先日から話題になっている久保校長の松井市長への「提言」に関する朝日新聞の次の記事を、あらためて先ほど読み直しました。すると、ある一文にひっかかりました。まだだれも他の研究者たちもひっかかってないようなので、指摘しておきます。
「学校は混乱極めた」 現職校長、実名で大阪市長を批判
https://digital.asahi.com/articles/ASP5N6HGBP5NPTIL00F.html
(2021年5月20日付け朝日新聞デジタル記事、ネット会員限定記事)
この朝日新聞の記事のなかに、次の一文があります。
「自身が大阪府知事だった時代に府教育基本条例を成立させ、教委でなく首長が教育目標を決められる形を作ったことも説明した。」
いま、松井さんは大阪市長であって、府知事ではありません。
政令市としての大阪市の教育行政は、基本的には府の教育行政から別建てのはずです。別自治体の大阪府の条例など「関係ない」としかいいようがないです。
松井市長はどうもまだ気分は「大阪府知事」のようで、「大阪市長」ではない感じですね。
そこからして、何か勘違いしていますね、松井市長。
また、「大阪市教育行政基本条例」第4条では、次のように定められています。
この条例上、市長が勝手に教育振興基本計画を決められるのではなくて、「市教委との協議」「市議会(市会の議決)」が必要です。また、「学識経験者の意見聴取」「市民の意見の反映のための措置」も必要です。
こういう条文、松井市長は読んだのかしら? 公用車でのスパ通いで忙しくされていても、月に数日しか市役所に出勤できないほど多忙であっても、このくらいは読めるでしょう。
※なお、予想される市長や市教委側の反論として、「総合教育会議で(自分たち好みの学識経験者である)特別顧問の意見と、市教委の意見(市長の気に入るような提案をするような話)を聴いた」「(あんまり誰にも気づかれないうちに)パブリックコメントを求めて市民の意見を聴いた(その上で、都合のいい意見だけ振興計画に反映させた)」「市議会(市会)の意見も聴いている(市長支持の維新が多数派ですけど)」があると思います。この点は別途、検証します。
(教育振興基本計画の策定手続)
第4条 市長は、教育委員会と協議して、教育振興基本計画の案を作成するものとする。
2 教育振興基本計画は、市会の議決を経て定めなければならない。
3 市長は、第1項の規定による協議が調わなかったときは、教育委員会の意見を付して教育振興基本計画の案を市会に提出しなければならない。
4 教育振興基本計画には、次に掲げる事項を定めるものとする。
(1) 本市における教育の振興のための基本的な目標及び施策の大綱
(2) 前号に掲げるもののほか、本市における教育の振興のための施策を総合的かつ計画的に推進するために必要な事項
5 市長及び教育委員会は、教育振興基本計画の案を作成するに当たっては、その基本的な事項についてあらかじめ学識経験を有する者の意見を聴くとともに、市民の意見を反映するための適切な措置を講ずるものとする。
6 市長は、第2項の議決があったときは、遅滞なく、教育振興基本計画を公表しなければならない。
7 前各項(第4項を除く。)の規定は、教育振興基本計画を変更する場合について準用する。
さらにこの「大阪市教育行政基本条例」第5条では、次のように定められています。
たとえば「オンライン学習」実施にあたって、市民に向けてどのような説明をしたのか。また、その施策がどのような意味で「子どもの最善の利益」に合致すると考えていたのか。その市教委及び市長は、自分たちの責任が問われますね。
それこそ、一度でも緊急事態宣言発出時の「オンライン学習」導入にあたって、市長や市教委は住民向けの説明とかしたのかしら? あと、まだ調べていないのですが、その緊急事態宣言発出時の「オンライン学習実施」は、いまの大阪市の教育振興基本計画に出ていることなのかしら? 「大阪市教育行政基本条例」を読むと、なぞは深まるばかりです。
(開かれた教育行政)
第5条 本市は、市民に対し、本市における教育の振興のための施策について説明する責任を果たし、保護者及び地域住民その他の関係者(以下「保護者等」という。)との連携及び協力を図り、並びに子ども及び保護者の判断及び選択を支援する等により、教育の振興に資するため、子どもの最善の利益に反しない限りにおいて、本市における教育の状況に関する情報を積極的に提供するものとする。
2 本市は、子どもの最善の利益を実現するために、市民の意向を的確に把握し、教育行政に適切に反映させるよう努めなければならない。
あわせて、先ほどの「大阪市教育行政基本条例第5条第2項」を読む限り、「子どもの最善の利益」実現のために、市長や市教委は常に子どもも含めた「市民の意向」を的確に把握し、教育行政に反映させなければなりません。
たとえば「教育振興基本計画」つくるときに、大阪市では子どもを含めた「市民の意向」の把握、それをどこまで今までやってきたのか? それこそ「オンライン学習」を緊急事態宣言発出時に実施するという方針を決める際、そういう手続き踏んだのかしら? この条例の一文がある限り、市長や市教委のあり方が問われます。
また、この一文が大阪市教育行政基本条例あるかぎり、常に大阪市の教育振興基本計画を含め、大阪市教委や市長の実施する教育施策は本当に「子どもの最善の利益」実現に即したものなのかが問われます。
これにくわえて、このたびの新型コロナ禍における各国政府の対応に関して去年4月、「国連・子どもの権利委員会:新型コロナ感染症(COVID-19)に関する声明」がでています。
その「声明」のなかには、次のような内容が含まれています。
・今回のパンデミックが子どもの権利に及ぼす健康面、社会面、情緒面、経済面およびレクリエーション面の影響を考慮すること。
・子どもたちが休息、余暇、レクリエーションおよび文化的・芸術的活動に対する権利を享受できるようにするための、オルタナティブかつ創造的な解決策を模索すること。
・オンライン学習が、すでに存在する不平等を悪化させ、または生徒・教員間の相互交流に置き換わることがないようにすること。
・今回のパンデミックに関する意思決定プロセスにおいて子どもたちの意見が聴かれかつ考慮される機会を提供すること。
このたびの緊急事態宣言下での市長「要請」による「オンライン学習」実施や、それで授業時数が足りなくなって急遽「50時間やれ」という指示を市教委が出すことが、はたしてこの上記の国連子どもの権利委員会の声明や「子どもの最善の利益」に即して適切なのかどうか。「大阪市教育行政基本条例」第4条の趣旨に則って、あらためて市議会は検証すべきだと思います。
と同時に、そういう問題提起だと久保校長の「提言」を受け止めた場合、責任を問われるべきは本来、松井市長と市教委上層部、さらには総合教育会議に関わってオンライン学習導入を提案した特別顧問らの側であって、久保校長ではありません。
したがって、維新の市議で久保校長の「処分」の件を大阪市会の方でちらつかせた人がいますが、その人の見識も疑われてしかるべきです。そもそもその市議も、「大阪市教育行政基本条例を読んだことがあるのか? 自分の都合のいいところしか読んでないのではないか?」と、私などは見識を疑います。
<追記>この件は今後も先ほどの「検証」等の作業が進み次第、折にふれてブログやフェイスブック等で情報発信を行います。