マイアミの貧困地域を舞台に、孤独な少年が心の拠り所を求めて成長していく過程を、少年期、青年期、成人期の3部に分けて描いたヒューマンドラマ。監督は本作が長編2作目となるバリー・ジェンキンス。2017年アカデミー賞作品賞、ゴールデン・グローブ賞映画部門・作品賞(ドラマ部門)を受賞。
マイアミの貧しい黒人街、リバティシティ。内気な少年シャロンは、学校ではいじめられ、家では麻薬中毒の母親から放置され、行き場のない苦しみを抱えていましたが、幼なじみのケヴィンが彼を何かと気にかけてくれるのが唯一の救いでした。
ある時シャロンは、いじめっ子から逃れて隠れているところをフアンという男性に助けられます。フアンとその恋人テレサは、シャロンに父母のような愛情をもって接してくれますが、のちにフアンが母親に薬物を売るディーラーだと知り、シャロンは絶望に打ちのめされます。
舞台はマイアミやアトランタの貧困地区で、登場するのは麻薬や暴力と背中合わせの過酷な世界で生きている黒人たち。貧困、いじめ、ドラッグ、育児放棄、同性愛など、この映画で描かれるテーマは、正直どれもとっつきにくく、見る人を選ぶ作品だとは思いますが、私は静かに心揺さぶられ、感動を覚えました。
生きるのにせいいっぱいの厳しい世界で、何かよくないことが起こりそうな予感にどきどきしながらスクリーンを見守っていましたが、過激なシーンは意外にも少なく、ふりかえると静謐で詩情あふれるシーンばかりが思い出されます。バロック音楽を思わせるヴァイオリンの美しいメロディも印象深く、心に残りました。
この作品の魅力をひとことで説明するのは難しいですが、私はいつしか主人公の孤独な心に寄り添い、気がつくと涙がこぼれていました。そういえば隣にすわっていたドレッドヘアの黒人女性も、ずっと鼻をすすっていましたが、単に花粉症だったのかもしれません。^^;
これは小さい頃から愛を求めては裏切られてきたシャロンが、心のよりどころを見つけるまでの物語。
母親は彼を愛してはいたけれど、薬物におぼれ、まともな育児ができる状態ではなかった。父親のようにかわいがってくれたフアンは、薬物がらみのトラブルで、彼の前から姿を消してしまった。そして唯一の友人ケヴィンとは、ある事件がきっかけで、決定的に仲を引き裂かれてしまった。
傷ついた心を頑強な鎧で覆い、せいいっぱいに強がって生きてきたシャロンのこれまでの人生を想像すると、それだけで泣けてきますが、最後に自分の心に素直に向き合うことができてよかった、と心から思いました。