事ここに至っては、ウィルキー氏の行動、彼のやり口、自信たっぷりな態度、猫かぶりな様子、諸々の矛盾、すべての辻褄が合った。世の母親の心には息子に対する至高の信頼が根強く存在するものであるが、こうなるとさすがにマダム・ダルジュレの心からもその信頼が消えた。彼女はウィルキー氏の中に底知れぬ計算高さと悪辣さを垣間見て、怯えあがった。彼が他人の意見など気に掛けぬとあれほど胸を張って宣言したのも、子供の頃の負い目を切々と訴えたのも、これが理由だったのだ。彼が求めていたのは母親ではなく、ド・シャルース伯爵の遺産だったのだ……。
「ああそう。それを教えて貰ったってわけなのね」哀れな母親の口調には苦い皮肉が込められていた。そしてイジドール・フォルチュナ氏のことが彼女の頭に浮かび、付け加えた。「この秘密はさぞかし高いものについたでしょうねぇ……成功報酬としていくら払うことになっているの?」
ウィルキー氏は自分が如才ない人間だと自惚れていた。しかし駆け引きに長けた人間とは言えなかった。その証拠に、彼はこの言葉にすっかり狼狽してしまった。だが彼は素早く立ち直った。
「金と引き換えであろうと、無償であろうと」と彼は答えた。「貴女がド・シャルース家の娘であることを僕は知っています。そして貴女が伯爵の唯一の相続人であり、その金額は八百万から一千万フランであるということも。そのことを否定するのですか?」
マダム・ダルジュレは悲しそうに首を振った。
「私は何も否定はしません」と彼女は答えた。「でも、今度は私があなたに教える番です。あなたの計算をおじゃんにし、あなたの楽しみを消し去ってしまうことを教えましょう……私は決心したのですよ、分かりますか。そしてその決心を変えることは決してありません。私は自分の権利を行使しないことにしたのです……。この遺産を受け取るためにはリア・ダルジュレがシャルースの一族であると認めることが必要です……。でも、誰が何を言おうと、私にそれを認めさせることは出来ません」
彼女はこう宣告すればウィルキー氏が目を回し、ぺしゃんこになるだろうと思っていた。しかし、それは間違いだった。
ウィルキー氏が自分一人だけの知恵で対処しなければならなかったのなら、困惑していたことだろう。だが、今の彼にはド・コラルト子爵に授けられた武器があった。従って彼は肩をすくめ、しごく平然として答えた。
「そういうことだと僕たちは貧乏のままですね。そして国が僕たちの金を我が物にすることになる。ですがちょっと待ってください、そうは行きません! あなたがご自分の取り分を放棄するのなら……結構! それはまた頑固なことで、と言うしかありません。しかし、僕の分まで放棄するなんて、それは出来ませんよ……それは酷過ぎます。僕はあなたの息子ですよ。僕は要求します!」3.6
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