5歳で迷子になったインドの少年が、養子として育ったオーストラリアから25年の歳月を経て、Google Earthを使って生まれ故郷を探し出したという実話に基づくドラマ。デヴ・パテル、ニコール・キッドマン、ルーニー・マーラが共演。
1986年、インドのスラム街で暮らす5歳の少年サル―は、兄と仕事に出かけた先の駅でひとり眠りこけてしまい、その後乗り込んだ電車に運ばれて、コルカタまで行ってしまいます。言葉の通じない遠く離れた大都市で、数々の危険をくぐり抜けて孤児院に入ったサル―は、その後オーストラリアに住む夫婦に養子に出されます。
養父母のもとで愛情たっぷりに育てられたサル―は、成人した今、自分がインド人ということすら忘れていましたが、インド人の友人宅で懐かしいお菓子を目にして、インドにいる実の家族に思いを馳せます。遠い記憶を頼りにGoogle Earthで故郷を探し始めたサル―は、とうとう自分が5歳まで育った町を見つけます。
いくつもの奇跡が重なり合って起こった信じられないようなほんとうの話ですが、映画は予告で見た通りの展開で、やや凡庸に感じられたのが残念でした。もっと映画ならではのおもしろさを生かしたら、ラストに大きなカタルシスを得られたのではないかと個人的には思いました。
子どもから目を離したら誘拐されると信じていた私には、駅のホームに5歳の子どもを置き去りにするなんて考えられませんが、そこには家族総出で働かなくてはならない貧しいインドの家庭の事情がありました。年間8万人もの子どもが行方不明になるというインドの背景には、貧困、児童労働、人身売買など、さまざまな社会問題があることがうかがえました。
列車に乗って遠くコルカタまで運ばれてしまったサル―のその後は、まるで「スラムドッグ$ミリオネラ」の映画そのもの。サル―は行く先々で人さらいに狙われますが、その度に機転を働かせて逃げおおせます。やがて親切な若者の助けで孤児院に入ることになりますが、その孤児院さえ決して安全とはいえない場所でした。
サル―は故郷を遠く離れることにはなりましたが、オーストラリアの愛情豊かな夫婦に育てられたのは、類まれな幸運に恵まれたといえるかもしれません。
養父母は、サル―の他にマントッシュというもうひとりの養子を迎えます。利発で素直で育てやすいサル―と比べると、マントッシュは幼少期のトラウマからか、癇の強い難しい子どもでしたが、どちらの子どもにも等しく愛情を注ぎ、大切に育ててきた養父母の寛大さに心を打たれました。
地図オタクでテクノロジー好きの私は、Google Earthを使って故郷の町を見つけるまでの過程を楽しみにしていたので、意外にあっさりと描かれていたのが少々物足りなく感じましたが、監督はそれよりもサル―の苦悩にじっくり向き合いたかったのでしょう。
自分が何不自由なく暮らしていることを、実の母親に対して後ろめたく思う気持ち。一方では立派に育ててもらったのに、養母を傷つけてしまうのではないかと申し訳なく思う気持ち。しかしその心配は杞憂でした。2人の母親は、サル―が今、幸せに生きていることが何よりの喜びだったのだと思います。