先日、新国立劇場のオペラ「ラインの黄金」と「ワルキューレ」を観てきました。
このオペラはニーベルングの指輪4部作、キースウォーナー演出のトーキョーリングと呼ばれるもので、数年前に初演されたものの再演です。
初演時には、1作目の「ラインの黄金」から4作目の「神々のたそがれ」まで、それぞれ1年に1作のペースで4年かかって上演されたものです。
今回は1年に2作づつの上演です。初演のときに、「ラインの黄金」は見逃してしまったので、初見になります。
初演の際、最後の「神々のたそがれ」のラストで家族で8ミリビデオを上映しているシーンがあり、この意味が分からなかったのですが、今回、「ラインの黄金」を観て、ようやく意味がわかってきました。
「ラインの黄金」はオープニング時とラストに8ミリビデオの映写機が置かれていて、ドンナーだったかフローだったか忘れましたが、ラストシーンでしきりにビデオカメラを回していましたし、「ワルキューレ」ではヴォータンが映写機を回していたり、劇中の重要なアイテムとして登場します。
「ワルキューレ」のセットは部屋や地面を俯瞰で撮影しているように置かれていて、作品自体が、カメラというフィルターを通して映し出されたことを表しているようです。
「ラインの黄金」のオープニングでは、ラインの乙女たちと、アルべリヒのやり取りが映画館と思しき場所で行われていることからも推測されます。
また、あちこちで出てくる、やじるしなどの記号は初演時にはとても違和感があったのですが、物語や人物の方向性を示すものとして象徴的に使われてるのだということが判明。
二度目にして、やっと演出の意図が見えてきました。
「ワルキューレ」で最も印象的だったのは、3幕のワルキューレの騎行のシーンが、救急病院を思わせるセットで、ストレッチャーに乗せられた勇者がドアを開けてワルハラへ向かうという設定。
最初見た時は印象的でしたが、さすがに2度目だと感動は薄くなりますね。
オーケストラに関して、初演時は準メルクル指揮のN響でとてもよかった印象があったのですが、今回はちょっと期待外れでした。
昨年、この劇場で東京交響楽団演奏の「さまよえるオランダ人」を見てガッカリした覚えがあったので、ワーグナーを得意とする東京フィルハーモニーならいいのではと思ったのですが。
演奏はワーグナーっぽいのですが、どうも何かしっくりこないところがあります。
「ラインの黄金」は1幕ものなので、場面転換の時、曲調の変わり目の出だしのタイミングが遅くて、毎回イラっとさせられました。
そのため、だらだらと間延びして緊張感に欠ける舞台になってしまっているように感じます。
たぶん、オーケストラではなく、指揮者の問題なんでしょうね。
「ワルキューレ」では、最初のシーンで大音量、思わず音酔いしてしまいました。
その割にワルキューレの騎行では控え目な音、この辺もしっくりこないですね。
キャストについては結構よかったように思います。
「ラインの黄金」でフライアを演じた蔵野蘭子さん、確か初演時には「ワルキューレ」のジークリンデを演じていたはずですが、今回は出番が少ない役で残念です。
ダン エッティンガーの指揮も、何かを表現しようとしているということはわかるのですが、いまひとつピンとこない感じで、楽劇というより、一生懸命オーケストラが伴奏しているように聞こえます。
できれば、このキャストで、別の指揮者でN響の演奏だったらよかったのに。
来年の「ジークフリート」「神々のたそがれ」に期待しましょう。
新国立劇場では新製作も相次ぎ、いろいろな試みがなされているようですし、出演するキャストのレベルも上がっているような気がします。
客席もほとんど空席がなく、客の入りもいいようです。
オペラパレスの愛称もでき、少しづつ、世界的なオペラ劇場へと成長している感じがします。
いつか、この劇場もイタリアやドイツなどに引っ越し公演を行うようになるのでしょうか。
期待したいものです。できれば、私の生きているうちに実現してほしいですね。
ヨーロッパでは、たくさんのオペラハウスが資金難に苦しんでいますが、一流の劇場を維持するためには国の援助は不可欠です。
不況だからと言って、国の援助が減らされるないことのないようにしてもらいたいものです。