確かに彼が向かった先は裁判所であった。そこで彼の一番の親友を見つけられれば、と期待していた。普段の習慣とは違い、彼は右側の小階段を上っていった。その下には罰金徴収所があり、大きなパ・ペルデューのホール(高い天井を持つ開放的な待合室の機能を持つ大ホール。大勢の人が行き来し、ここで弁護人と依頼人が裁判に臨む前に打ち合わせを行ったりする)に続いていた。
ホールの中央に法服を着た弁護士が数人話をしていた。彼らはパスカルに気がつくとハッとした様子で振り返った。彼らの表情から笑いが消え、明らかな不快を表しながら顔を背けた。
パスカルは理解した。彼は気が狂ったように額を叩き、呻き声を出した。
「ああ、もう……すでに……」
彼は通り過ぎた。その集団の中に彼の友人はいなかった。彼は小会議室に飛び込んで行った。そこには五人の弁護士がおり、パスカルが入って行くと、二人は黙って立ち去った。もう二人はテーブルの上に広げられた書類に全神経を集中させているふりをした。五人目は、探す相手ではなかったが、じっと動かずにいた。この男はルイ十四世中等学校の同級生で名前をダルテルといった。パスカルはまっすぐ彼の方に歩いていった。
「で、どうなんだ?」と彼は聞いた。
ダルテルは彼に、印刷仕立てでまだ湿り気を帯びているが、もう既に何人もの手を経てきたかのようにくしゃくしゃになっているフィガロ紙を手渡した。
「読めよ!」
パスカルは読んだ。
『昨夜、パリの旧第一等星とも称されるマダムDの舘において衝撃的スキャンダル発生』
『錚々たる肩書の名士、裕福な紳士が二十数名集まった場で、ピリリと香辛料のきいたバカラゲームが賑やかに行われた。X氏が実に驚くべき連続勝利をあげていた』
『監視されていた同氏は、驚くべき巧みさで勝利を引き寄せるカードを手札の中に滑り込ませたその瞬間、その場で取り押さえられた』
『証拠を突き付けられた同氏は身体検査をされ、大して抵抗もせず、その夜の仕事の成果である約二千ルイを差し出した』
『このスキャンダルの奇妙な点は、X氏が弁護士であり、パリ裁判所において清廉潔白の士として大いになる名声を得ているということである。しかも不幸なことに、この不祥事はふと魔が射したという一時的犯行に帰することの出来ないものである。予め用意されていたカードの存在が、なによりもまず計画的な犯行を物語っているからである』12.20