ブクログより
地球の裏側にある、一度聞いただけではとても発音できそうにない込み入った名前の村の近くで、日本の旅行会社が企画したツアーのバスが拉致された。バスには日本人が8人乗車していた。
犯人人グループは政府を相手取る、ゲリラ。
ゲリラと政府軍との交渉は長引き、遠い国のこととてやがて人々の記憶が薄れかけた頃、軍の特殊部隊がアジトに強行突入、激しい銃撃戦となり、その場にいた犯人グループは全員射殺、人質8人は犯人が仕掛けたダイナマイトにより全員死亡・・・という痛ましい結果に。
その後現場から、細かく文書がぎっしり書かれた板きれや、壁などが発見される。
そののち政府側が差し入れ時に偲ばせておいた盗聴器によって録音されたテープが公表された。
人質が時間に任せて、一人ずつ語り合った朗読が入っていた。板きれなどに書かれていた文章はその下書きと見られた。
以下の章は8人の人質の朗読の内容である。
今まで生きてきた中でのほんの一コマであったり、特異な体験の模様であったり、その人の人生そのものであったり、非常に興味深く引き込まれて読んでいくうちに、どういう状況で、誰が語っているのかわからないまま読み終わると、巻末に誰それ、職業、年齢、今回このツアーに参加した理由、が記されていて改めて おっ、これは人質になった人の朗読なんだ、とその都度現実に引き戻されるということの繰り返しだった。
聞き手は人質同士と、見張り役の犯人たち、そして盗聴器の向こうにいる特殊部隊の一員だけ。
毎回控えめな拍手とともに始められる静かな静かな朗読会、それは犯人や人質などの立場を超えたある種の一体感を持った、まるで憩いのひとときのようだ。
しみじみとした何とも不思議な読み物に出会った。
人質の朗読会 / 小川洋子
★★★★☆