クラリッセ・リスペクトル『星の時』
カバーの端、かすかに見えるピンクの表紙に、小さな青い点が散らばっている。
カバーにも同じ大きさの点が全面に撒かれていて、タイトル『星の時』の星をイメージしているとわかる。
カバーを外して表紙を見ると、当然ここにも青い点が印刷されている。
表紙のクロスが、宇宙というより、室内の装飾を思わせる。
カバーがまとっている壮大な宇宙感が、突然貧弱になる。
カバー紙の質感は、どことなく包装紙を感じさせる手触りで、本全体が本とは異なる物の匂いを漂わせている。
物語に登場するのは、タイピストの女性マカベーアとその彼氏オリンピコ、彼女の同僚グローリアなど少ないが、それぞれが強烈な印象を与える。
そこに作者がちょくちょく現れ思索をする。
マカベーアが初めてオリンピコに会ったとき、名前を聞かれ答えると、「病気の名前みたいですね。肌の病気の」と言われる。
鼻持ちならないオリンピコの言いようだが、マカベーアの返答は頓珍漢だ。
無知で孤独なマカベーアを可哀想に感じ同情しそうになるが、作者はそんな気持ちを許さない。
描写を重ね、さらにつまらない女性にする。
その一方、作者は「マカベーアに恋している」と言う。
「みにくさに、まったく取るに足りないところに恋している」と。
作者の自分語りは、最初のうちは鬱陶しく感じるのだが、次第に待ち望むようになる。
何を読まされたのだ? という疑問が残るのに、後味は悪くない。
装丁は佐々木暁氏。(2022)
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