……僕は毎日、今日こそお母さんに全部打ち明けて、ド・シャルース伯爵に会いに行っていただこうと思っていたんです。……僕の身分はまだとても低いので……その伯爵というのは物凄く金持ちなんです。マルグリットに二百万フランという途方もない持参金をつけるというおつもりらしいのです……」
マダム・フェライユールは身振りで息子の言葉を遮った。
「それだわ」と彼女は宣言した。「そこから、この話は始まっているのよ」
パスカルは立ち上がり、背筋を伸ばした。頬は紅潮し、目には炎が燃え、唇はわなないていた。暗闇を切り裂く閃光がたった今、自分が突き落とされた奈落の深みを照らし出したかのように思えた。
「もしそうだとすれば!」彼は叫んだ。「ド・シャルース伯爵の巨万の富がどこかの卑劣感の強欲を刺激したことはあり得ます……マルグリットをこっそり見張っていて、僕が邪魔者だということが分かる……そんなことがないと誰に言えるでしょう。何百万もの富の輝きがどれほど欲深い人間の心を奪うか、僕だって知らないわけじゃありません……」
実際、金銭欲に捉われた者がどれほど恐るべき手段に訴えることがあるか、彼は他の人間よりもよく知っている筈であった。彼自身の人生はずっと平穏で単調でさえあったが、彼とて伊達に四年も公証人の主任書記をやっていたわけではない。世間での悲惨な経験に触れているうち、あっという間に幻想は打ち砕かれる。共同洗濯場に持ち込まれる汚れ物のように、小売りの不正、相反する利益から生じるいがみ合い、どん底の生活から来る罪障、凶悪犯罪に至るまで、重罪院や軽罪裁判所から流れてくるこれらの事件を扱うことで、人生を知るものだ。
「きっとそうです」フェライユール夫人は尚も言い張った。「私の言っていることは間違ってはいない、という気がするのです。……証拠はなにもないけれど、私は確信しています……」
彼女は考えに沈んだ。
「それに」とパスカルは続けて言った。「なんて奇妙な偶然だろう! 僕が最後に愛するマルグリットと話したとき、何が起こったと思います?……一週間前のことです。彼女はとても悲しそうで、見るからに気が動転していたので僕は驚いてしまったのです。尋ねてみると、最初は話したがらなかったのですが、僕が何度も尋ねたのでついにこう言いました。『いいわ、こういうことなの。私を結婚させようという話が持ち上がっているので私は震え上がっているの。ド・シャルース様は私に何も仰らないけれど、ちょっと前からお部屋に閉じこもって、何時間も若い男の人と話し合っておられることがよくあるのよ。なんでも、その方のお父様から昔大恩を受けたことがあるそうよ……。で、その男の人は、私が同席するといつも、とても変な様子で私をじっと見ているの……』」
「その人の名前は?」
「分からないんです。彼女は言いませんでした。僕は、彼女の話に不安になって、聞きそびれてしまいました。でも、彼女は教えてくれると思います。今晩にでも、もし彼女に会うことが出来なくても、手紙を書きますよ。もし僕たちが考えているとおりなら、秘密は三人の手の中にあることになりますね。そうなったらもう秘密じゃない……」12.27