5月18日付 産経新聞【正論】より
独裁国家群のツナミもはね返せ 筑波大学大学院教授・古田博司氏
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/110518/plc11051803070002-n1.htm
日本列島を中心に東アジア地域の地図を180度回転させたとき、わが国の国際的な位置が明瞭に見えてくる。それは独裁国家群の波濤(はとう)をオホーツク海・日本海・東シナ海からなる「内海」で防ぐ自由国家群の珠玉の堤である。韓国は東西と南の三方が海で囲まれ、北には行けない。ゆえに内海に浮かぶ島という位置になる。
≪自由国家群の米国素早く対応≫
ロシアはわが国の北方領土を侵略した過去を持ち、北方領土と千島列島を戦略的地域として太平洋艦隊を強化、択捉島には軍用空港の設置を計画している。中国は昨年来、武力示威行動を重ねてきたが、ついに先般の尖閣諸島沖の漁船衝突事件により、わが国“南方領土”への侵略の意図を明らかにするとともに、今年3月からは東シナ海ガス田での生産活動を開始した。報道によれば、ロシア軍用機が日本領空に接近する回数は、平成22年度は前年度の1・5倍に上り、中国機の接近は2倍に達している。東日本大震災後も飛行ペースは変わらず、両国は偵察行動と挑発行為を繰り返している。
今回の大震災で、珠玉の堤の東側が傷ついたが、自由国家群の米国の対応は素早かった。原子力空母ロナルド・レーガンや駆逐艦を派遣、沖縄の海兵隊は仙台空港に緊急パラシュート降下して空港を復旧させた。最大2万の兵を投入し、捜索・救援活動で自衛隊を支えた。福島原発事故では、日本側が圧力逃がし弁を開け遅れ水素爆発が起きると、米国は原子力専門家を官邸に駐在させ、無人偵察機を提供、はしけ船を派遣した。
大陸勢力は、米国の強力な日本支援が自分たちを覆う日米同盟という蓋の修復にあると悟った。そして、北米大陸の覇権国家たる米国が、東アジアにおける他の覇権国家の形成を今後も阻み続けるであろうことを知ったのである。
≪震災で顕現した「国家理性」欠如≫
世論やマスコミは菅直人民主党政権の対応の遅さや処置の不手際を非難する。だが、これほどの惨状を前にしては、どの政権であっても大同小異だっただろう。それは、自らの国家の利益と安全を合理的に追求するという国家理性の欠如によるのであり、震災前からの大陸勢力の侵略に対する無策の延長線上にある。震災で顕在化したにすぎないのだ。ここで改めて言わねばならない。東アジアの火薬庫は昔日の朝鮮半島ではなく、蓋(けだ)し現在のわが国であろうと。
韓国は自由国家群に属しながらも大陸勢力の真似(まね)事をしている。わが国の内海領土を侵略し、実効支配している。もちろん竹島のことである。震災直後には大型ヘリポートの改修工事に着手、現在完成を急いでいる。韓国社会では、恩恵は個人間でも返礼を前提とした実利的行為である。震災での救援と募金などの「恩恵」は、日本検定教科書の竹島問題が持ち上がるや、たちまち「香典返せ」のような返礼要求の大合唱へと転換した。駐韓日本大使は韓国政府に呼び付けられ、厳重抗議された。
なぜ、日本をこうも軽視できるのか。もはや朝鮮半島には全面戦争の危機はないからである。昨年3月26日の韓国哨戒艦撃沈事件、11月23日の韓国延坪島砲撃事件が小競り合いで終息したことが、それを証明している。北朝鮮には戦争を遂行する経済力はなく、韓国の方も、一度(ひとたび)戦端が開かれれば、ミサイル攻撃でソウルが火の海になることをよく分かっている。
≪中国空母は所詮、張り子の虎≫
北朝鮮は後継問題でも余裕がない。昨年9月28日の労働新聞紙上での金正日総書記の三男、金正恩氏の登場はどう考えても早すぎたが、金総書記が登場した1980年当時に比べ、情報の速度も精度も格段に増しており、隠しておけなかった。2つの事件と後継問題との連動は資料上確認できない。事件は曖昧な領海上で起きた国際問題であり、国内問題ではない。韓国と北朝鮮はこれからも、共倒れになる戦争を回避し、「恐れ合い」の共生関係を鮮明にしつつ、東アジア政治の中で、一定の話題を提供し続けることであろう。
そのたびに米空母が展開、いずれは中国空母も海南島から出動して対峙(たいじ)する構図になるだろうが、「内海」が大きく波立つことはない。中国空母は、甲板の先の反ったスキージャンプ式で重ミサイルも積めない張り子の虎であり、威嚇しにくるだけだからである。
今回の大震災では米軍と共同調整をした自衛隊が大活躍し、人々の見る目が変わった。現場主義の行動が再認識されたのである。残念ながら国家理性を欠いたまま、戦後を過ごしてきたわが国が気がついたときには、左派やリベラリストが危惧してきた軍事国家になるどころか、あちこち穴の空いた堤防になっていたのであり、シビリアンコントロールがその補修を妨げる無能な機構に堕していたことが明らかになってしまった。
わが国が東アジアの火薬庫たり得る資格を返上するには、独裁国家群のツナミに抗せるように珠玉の堤をさらに堅固に高く築かねばならないだろう。そのため何をすべきかは、今回の日米共同行動が目に見える形で示してくれた。(ふるた ひろし)
独裁国家群のツナミもはね返せ 筑波大学大学院教授・古田博司氏
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/110518/plc11051803070002-n1.htm
日本列島を中心に東アジア地域の地図を180度回転させたとき、わが国の国際的な位置が明瞭に見えてくる。それは独裁国家群の波濤(はとう)をオホーツク海・日本海・東シナ海からなる「内海」で防ぐ自由国家群の珠玉の堤である。韓国は東西と南の三方が海で囲まれ、北には行けない。ゆえに内海に浮かぶ島という位置になる。
≪自由国家群の米国素早く対応≫
ロシアはわが国の北方領土を侵略した過去を持ち、北方領土と千島列島を戦略的地域として太平洋艦隊を強化、択捉島には軍用空港の設置を計画している。中国は昨年来、武力示威行動を重ねてきたが、ついに先般の尖閣諸島沖の漁船衝突事件により、わが国“南方領土”への侵略の意図を明らかにするとともに、今年3月からは東シナ海ガス田での生産活動を開始した。報道によれば、ロシア軍用機が日本領空に接近する回数は、平成22年度は前年度の1・5倍に上り、中国機の接近は2倍に達している。東日本大震災後も飛行ペースは変わらず、両国は偵察行動と挑発行為を繰り返している。
今回の大震災で、珠玉の堤の東側が傷ついたが、自由国家群の米国の対応は素早かった。原子力空母ロナルド・レーガンや駆逐艦を派遣、沖縄の海兵隊は仙台空港に緊急パラシュート降下して空港を復旧させた。最大2万の兵を投入し、捜索・救援活動で自衛隊を支えた。福島原発事故では、日本側が圧力逃がし弁を開け遅れ水素爆発が起きると、米国は原子力専門家を官邸に駐在させ、無人偵察機を提供、はしけ船を派遣した。
大陸勢力は、米国の強力な日本支援が自分たちを覆う日米同盟という蓋の修復にあると悟った。そして、北米大陸の覇権国家たる米国が、東アジアにおける他の覇権国家の形成を今後も阻み続けるであろうことを知ったのである。
≪震災で顕現した「国家理性」欠如≫
世論やマスコミは菅直人民主党政権の対応の遅さや処置の不手際を非難する。だが、これほどの惨状を前にしては、どの政権であっても大同小異だっただろう。それは、自らの国家の利益と安全を合理的に追求するという国家理性の欠如によるのであり、震災前からの大陸勢力の侵略に対する無策の延長線上にある。震災で顕在化したにすぎないのだ。ここで改めて言わねばならない。東アジアの火薬庫は昔日の朝鮮半島ではなく、蓋(けだ)し現在のわが国であろうと。
韓国は自由国家群に属しながらも大陸勢力の真似(まね)事をしている。わが国の内海領土を侵略し、実効支配している。もちろん竹島のことである。震災直後には大型ヘリポートの改修工事に着手、現在完成を急いでいる。韓国社会では、恩恵は個人間でも返礼を前提とした実利的行為である。震災での救援と募金などの「恩恵」は、日本検定教科書の竹島問題が持ち上がるや、たちまち「香典返せ」のような返礼要求の大合唱へと転換した。駐韓日本大使は韓国政府に呼び付けられ、厳重抗議された。
なぜ、日本をこうも軽視できるのか。もはや朝鮮半島には全面戦争の危機はないからである。昨年3月26日の韓国哨戒艦撃沈事件、11月23日の韓国延坪島砲撃事件が小競り合いで終息したことが、それを証明している。北朝鮮には戦争を遂行する経済力はなく、韓国の方も、一度(ひとたび)戦端が開かれれば、ミサイル攻撃でソウルが火の海になることをよく分かっている。
≪中国空母は所詮、張り子の虎≫
北朝鮮は後継問題でも余裕がない。昨年9月28日の労働新聞紙上での金正日総書記の三男、金正恩氏の登場はどう考えても早すぎたが、金総書記が登場した1980年当時に比べ、情報の速度も精度も格段に増しており、隠しておけなかった。2つの事件と後継問題との連動は資料上確認できない。事件は曖昧な領海上で起きた国際問題であり、国内問題ではない。韓国と北朝鮮はこれからも、共倒れになる戦争を回避し、「恐れ合い」の共生関係を鮮明にしつつ、東アジア政治の中で、一定の話題を提供し続けることであろう。
そのたびに米空母が展開、いずれは中国空母も海南島から出動して対峙(たいじ)する構図になるだろうが、「内海」が大きく波立つことはない。中国空母は、甲板の先の反ったスキージャンプ式で重ミサイルも積めない張り子の虎であり、威嚇しにくるだけだからである。
今回の大震災では米軍と共同調整をした自衛隊が大活躍し、人々の見る目が変わった。現場主義の行動が再認識されたのである。残念ながら国家理性を欠いたまま、戦後を過ごしてきたわが国が気がついたときには、左派やリベラリストが危惧してきた軍事国家になるどころか、あちこち穴の空いた堤防になっていたのであり、シビリアンコントロールがその補修を妨げる無能な機構に堕していたことが明らかになってしまった。
わが国が東アジアの火薬庫たり得る資格を返上するには、独裁国家群のツナミに抗せるように珠玉の堤をさらに堅固に高く築かねばならないだろう。そのため何をすべきかは、今回の日米共同行動が目に見える形で示してくれた。(ふるた ひろし)