中国迷爺爺の日記

中国好き独居老人の折々の思い

街灯と稲

2010-02-05 11:59:05 | 身辺雑記
 広島県庄原市で路灯の光で米が不作になったとして、市が農家5軒に計14万円の賠償金を支払ったというニュースを読んだ。

 この記事で思い出したことがある。かつて高校で理科の生物の教師をしていた時、週に1回開く理科の教科会議の場で、ある物理の教師が話したことだ。家の近所に田圃があり、その中を通っている道は夜は暗いので街灯を取り付けたところ、その田圃の持ち主の農家から、米の実りが悪くなるから消してほしいという申し出があったそうだ。「そんなことなんかあるものかと相手にしませんでした」とその教師は少々息巻くように話したが、私は「いや、それは違いますよ。農家の言うことが正しい」と言って説明した。

 生物には光周性という現象があって、植物で昼の長さ(明期)と夜の長さ(暗期)の変化に応じて、生殖活動や開花結実などが影響される。たとえばホウレンソウやダイコン、キャベツなどのアブラナの仲間やコムギやサクラなどの春咲きの花は、昼の長さが長くなると開花するので「長日植物」と言う。それに対してコスモスやキク、タバコ、ソバなどは日照時間が短くなると開花し結実するもので、晩生種のイネも同じで、「短日植物」と呼ぶ。

 最近のイネは早く植えつけて早く刈り取るから、どちらかと言うと早生(わせ)なのだろうが、かつては晩生(おくて)のものが普通だったように思う。物理の教師の家の近くの田圃のイネも晩生だったのだろう。そうすると自然のままだと秋が近づいて日照時間が短くなると開花し実を結ぶのに、街灯の光でずっと照らされていては、それがうまくいかなくなる。

 こんなことですから農家からの苦情も理がありますねと言うとその教師はびっくりしたが、根はさっぱりとした性格なので「そうですか。悪いことを言ってしまったなあ」と少々しょげてしまった。その後どう決着したかは知らない。

 生物の営みは日照時間に影響され、動物でも春になり日が長くなると、生殖腺が活動しだして体内の性ホルモンの分泌量が高まり、春の生殖の時期になる。温度よりも日照時間のほうが影響は大きいのだそうだ。気温が主たる要因だと、年によって寒暖が乱れると生殖活動も乱れるので、種の保存には好ましくない。自然界の仕組みは巧みにできているものだと思う。