今年のリコのブログ人気ランキング第3位は「松井一恵さんの絶筆」です。
11月15日にアップした記事を再掲載します。
たっちゃんのネームで「Chambre de K.」にフランス語の詩や、手芸、庭の花をブログにアップしてくれていた故・松井一恵さんが死の20日前に病床でスマホを使い書かれた随想は彼女がスマホのメール画面を使い、1400字もの文章を書いていた。スマホのメール画面は1行が20字位だから70行近い文を小さなスマホの画面に病床で打ち込んだことに成る。
この頃は病状も重くなり熱も出ていたのに驚異的な精神力です。彼女は「せめてこれだけは」と人生の完成に向けて最後の力を出し切った事と思います。
松井一恵さんは平成30年9月26日に亡くなられました。享年55でした。
身体(絶筆) 松井一恵
身体というのは不思議なものです。私は四カ月間何も食べていません。必要最低限の栄養素を点滴から摂取しています。後は水です。それでも生きています。それでも生きていた方がいいのか、死んでしまった方がいいのかの選択権がないのです。毎日同じことの繰り返しです。
〇いつまでもこのままで居ていいのかな覚束なき身を思ふ吾あり
病院から出られないという事は、ここで死を迎えるという事です。そうで無ければ、中間病院で、何処かに移されるという事になりますが、腹膜癌などまだよくわかっていない癌患者、まして末期癌患者を受け入れてくれる病院は無いだろうと先生に言われました。主人は、自分と子供の為に生きてくれと言います。確かにこれだけ一生懸命にやってくれる主人を残してさっさと死ぬことは出来ません。しかし、この苦しみは、本人しか分からないと思います。
では何の為に生きているのでしょうか。何かすればいいと先生たちは言いますが、何をしても虚無感ばかりで、何かをしたいという感覚も無くなりました。皆、こんな感じなのでしょうか。比較できない為、私だけではないかとまたまた絶望してしまいます。横になってもしんどいし、起きてもしんどいの繰り返しです。
〇少しでも触ればブザーの鳴るマット無機質な部屋に鎮座まします
足下にはマットが敷いてあります。勝手に動くと危ないからです。従ってベッドの上でしか身動きが取れません。物を取るのも一大事で、どっこいしょなのです。実は、落ちたスマホを取ろうとして、ベッドからずり落ちたことがあるのです。その時、マットが敷いてあって助かりました。ただこれは大変なプレッシャーで、少しでも触るとブザーが鳴り、看護婦さんが飛んで来るんです。何かを取って欲しい時、主人が居なければいちいちナースコールを入れてからになり大変に面倒です。
〇吾は今何もできずに寝るばかり主人が近くにいなければなほ
〇やる気なく頭はぼんやりするばかり美味き物のみただ浮かび来る
それでも美味しい物は食べたい。ジレンマです。結局治らない。何の為に治療を続けるのか。ぐるぐるぐるぐる頭の中で回っています。結局死ぬに死ね無い状態がずっと続いているのです。とても変な感覚です。頭がぼんやりするのは、痛み止めのせいです。急に目が覚めてぼんやりするのがずっと続いているような感覚です。記憶の混濁みたいに嫌な感じが残ります。
こんなに辛い思いをしてまで生きなくてはいけないでしょうか? 最後まで残る疑問であり、最後まで答えが出ない疑問だろうと思います。
〇携帯を見るのも嫌な今のわれ浄土といふをふと思ひをり
【参考】
松井一恵さんは平成30 年5月9日から再入院してみえましたが、 退院する事無くて9月26日に55歳で亡くなられました。彼女は病床でスマホを使い4つもの随想を書き、リコのパソコンに送られてきた横書き原稿を私は短歌誌の3段組の書式(19字X24行の3段)の縦書きに書き換えて掲載原稿としました。
一恵さんの手芸作品の一部です。
バネ口の財布 リサラーソンの猫 ブックカバー 木目込み、無我 通帳入れ
ペアのメガネケース 鍋つかみ ペンケース カメラ入れ 切り絵、雪だるま
木目込み作品、お雛様 2ヵ月掛かって作ったパッチワークの椅子カバー
一恵さんの宝物です。
時の試練に耐えてヒビも欠けも無く水漏れも無いそうです。
エジプトの紀元前2000 ~3000年前のなんとも愛らしい形の壺です。
たっちゃんのお気に入りの宝物です。
インドの象牙製の女神像。これも古そうで年代物らしい。