できることを、できる人が、できるかたちで

京都精華大学教員・住友剛のブログ。
関西圏中心に、教育や子ども・若者に関する情報発信を主に行います。

「私たちはタコツボのなかに居る」という自覚の大切さ

2010-03-08 14:36:38 | 受験・学校

このところ、自分の研究上の必要性や、あるいは前回も書いたように、大阪市内の青少年会館条例廃止後の子どもや保護者の状況を把握する調査プロジェクトの報告をまとめている関係で、たとえば児童館・学童保育や子どもの学校外活動(社会教育)に関する文献や、社会福祉系の研究者の手による「学校ソーシャルワーク(School Social Work 略してSSW)」に関する文献をよく読むようになった。

正直なところ、もともと不登校の子どもたちへの社会的支援活動を入り口にして、「子どもの人権」に関することを研究や社会的実践活動のテーマにしてきた私にとって、こうした分野に関する諸研究は、近接する領域とはいえ、一応「異なる研究領域」ではある。そういう近接する諸領域との連携で研究や社会的実践活動をすすめる上で、私が常に意識していることは、「相手の領域ですすめられてきたことに、敬意を払う」ということである。

ただし、これはもともと「そうすべきだ」と思ってきたわけではなくて、今は亡き大学院生時代の指導教授・岡村達雄氏(関西大学)が、私の研究テーマが不登校だと知って以来、ずっと言い続けてきたこと。

私が大学院生で、修士論文を書く時期だった1990年代前半あたりでいえば、その頃の不登校研究の動向を考えたときに、たとえば児童精神医学や心理学系の研究の分厚さ、その方面からの情報発信の量的な多さに比べて、まだまだ教育学系での研究はそれほど多くない状況だった。

その状況のなかで亡き岡村氏が当時、くりかえし言ったのが、「せめてその近接領域でどのような議論の蓄積があり、どのような経過のなかで、どのような論点が形成されていったのか。そのくらいは調べて、その近接領域での研究の蓄積に敬意を払わないと」ということだった。

結果的に私の修士論文は、亡き岡村氏に言われたことをふまえながら、まずは過去の心理学や児童精神医学系の不登校研究史をていねいにふりかえり、時期区分をしながら、その時々の教育行政当局の長期欠席児童生徒対策事業との関係や、生徒指導関連の施策との関係を見ていくという内容になった。

その結果、私の修士論文は、結果的に、教育制度・政策に関する教育学の研究と、児童精神医学や心理学の研究との「架け橋」をつくるものになったわけである。

その経験をふまえてあえていうならば、SSWに関する研究も現在、社会福祉学系の人たちが中心となってすすめられているが、私などがSSWに関する研究に取り組む場合は、社会福祉学の側でどんなことが今まで言われてきて、そこで何が論点として形成され、何が課題として残っているのか。まずは、それを冷静に、自分なりに把握する作業が大事になると考えている。だからこそ、あらためて今、私なりにソーシャルワークの基礎理論などに関する文献を読んで、「なるほど、そういうことか!」と思うことが多いわけである。

と同様に、その社会福祉学系の人たちには、たとえば「既存の教育学の方でどんな研究・実践がこれまですすめられてきたのか。また、その研究や実践のどこに今、課題があって、どういう論点があるのか」といったことについて、それ相応に理解して研究をすすめてほしいと思っている。たとえばSSWで学級崩壊や不登校、非行等のケース対応に取り組むのであれば、従来の教育学における生徒指導論や学級経営論などで、こうしたケースについてどんな対応が重要だといわれてきたのか、そこを社会福祉学の側から研究をすすめる人たちも知っておいてほしいと思うのである。

少なくとも、教育学の側にいるのか、社会福祉学の側にいるのかは別として、「私たちはお互いに、自分の専門領域というタコツボのなかにいる」ということの自覚が、今、教育・福祉の連携に関する研究には必要なのではなかろうか。そして、連携の相手方でどんな議論や研究がすすめられてきたのかについて、まずは冷静に状況を把握する作業が大事なのではなかろうか。

そういう意味では、今、SSWの関係者が実際の担い手養成のとりくみのなかで、教育社会学その他の教育学系の知識を学ぶ機会を作ろうとしている点に注目をしたい。ただ問題は、教育学の側から他領域の人々に、今までの自分たちの取り組み等々をきちんと説明するだけの準備があるのかどうか。また、SSWの関係者が求めている教育学的知識の中身がなんなのか。そういう課題もあるのだが。もちろん、私は先方からお呼びがかかれば協力したい気持ちはあるし、また、教育学の研究者のひとりとしてSSWに関する議論や研究のありようを見ていて、いろいろ気づいた課題などについて、指摘もしようとは思っているのだが。

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