スピルバーグ監督、メリル・ストリープ&トム・ハンクス主演。ベトナム戦争を分析・記録したアメリカ国防総省の最高機密文書、通称ペンタゴン・ペーパーズの存在を告発したワシントン・ポストのジャーナリストたちの奮闘を描いた、実話に基づくドラマです。
ベトナム戦争が長期化していた1971年、戦況を分析・記録した国防省の最高機密文書がある調査官によって持ち出され、ニューヨークタイムズがスクープ。大統領4代の長きにわたって事実が隠蔽され、結果として戦争の泥沼化を招いたことが明らかになります。時のニクソン大統領はこれが機密漏洩に当たるとし、記事の差し止めを要求します。
これを受けてワシントンポストの編集主幹ベン・ブラッドリー(トム・ハンクス)も文書を入手し、記事を書き上げますが、告発すればニューヨークタイムズと同じく処分を受けると危惧されます。亡き夫に代わり社主に就任していたキャサリン・グラハム(メリル・ストリープ)は、会社の経営と報道の自由をかけて厳しい決断を迫られますが...。
アメリカに住んで驚いたことのひとつが、(USA Today以外)新聞に全国紙がないということ。しかもローカル紙は地域ごとにかなり細分化されているのです。とはいえワシントン・ポストは、アメリカの首都に本社を置く世界有力紙のひとつだったので、1971年当時、”ファミリービジネスのローカルペーパー”であったという事実に驚きました。
グラハムにとってポストは父が興し、夫が継いだ会社であり、自分の代でつぶすわけにはいかなかった。家族ぐるみでつきあってきたホワイトハウスやペンタゴンの有力者たちに反旗を翻さなければ、会社は安穏と生き残れるでしょう。しかし彼女は、ブラッドリーたちの情熱に突き動かされ、報道機関の使命を果たすという決断を下すのです。
本作は、報道の自由、ジャーナリズムの使命をテーマにした作品ですが、最初はお飾りの社主だったグラハムが真のトップへと成長し、ワシントンポストが一流紙の仲間入りを果たしたサクセスストーリーでもあります。この後ポストは1972年にウォーターゲート事件をスクープし、グラハムは2001年までポストの発行人・社長・会長を務めることとなります。
スピルバーグ監督の作品らしく、心に残る場面がたくさんありましたが、やはり一番ぐっときたのは、最後に最高裁判所の判決が出て、電話を受けた女性記者の口から判決文が読み上げられたところです。「報道機関は国民に仕えるものであって、政権や政治家に仕えるものではない...」
また、ブラッドリーたちが書き上げた記事が活字で組まれ、グラハムのゴーサインで一斉に輪転機が動き始めるシーンは、ぞくぞくするようなカタルシスを感じました。止むにやまれぬ思いから命がけで文書をリークした国防総省の分析官の意志を受け、告発に踏み切った新聞各社のジャーナリズム魂に胸が熱くなりました。
本作は、スピルバーグ監督がトランプ政権によるメディアへの圧力に危機感を覚えて作った作品ということですが、フェミニズムの要素もあり、昨年からの#MeToo運動に通じるものも感じました。そしてそれは対岸の火事ではなく、まさに今の日本が抱えている問題でもありますね。
映画のラストは、ウォーターゲートビルに何者か侵入する場面で終わり、「大統領の陰謀」へとつながるように作られていたのも心憎かったです。トム・ハンクス演じるベン・ブラッドリーは「大統領の陰謀」にも登場し、ジェイソン・ロバーズが演じています。ブラッドリーは机に足を乗せるクセがあったようですね。^^
ペンタゴン・ペーパーズ The Post 2017
大統領の陰謀 All the President's Men 1976
こちらはキャサリン・グラハムとベン・ブラッドリー本人