2016年のブログです
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小此木啓吾さんの『精神分析のおはなし』(2016・創元こころ文庫)を読みました。
単行本は1999年に出ていたらしいのですが、読みそびれていて、今回、文庫本で初めて読ませていただきました。
研究会などでの講演をまとめたものですが、人生全般の心理的な課題を、いくつかのテーマに分けて、細かく、ていねいに解説をされています。
甘えと自立、対象喪失と喪、さらには、懐かしい、シゾイド人間や自己愛人間のお話なども出てきました。
シゾイド人間と自己愛人間が裏表の関係にある、という指摘は、今回、初めて、気がついて、なるほどと思いました。
このところ、気になっていた対象喪失と喪の問題もさらに考えることができました。
学ぶところの多い本ですが、今回、個人的に一番印象に残ったのは、親が生き残るというテーマ。
幼年期や思春期、青年期をとおして、親子関係において、子どもと親はいろいろと大変なことに遭遇をするものですが、その時に、親がボロボロになりながらも、たいしたことはしなくても、とにかくつぶれずに生き残ること、これが一番大切なことだと力説をされています。
生き残ることの大切さは精神分析で大事なテーマで、たとえば、ウィニコットさんなども、治療者や親がその関係の中で生き残ることの重要性を述べています。
また、ウィニコットさんの場合は、ほどよい親、ほどよい治療者が大切といい、適度の失敗の大切さについても述べていると思います。
もちろん、人間ですから、完璧なことは無理な話で、時々の失敗が当然あるわけですが、それが子どもや患者さんの幻想をやぶり、ほどよい現実感覚をもたらすのだろうと思われます。
このあたりの議論は、とても刺激的で、大切だと思われるので、さらに考えを深めていきたいと思っています。
とてもいい本に出会えたことに感謝します。 (2016 記)
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2023年3月の追記です
ウィニコットさんのいう、親が生き残ること、については、子どもからの理不尽な攻撃に親が報復をしないことが大切、と述べられています。
子どもの攻撃に親が報復をしてしまうと、それは虐待になってしまいます。
そうではなく、親がボロボロになりながらも、子どもの世話をすることで、子どもは親を攻撃したことに償いの気持ちを持ち、それが罪悪感に繋がる、と述べているように思います。 (2023.3 記)