先日、平成30年度の文化庁の国語に関する世論調査が発表されました。
その中で「憮然(ぶぜん)」の意味を尋ねたところ、「腹を立てている様子」と回答した人が半数以上を占めていました。
この言葉の本来の意味は「腹を立てている様子」ではありません。
では、「憮然」という言葉は、元々、どんな意味なのでしょうか?
今日はこの言葉の本来の意味について調べることにしました。
「本来の意味」
「憮然」の「憮」は「がっかりするさま」や「失望するさま」を意味し、「然」は、この熟語における接尾語の働きをもっています。
接尾語とは、常に他の語の下について、意味を加えたり、品詞を変化させたり、丁寧さや数など文法上の変化をもたらしたりする語で、「然」は、接尾語として「そのもののような様子であること」を意味します。
広辞苑では「憮然」は、失望してぼんやりするさま。失望や不満でむなしくやり切れない思いでいるさま。と説明しており、
漢和辞典(三省堂)でも、①失意でがっかりするさま。②意外なことにおどろくさま。となっています。
この様に「憮然」の本来の意味は、失望や落胆、又は驚きのためにぼんやりしたり、呆然とする様子なのです。
「調査結果」
この言葉の調査は今回が3回目で、過去には平成15年度と平成19年度に行われていますが、今回の調査を含め、いずれの時も回答者の6割から7割くらいの人が本来の意味ではない「腹を立てている様子」と回答しています。
この世論調査では、「憮然として立ち去った。」という例文を挙げて「憮然」の意味を尋ねています。
その結果は下表のとおりでした。
H30年度 H19年度 H15年度
(ア)失望してぼんやりとしている様子 ・・・・・28.1% 17.1% 16.1%(本来の意味)
(イ)腹を立てている様子 ・・・・・・・・・・・・・・・・・56.7% 70.8% 69.4%
(ア)と(イ)の両方 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6.3% 2.0% 2.7%
(ア),(イ)とは全く別の意味 ・・・・・・・・・・・・1.5% 0.7% 3.4%
分からない・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 7.4% 9.5% 8.3%
この3回のアンケートの結果からは、全ての年代を通じて、本来とは違う「腹を立てている様子」という意味で使う人が、本来の意味である「失望してぼんやりとしている様子」を大きく上回っています。
「誤用の原因」
誤用の原因としては次のことが考えられるということです。
1.「憮然」の「ブ」という音が「ぶうぶう言う」などの「小言や苦情を言い立てるさま」などを連想させる可能性があること。
2.また、「ぼんやりとしている様子」としては「呆然」などを使うのが一般的であるために、「憮然」という語と「ぼんやりとしている様子」という意味が結び
付きにくいこと、などがあるかもしれないということです。
この様なことからか、近年、「不機嫌なさま」という意味を加える辞書も出版されているようです。
精選版日本国語大辞典には、第2版では取り上げていなかった「不機嫌なさま。不興なさま。」を加えているようです。
誤用が一般化すると、辞書も本来の意味ではない解釈を加えることもあるようですね。