エミール・ガボリオ ライブラリ

名探偵ルコックを生んだ19世紀フランスの作家ガボリオの(主に)未邦訳作品をフランス語から翻訳。

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2020-12-19 10:00:38 | 地獄の生活

母親が五、六回ドアのところまで中の様子を窺いにやって来、一度などは部屋の中に入りさえしたが、息子が深い眠りに落ちているのを見ると思わず微笑した。

「可哀想に。仕事以外のことでは、無理がきかないんだわ、この子は。まぁまぁ、目が覚めたら、どんなに驚いて恥ずかしがることかしら……」

やんぬるかな、事はそれほど生易しいことではなかった。目覚めた彼に襲ってきたのは絶望だった。一瞬のうちに、生々しい幻覚のように昨夜の光景がまるごと頭の中に描かれ、現在と未来の姿がくっきりと浮かんだ。彼の思考力はまだ十全なところまで戻ってはいなかったが、思い返し、それについて考察することは出来た。自分の現在の状況を、彼はひるまず真正面から受け止めようとした。

まず最初、一連の出来事が起きたとき、彼は何の疑いも持ってはいなかった。彼は、自分でもそう口にしたように、卑劣な罠に陥ったのである。彼を罠へと押しやったのは誰か?ド・コラルト氏だ。彼はパスカルの右に座り、パスカルが勝つようにカードの『手』を操作した。そのことは明らかであるように思えた。同様に、マダム・ダルジュレもまた犯人を知っていたと思われた。彼女が現場を目撃したからか、あるいは彼女のまた陰謀に加わっていたからか、のどちらにせよ。

しかし、どうしても分からぬのは、ド・コラルト氏の動機であった。どんな理由があって、彼はこのような憎むべき陰謀に加担したのか? その利益は相当なものであった筈だ。というのは、彼がいかさまをしているところを見られ、共犯であることを見破られる危険性もあったからだ。

それに、マダム・ダルジュレの口を封じたのは如何なる理由であろう? それにしても、このような推測をして何の役に立つだろう?厳然たる事実、そしてそれははっきりしているのだが、その陰謀はまんまと成功し、それがどこで計画されたのか、その狙いは何なのかは分からぬながら、パスカルがその犠牲になったということだ。彼は全くの無実であるのに、非難され、更にもっと酷いことにはゲームで不正をしたと皆に思われたことだ。自分は潔白であるのに、それを証明する証拠がないことだ。真犯人を知っているのに、その正体を明かす手段がなく、彼を告発することさえ出来ないということだ。

それが何であれ、この非道な、前代未聞にして理解不能の中傷が彼を木っ端微塵に打ち砕き、弁護士会に席を連ねる道は閉ざされ、彼の将来は露と消えた……。

この出口のない深淵に突き落とされたという結論に、彼は自分の理性がぐらつくのを感じた。自分では何も解決できない状態に陥ってしまうと感じた彼は、ある友人の忠告を求めなければならないと感じた。この考えを固めた彼は急いで服を着替え、部屋から飛び出した。母は彼の動きを窺っており、優しくからかってやろうという気持ちでいたのだったが、息子の顔を一目見て、何か只ならぬことが、しかもそれは息子だけに留まらぬ一家の重大事が起きたことを知った。

「パスカル!」彼女は叫んだ。「一体どうしたと言うの? 何があったの?」

「ちょっとした問題です。大したことではありませんよ」

「どこへ行くの?」

「裁判所です……」12.19

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