エミール・ガボリオ ライブラリ

名探偵ルコックを生んだ19世紀フランスの作家ガボリオの(主に)未邦訳作品をフランス語から翻訳。

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2020-12-26 09:26:59 | 地獄の生活

彼の仲間の誰かに損害を与えるようなことはしなかった? 誰かの邪魔をしたとか?……よくよく考えてみるのよ……お前の職業にはそれなりの危険がついて回るものよ。お前を酷く憎む敵を作ることだってある。弁護士というものは相手側の虚栄を容赦なく攻撃しなくてはならないときがある。そういった破廉恥な事件の一つに関係があるのではないかしら……」

パスカルは身震いした。闇の中に一筋の光が射すのを感じた。弱々しく、何か入り混じったような光ではあるが、それでも希望には違いなかった。

「そうだ、何だってあり得るんだ……」と彼は呟いた。

フェライユール夫人はじっと考えに沈んでいた。熟考の所為か、あるいはその考えの性質のためか、彼女の顔は紅潮してきた。

「母親にも羞恥心を捨てて向き合わねばならないときがあるものです。息子よ、お前に恋人がいるとしたら……」

「そんな人はいません」とパスカルは遮って答えた。それから彼は真っ赤になり、少しの間躊躇したがやがて付け加えた。

「ですが、健全な愛情を捧げ恋しく思っている女性はいます。この世の中で一番美しく、一番純潔な乙女です。彼女は、お母さんに値するような賢明さと良い心の持ち主です……」

夫人は重々しく首を振った。この退廃した犯罪の奥には女がいるに違いないと予期していたかのようであった。彼女は尋ねた。

「で、その娘さんは誰なの? 名前は何と?」

「マルグリットです」

「マルグリット何という名前?」

パスカルの狼狽は大きくなった。

「彼女にはそれ以外の名前がないんですよ」と彼は早口で答えた。「彼女は両親を知らないんです。かつては僕たちと同じ通りに住んでいました。年を取った家政婦のマダム・レオンと一緒に。その頃僕は初めて彼女に出会ったんです……現在彼女はクールセル通りのド・シャルース伯爵の舘に住んでいて……」

「どういう名目で?」

「その伯爵が彼女を庇護しているんです。彼女が教育を受けられたのもその伯爵のおかげなんです。保護者みたいなもので……彼女自身の口から聞いたのでなければ、ド・シャルース氏は彼女の父親だと思っていたところです」

「で、その娘さんもお前のことが好きなの?」

「ええ、そう思います。彼女は僕以外の男とは決して結婚しないと誓ってくれています」

「それで、その伯爵は?」

「何も知りません。何も怪しんでいないようです。

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