どうしたらいいのだろう!警察に駆け込むか、パスカルの友人たちの家を一軒一軒尋ね回りたいと思ったが、自分の留守の間に息子が帰ってくるかもしれないと思うと、家を離れる決心もつかなかった。あれかこれかの間で、彼女の絶望的な気持ちは揺れ動いた。その間彼女は控えの間の長椅子にぐったりと身を横たえ、激しい動悸をこめかみに感じながらどんな物音も逃すまいとじっと耳を研ぎ澄ましていた……。
ついに八時半を少し過ぎた頃、まるで酔っぱらいのように階段をよろめきながら上がってくる重い足音が聞こえた。ドアを開けると、息子であった。服は乱れ、ネクタイは引き剥がされ、シャツは破れ、コートも着ず、帽子も被っていなかった……。彼は真っ青で、歯をガチガチと鳴らしていたが、目には何の表情もなく、ただ茫然自失の態であった。
「パスカル、一体どうしたの?」
この声は、まるで時の鐘を叩くハンマーのように彼の精神を打ちつけたようだった。彼は頭のてっぺんから足の爪先までぶるぶると震えた。
「なんでも……なんでもない」と彼はたどたどしく言った。母がなおも質問を浴びせるのから逃げるように、彼は母をそっと脇へ押しやり、自分の部屋へと入っていった。
「まぁ可哀想な子」とフェライユール夫人は呟き、心を痛めると同時にほっと安堵もしていた。「あの子は殆どお酒を飲まない子なのに、昨夜は無理やり飲まされたのね」
フェライユール夫人は大きな思い違いをしていたわけだが、パスカルの精神状態はまさに酩酊者のそれであった。かなり長い間、無我夢中の状態で外界を意識することもなく、酒の酔いよりももっと濃い霧が頭の中に立ちこめていたので、どの道を通って家に帰ってきたか、途中で何をしたか、全く思い出せなかった。彼が家に帰れたのは、習慣という身体の記憶の力による全く機械的なものだった。それでも、シャンゼリゼーのベンチの上に座っていたことはぼんやりと覚えていた。ひどく寒かった。そして巡査が来て彼の身体を揺すぶり、さっさと立ち去らなければ留置場にぶちこむぞ、と脅したことを……。
正確な記憶の最後は、ベリー通りのマダム・ダルジュレ邸の敷居の上で突然途切れていた。階段をゆっくり降りたことはよく覚えていた。玄関ホールに居た召使いたちがさっと左右にどいて彼に道をあけたことも、そして中庭を横切る際、自分が武装するのに用いた大燭台を投げ捨てたことも……。
その後は何も覚えていない……。
通りに出ると突然肌を刺す冷たい外気にびくっとした。あまりに暖かい酒場から一歩外に出たときの酔っ払いのように。おそらく彼があのとき飲んだシャンパンも、この意識の混濁の一因ではあろう。今こうして自分の部屋の中で自分の肘掛け椅子に座り、見慣れた物に囲まれていても、彼はまだ自分を取り戻せないでいた。彼の思考は、まるで水に浮かぶ樹皮のように、彼の意志をするりとかわし、彼から逃げていくかのようだった。どうしようもない無気力が次第に大きくなり、どうにかベッドまで行って身を投げ出す力だけがぎりぎり残っていた。すぐさま彼は深い眠りに落ちた。大きな危険に襲われた際の眠り。死刑囚が処刑の前夜陥るという、あの眠りである。12.14