蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

胡蝶の夢

2023年12月22日 | 本の感想
胡蝶の夢(司馬遼太郎 新潮文庫)

将軍の御典医の養子になった松本良順は、漢方医学に見切りをつけて長崎の医学校でオランダ人のポンべに学び、蘭方医となる。その後、近藤勇らと知り合い、戊辰戦争に軍医として従軍する。
佐渡ヶ島出身で良順の弟子となった島倉伊之助は、語学の天才で、オランダ語の他、英語、ドイツ語なども流暢に操ることができたが、対人関係を築くことが極端に苦手で、能力を活かしきれない。
やはり長崎でポンベに学んだ関寛斎は、徳島藩の藩医となり、藩主蜂須賀斉裕の信頼を得るが、斉裕は亡くなってしまう。その後、薩長側の軍医となるが、晩年は北海道開拓に取り組む。
三人を中心に、江戸政権下の身分制、幕末の医学や語学の状況や政治情勢を描く。

「種痘伝来」を読んで、ずいぶん昔に読んだことがある本書を再読したくなった。めまぐるしいストーリー展開や派手なキャラ設定がないので、若い頃はさほど面白く感じられなかった。
しかし、時を経て今読むと、この地味な物語やこまごまとしたエピソードがしみじみとしみてくるのが感じられた。
天才なのにチグハグなふるまいしかできない伊之助、
学問的衝動にとりつかれて江戸での安定した地位を捨て、長崎でオランダ人に学ぼうとするほどの学究肌なのに芸者遊びが大好きな良順、
聖人のような生涯をおくり、当時としてはとても長生きしたのに、自殺してしまう寛斎。

中盤くらいまでは端役程度だった寛斎が、最後の方で大きく取り上げられている。描いているうちに作者もその人格に見せられていったのではないか、と思わせた。

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