エミール・ガボリオ ライブラリ

名探偵ルコックを生んだ19世紀フランスの作家ガボリオの(主に)未邦訳作品をフランス語から翻訳。

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2020-12-10 09:42:24 | 地獄の生活

彼女は住居と食事付きで、年に千八百フランを稼ぐことが出来た。そのときから彼女は前向きになった。自分の辛い労働がついに幸せな結末を迎えたと思ったのだ。パスカルは今や寄宿生となっていて、その費用はすべて込みで約九百フランだった。彼女は自身のためには百フラン以上は遣わなかったので、毎年八百フランを貯金することが出来た。それに、息子という存在が彼女にとって望みうる以上の支えとなっていたことも忘れてはならない。母親が愛情のこもった、しかし決然とした口調で次のように言い聞かせたとき、パスカルは十二歳だった。

「私はお前の将来を台無しにしてしまったのよ、パスカル……お前のお父様があんなにも一生懸命働いて築いてくださった財産が今は何も残っていないの……これからお前は自分だけを頼りに生きていくしかないのよ……もう少し大きくなったら、私がぼんやりしていた為にこんなことになったのを、どうかそれほど怒らないで欲しいのよ……」

パスカルは母親の腕の中に飛び込みはしなかった。彼は頭を高く揚げ、誇り高くこう叫んだ。

「お母さん」と彼は言った。「僕は今まで以上にお母さんを愛するよ。そんなことが可能ならばね。お父さんがお母さんのために作った財産を、今度は僕が作ってお母さんにあげるよ。僕はまだ中学生だけれど、もう子供じゃない、男だ……お母さん、見ていて」

この少年が神聖な誓いを立てたことは、すぐに明らかになった。それまでパスカルは優れた知能と素晴らしい能力を持ちながら、それを頼みに時たま気の向いたときしか勉強せず、試験に臨んでいた。だが、このとき以来彼は一時間も無駄にしなかった。彼の立ち居振る舞いは、家族に対して責任を全うする家長のそれとなり、滑稽であると同時に胸を打つものとなった。

「僕はね」と彼は、突然勉強熱心になった彼を見て仰天する級友たちに言った。「もう無駄に長い間学校通いをする暇はないのさ。僕のおふくろが身を粉にして働いていると思うとね」

毎週のちょっとした楽しみのために充てられている小遣いを一スーも無駄遣いしないというルールを自らに課したからといって、彼は不機嫌になったりしなかった。そして彼の年齢にしてはよく発達した如才なさで、自分の不運を卑屈にならずそのまま受け入れることが出来たし、また他人を羨む貧しい者が陥りがちな偽りの遜った態度を身に着けることもなかった。三年連続で選抜試験での優等賞を獲得することで彼の努力は報われた。しかしこの成功も彼を有頂天にさせるどころか、殆ど喜びを与えなかった。

「ただの輝きにすぎないさ」と彼は思っていた。

彼にとって壮大な、第一の野望は、自立するということであった。それは彼がリセの第一学年のときに達せられた。校長の好意により、彼は成績不振者のクラスで補習授業を受け持つことになったのだった。そういうわけである日、マダム・フェライユールがいつものようにその学期の授業料を収めに会計課に行ったとき、会計係は彼女にこう言った。

「何もお支払いいただく必要はございません。おたくの息子さんによって支払はなされております……」

彼女は危うく卒倒するところだった。逆境にあってはあのように力強く耐え抜いた彼女が、幸福を前にするとへなへなとなってしまったのである。彼女はなかなか信じることが出来ず、長い説明が必要だった。すると今度は喜びの涙が目から溢れたのだった。

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