エミール・ガボリオ ライブラリ

名探偵ルコックを生んだ19世紀フランスの作家ガボリオの(主に)未邦訳作品をフランス語から翻訳。

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2020-12-08 10:17:56 | 地獄の生活

彼女が心を開いて招き入れる友人は数少なかったが、彼らは皆彼女のエスプリに目を瞠ったものだった。彼女はまた揉め事を起こすこともなく、人が義務と呼ぶものに幸福を見出す人間の一人だった。彼女の人生を簡潔な言葉で言うならばこうなる。彼女は愛情を与え、自らを奉仕に捧げた女性である、と。

金融庁の下級役人の娘として生まれ、彼女は三千フランの持参金で、自分と同じくらい貧しいが聡明で勤勉な青年と結婚した。彼女は夫を愛し、夫もまた彼女を崇拝した。この青年は結婚する際、きっと財をなしてみせると誓った。彼自身が金に執着しているというわけではなく、自分の愛してやまぬ女性、つまり妻をありとあらゆる贅沢さで飾り立てたいという思いからであった。この愛情が彼を駆り立て、成功へと導いたということは疑いの余地がない。ある大きな工場で化学者として雇われていた彼は、大きな業績を挙げたので、ほどなく収益の大部分を与えられることになった。彼の名前は発明者の一人としてカタログに記載された。石炭から抽出された素晴らしい染料の一つを発見したのは彼の功績である。十年経つと、彼は金持ちになった。彼は初めて会った日と同じように妻を愛し、息子を一人授かった。パスカルという息子を。

ところが不運にも、幸福の絶頂だった彼が全く無害な染料の化合物を模索していたとき、乳鉢が彼の両手の中で爆発し、彼は頭と胸に深い傷を負った。それから二週間後、彼は死んでいった。表面的には穏やかな死だったが、心は後悔に引き千切られていた。

彼の妻にとって夫の死は耐え難いものだった。彼女は息子のことだけを思い、この世に繋ぎ止められたのだった。パスカルは今や彼女にとってのすべて、現在そして未来そのものだった。この子を一人前の男に育てることを彼女は自身に誓った。

だが、悲しいことに、不幸は決して単独ではやって来なかった。彼女の夫の友人が彼女の財産の管理に当たっていたのだが、卑怯にも彼女が世慣れないのにつけ込んだのである。一万五千リーブルの年利収入のある身であった彼女が、一夜にして破産の憂き目に遭い、その晩から食事にも事欠く有様となった。彼女一人であれば、この惨事にも彼女は殆ど動じなかったであろう。が、これで息子の将来が閉ざされてしまったという考えが彼女を打ちのめした。どうあがいても、この悲劇により、息子が零落という惨めな狭い戸口を通って世の中に出て行くしかない運命に貶められた、と。しかし、マダム・フェライユールには気高い心と誇りがあったので、この極めて厳しい危機に直面するや、己の中に力強い意志を見出した。彼女は無駄に嘆いて貴重な時間を空費はしなかった。この不幸を自分の力で出来る限り跳ね返し、必要ならば肉体労働をしてでも息子がルイ十四世中等学校を中退しなくて済むようにするのだ、と決心した。彼女が肉体労働をしてでも、と誓ったとき、それは単に苦痛に打ちひしがれた故の、あるいは一時的な精神の高揚の故ではなかった。彼女は家事労働をしたり、劣悪な環境でお針子として働いたりし、それは夫が以前出資をしていた会社で監督者として雇われるようになるまで続いた。この地位に就くために彼女は簿記を習わなくてはならなかったが、その努力は十分に報われたと言える。12.8

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