サミュエル・バトラー『エレホン』
カバーの真ん中に四角い穴がくり抜かれ、表紙に印刷された絵が見えている。絵の周囲には金色の額縁があり、真っ黒なカバーの中に浮かび上がる様は、かつて権勢を誇った貴族の豪邸にいる気分にさせる。
英語のタイトル、著者名なども金色で統一されていて、重厚だがやや時代がかっている。
絵が気になるのでカバーをめくってみる。
現れた絵は、カバーの穴から見えていた緑豊かな風景とは違い戸惑う。この絵を使った意味を考えながら読み始めた。
祖国イギリスを離れ、金持ちになることを夢見て入植地で牧畜をする青年。さらに新しい土地を求め、川を遡り、険しい峡谷を進んでいく。氷河から流れ出る濁流の迫力、冒険の描写に、ぼくはしばらく夢中になる。
たどり着いたところは未開の地ではなく、かつて高度な文明を持っていたエレホン国。捕らえられた青年は、その国の言葉を覚え、少し変わったしきたりに慣れようと努力をする。
1872年にイギリスで出版されたこの小説は、2020年の現代を反映させたかのような記述がある。著者が未来を見据えて書いたのか、それとも当時のイギリスを書いたら現代に通じる風刺になってしまったのかはわからない。
エレホン国の法律や考え方は理解しにくく、ギャグなのかと可笑しくなったりもするが、わからないでもない部分もある。
ただ小説として書かれているはずなのに、その説明が論文のようでちょっと退屈することもあった。
装丁は新潮社装幀室。(2020)
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