ブクログより
本文より
「托卵といってな、カッコウは他の鳥の巣にそっと卵を産み付けて孵化させる。自分が生んだ卵を育てさせるんや。
そうとは知らない仮の親はけったいな雛が生まれてもわが子と思って大切に育てる、つまり偽装の技や。
インテリジェンス・オフィサーとは業績を上げなくても、また大きな成果を上げても世間には公表されることもなく、すべての行動は機密のベールに包まれている。
托卵を巧みにやり遂げたカッコウも、失敗したカッコウも素知らぬ顔をしている。
俺たちは皆戦後ずっと、鳴かずのカッコウとして生きてきた。だがお前らは必ず世間から必要とされる時が来るはずや。堂々と翼を広げ、思い切って飛んでみろ。」
主人公の梶壮太は、神戸公安調査事務所に公安調査官として勤務している。
国内では、右翼団体、カルト系組織、左翼系過激派など、また海外では、北朝鮮、中国、ロシア等の動向の監視、国際的テロ組織の国内浸透の監視等が主な調査対象だ。
一部の親族以外には一切身分を明かすことは禁じられ、組織名を記した名刺も持てないという事実に、何となくこの仕事に着いた梶はまず戸惑った。
やる気のなさそうなつかみどころのない梶だが、その類まれなる記憶力などを駆使して、神戸を舞台に地味に活躍する。
そう、とにかく目立たなくて、存在感のない彼はこの調査官にうってつけだと変な褒め方をされてつけられたあだ名も「ジミー」
船を巡っての話で、舞台も神戸、アメリカ、中国、ウクライナ、イギリス等々国際色豊かに話は進んで行く。
重大で、大変な事態のはずなのに、全然重くならずになぜか飄々と話は終わってしまった。
そうしてすべてが終わって、またそれぞれ新しい場所へ飛び出そうとする部下たちに上司が送った言葉が、上記の言葉だ。
かなりむつかしい内容もあるんだけど、登場人物が皆共感できる味のある人たちばかりで、そういう人たちに導かれて読めてしまった。
外交ジャーナリストの手嶋龍一さんならでは!
鳴かずのカッコウ / 手嶋龍一