@「影武者」は室町時代から存続した、権力と勢力維持を貫く策であった。 「影武者」は一時的な「継承者」であり、体制、組織、権力等を保持する為の苦肉の策であり、この小説でも将軍の急死により柳沢吉保と僧侶の隆光が「影」で「将軍家乗っ取り策」を企てる。 が結末は予想外の展開で締めくくる。 現代の社会・会社組織、あるいは政治ではこの「影」は、「継承者」としての力量を持った人材が選ばれるが、多くは創業者の2代・3代目が引き継ぐ。 だが、世間知らず、苦労知らず、経験不足、人脈人材不足、「ワガママ」などで、特に政治家の2代目、3代目の不祥事がここ数年世間を騒がしている。 それに周りも「YES man」化しているから「何も言わない、言えない」で事業、政策が勧められてしまう。 会社組織であれば、「意見を言う、言える」いわゆる参謀役は誰が、どう行うべきか。 政治の世界にも政治家の監視役が必須だが日本には残念だが無い。政治にもの言えるのは、市民の選挙のみ。つい最近のフランスのデモンストレーターは一部過激だったが、燃料費値上げを市民の手で阻止できた。
『悪道』森村誠一
- 将軍綱吉が柳沢亭に御成中、天下の大乱を招きかねない事変が勃発。吉保は日罪を汁物の皆殺しを暗殺集団猿蓑衆に命ずる。伊賀忍者末裔の英次郎は天才女医お袖を守り、奥の細道を見に染め逃亡の旅へ。強大な敵の喉元に迫るは不屈の一寸の虫たち。死闘の行方は。
- 徳川綱吉の悪弊は「生類憐みの令」である。これは綱吉に長子が生まれないことを理由に僧侶隆光の発案で大老柳沢吉保が勧めたものであるが最終的にこの物語の中心となる話題と結末を生むことになる。
- 綱吉が能舞台演技時に急死、それを隠し、権力と保身の為と吉保と隆光が「影武者」を立てる。「影」を知る全ての関係者を皆殺しに、側用人も殺害するべく刺客を送るが、側用人、元忍者の英次郎は辛うじて何を逃れ、江戸から逃亡する。同じく綱吉を看取った奥医師と娘お袖にも刺客を送るが娘も辛うじて難を逃れ英次郎と奥州に逃れる。その道はかつて松尾芭蕉が辿った奥の細道と重なっていく。
- 吉保は精鋭の刺客、猿蓑衆を送り出すが悉く英次郎に撃たれてしまう。英次郎は逃亡しながら「影」の存在とその裏に隠された謎を解いていく。吉保の計略とは、「影」に吉保の側女を奥に迎え、長子を産ませ、将軍家を乗っ取る計画だった。
- その計画を証明、隠滅を図ろうと英次郎、お袖と仲間は江戸に戻るが、「影」に囚われる。が、「影」はあくまで徳川家への繋ぎとしての役割を全うすべく吉保と隆光を幕政から切り離そうと計画を知り、英次郎等は側近として「影」を信頼、吉保らの計画を防ぐ策を立てる。
- 結末は吉保の側女に長男が生まれた時、「影」は将軍家継承を発表。その発表の前日、「影」の暗殺を図るが失敗する。「影」の発表に対し吉保は長男がいるのに甲府の綱豊を任命する「影」に反発する。「影」は「生類哀れみの令」の由来は「我に胤がない」事を幕閣に知らしめ、側女の長子は吉保の子供であると断言できることであった。