の授業に係る債権の弁済への確実な充当など法令に基づく学校の運営を適切に行わなければならない」、すなわち学校はいったん生徒のために受け取ったカネをきちんと取り扱うようにという一見当たり前のことだが、国はこれを拡大解釈し適正運営がなされておらず、朝鮮総連に不当な支配を受けている疑いがある、と主張した。その証拠として公安調査庁の調査の記録や産経新聞の新聞記事を出した。そして下村文科大臣は規程13条の適正運営をしていないから不指定にした、とずっと主張した。しかし真実は最初から結論が決まっていて、専門家の審議など一切無関係で、拉致問題を理由に「ハ」を削除した。
ところが今日の判決は大臣の裁量の逸脱濫用はない、という一点に絞って判断した。裁量とは、行政に広い権限を認め、法律にはっきり書いてあってもその解釈は国が決められる、裁判所は判断に立ち入らないというものだ。審査会審議の突然の打ち切りも「法律上の問題はない」と言い切った。
そして原告が述べていることは「判断するまでもない」と切り捨て、一切触れなかった。下村文科大臣の不指定の理由は「政治的外交的理由による」ということまで否定した。12月28日の記者会見は「素直に読めば不指定の理由ではなく、本人の見解を述べたもの」だという。
判決を聞き、まずガッカリした。敗訴するとすれば相当ムリなものになると思ったが、まさにそうだった。しかし暗闇が深ければ深いほど夜明けは明るい。逆にすっきりして闘志がわいてきている。必ず高裁でひどい判決をひっくり返したい。
このあと8人の弁護士から補足説明や感想が述べられたが、金舜植(キム・スンシク)弁護士の解説もわかりやすかったので、紹介する。
国は、不指定の理由として「ハの削除」と「規程13条」を主張した。東京の弁護団は、その2つはウソで本当の理由は「政治的外交的理由」による排除で、排除する手法として根拠規定「ハ」を削除した、規程13条は後付けの理由だ、という闘い方を取った。広島の判決で、広島地裁は2つの理由のうちどちらかひとつでも採用できれば国の処分は正当化されるとし、13条で正当化されるのだから「ハの削除は検討する必要がない」とした。
法律は民主党政権時代につくったものだが、なんでも裁量でできるわけでなく専門家会議でまず基準をつくる(これが規程)、それに沿って「教育上の観点から客観的に判断すべきで、政治的外交的判断をしてはいけない」として規程ができた。この考え方のもとにできた法律だった。ここが国のウィークポイントなので、そこを裁判で突いた。証人尋問でうまくいったが、残念なことに裁判官が交代した。
裁判で負けるにしても、事実の立証を積み重ねてきたので、負けてもここまでとは予想しなかった。
そのほか、印象が強かった発言のみ紹介する。
牧田潤一郎弁護士
判決は104pもあるが、ほとんど国の主張の引き写しだった。なぜこの法ができあがったのか自分できちんと考え、それを判決に表してほしかった。裁判官のなかにはそれができる人もいて、大阪ではできたのだからできないことはないと思う。
伊藤朝日太郎弁護士
大阪判決を昨日読み返した。産経新聞がよく報道するような朝鮮学校をめぐる「疑惑」を、事実に基づいてひとつずつひっくり返している。東京の判決は「疑惑」をそのまま受け入れて判決している。「さまざまな報道が繰り返しなされていたことを考慮すると、文科大臣の判断は適正だ」という言い方をしている。まさにこの判決は、日本社会にはびこる偏見を反映したものにほかならない。この根拠のない偏見に基づく判決は必ず糺されなければならない。
師岡康子弁護士
この判決は広島判決に輪をかけてひどい内容だ。どちらも裁量論で切っているが、なぜ東京の朝鮮学校が就学支援金を受け取った場合、流用される恐れがあるのか、具体的にまったく検討されていない。出ているのは産経新聞、公安調査庁、25年前の事件に関する広島の判決だけで恐れがあるとしている。これは事実認定ではなく、たんなる偏見だ。だったら朝鮮学校はなにをやっても疑われることにしかならない。こんなものが認められるはずがない。
喜田村洋一弁護団長の「メッセージ」より
本日の判決は、結論も論理も明らかに誤っているので必ず勝たなければいけないし、また勝ちます。
朝鮮学校の生徒や卒業生3人のスピーチがあった。そのなかで女性の卒業生のことばの一部を紹介する。
この裁判は元生徒たちの精神的な苦痛への損害賠償請求のはずだったが、この判決で生徒や卒業生をさらにつらい思いをさせることになったと思うと、くやしい。わたしが在学中に無償化が始まり、朝鮮学校だけがはずされたことで在学中は持ちきりだった。それで弁護士になり在日朝鮮人社会に貢献したいと、法学部を志した。しかしもう4年でもうすぐ卒業だ。これから控訴審で裁判が長引くとわたしが弁護士になってしまうかもしれない(いや、なりたいが)。今後も勝つ日まで、自分ができることを続けていきたい。
オモニ会は、2010年にできた組織だ。歴代会長・副会長など5人の方からスピーチがあった。敗訴判決を聞き「日本に正義はあるのか」「この国は1910年の韓国併合から今日までなにも変わらない」「学ぶという主張のどこがいけないの」など、わたしたちには耳の痛い言葉、刺激的な言葉も含まれていた。
最後は、観客席の人たちも含め全員起立して「子どもたちの学ぶ権利を取り上げるな!」とシュプレヒコールを上げた。
東京朝鮮中高級学校・慎吉雄校長からは「300万人以上の日本人や外国人高校生に適用されているのに、2000人に満たない朝鮮学校には適用されない。これを民族差別といわず何というのか。しかしこの闘いで支援する日本の皆さんがいかに多いかを知った。99人のいじめっ子がいても1人の親友、心から激励してくれる友がいればどんなつらいことにも勝てることを学んだ。わたしたち教師は、朝鮮学校の正しさ、すばらしさを生徒たちの姿、行いで示し、多くの日本の人たちに正しく知ってもらうため、より多くの行動を起こし来校してもらう努力をする。」
東京と同じく裁判闘争をしている愛知、大阪、広島から連帯アピールがあった。(福岡は飛行機の時間があり先に退出)
そのなかで広島初中高級学校校長は「敗訴した広島判決には「朝鮮学校に適用すると、生徒数を水増しするかもしれない、なおかつ代受領した支援金をどこに使うかわかららない」とありもしないことを書いている、そこで8月1日に控訴しいま控訴審の準備を進めている。「逆転を得意とする広島です」と締めくくった。
ソウルから訪日した「ウリハッキョと子どもたちを守る市民の会」のソン・ミヒさん、主催者である「フォーラム平和・人権・環境」の藤本泰成さんのスピーチが続いた。
最後に、東京朝鮮高校生の裁判を支援する会・長谷川和男共同代表から「行動提起」があった。
「今度は日本人が闘わなければいけない。全国の仲間と連帯して闘いを大きくつくっていこう。そのために必要なことは、普通の日本人が世論をつくっていることを肝に銘じ、まずひとりひとりが日本人の心を変えていく。そして歴史に責任をもてる闘いを組んでいくことが必要だ。勇気をもって、政治情勢に左右されない本当の朝鮮学校支援の闘いを全国に巻き起こそう」とアピールし、10月25日18時半開会の「朝鮮学校の子どもたちに学ぶ権利を!全国集会」(代々木公園野外ステージ)への参加を呼びかけた。
エンディングは、毎週文科省前・金曜行動で朝鮮大学生に歌われている「声よ集まれ、歌となれ」の合唱だった。観客も全員起立して歌った。
どれだけ叫べばいいのだろう 奪われ続けた声がある
聞こえるかい? 聞いているかい? 怒りが今また声となる
怒りに満ちた、力強い歌声がホールいっぱいに広がった。
☆たまたま前日の9月12日、今年の司法試験の発表があった。朝鮮大学校出身者2人を含め、数人合格したそうだ。東京朝鮮中高級学校出身の女性は、舞踊部出身で登下校中にもチマ・チョゴリを着用していた。広島朝鮮初中高級学校の無償化世代の卒業生も2人合格とのアナウンスがあった。
☆牧田弁護士は、自分の頭で考えて判決を書く裁判官の例として、大阪地裁のことを引き合いに出した。翌14日東京地裁でも日本郵便の契約社員の正社員との格差訴訟で春名茂裁判長は一部違法の判決、日本IBMのロックアウト解雇撤回訴訟で吉田徹裁判長は違法の判決を下した。東京の裁判官でもやればできるのである。
☆師岡康子弁護士の発言の一部を「25年前の事件に関する広島の判決」に修正しました。