マイケル・ドズワース・クック『図書室の怪』
VRを使うと、そこに存在しないものを、まるで実在するかのように見ることができるようになった。
石垣しかないのに、スマホを通して見ると、その上にかつて存在した天守を浮かび上がらせるような不思議な体験。
もしそこに、昔処刑された人の姿が不意に現れたりすれば、きっと取り乱す。
ここに収められた4つの物語は、そんな怖い驚きをさせる。日常の風景に隠れている不気味なストーリーを突然見せる。
『図書室の怪』は現代の話だが、中世に建てられた館が舞台になっている。改築を繰り返してきた図書室には何かしら秘密があり、それを当主と友人が調べていく。バールを使って重い石を移動し、当時の姿を露わにすると……。
ひとつの場所でいくつも重なった時代の層と、同じ人間の別の顔と、それらが一気に表出して怖さを生む。丁寧な描写が、重厚感と一層の現実感を醸し出す。
カバーデザインは山田英春氏。(2021)
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