歪曲の「戦勝」史観を固定化 ロシアの対日戦勝記念日
http://sankei.jp.msn.com/world/europe/100708/erp1007082022007-n1.htm
ロシア下院が事実上の対日戦勝記念日を新たに制定したことは、一方的な侵略行為にすぎなかったソ連の対日参戦を「戦争の勝利」と誇大宣伝し、歪曲(わいきよく)した歴史観を固定化しようとのメドベージェフ政権の意向を反映している。ロシアの狙いは戦後65年を機に、北方領土問題をめぐる日本の主張を封じることにほかならず、「対日勝利」史観を軸に中国や旧ソ連諸国との結束も強めている。
「ソ連軍は極東で日本の関東軍を粉砕し、中国東北部と北朝鮮、南サハリン(樺太)とクリール諸島(日本の北方四島と千島列島)を解放し、それによって第二次大戦の終結を早めた」
“対日戦勝記念日”を制定する法案が可決されたのを受け、与党・統一ロシアの有力議員、サブリン氏は7日、国営ロシア通信にこう語った。同氏は「(新記念日は)祖国と連合国の責務に身をささげた同胞に関する記憶の印だ」とも言う。
そこでは、ソ連が日ソ中立条約を侵犯した事実はおろか、日本がポツダム宣言受諾を通告した45年8月14日の時点で、満州の重要都市が全く陥落していなかった事実も抜け落ちている。北方四島の占拠完了は、対日終戦記念日よりも遅い9月5日だった。
氏のいう「連合国の責務」は対日参戦を密約したヤルタ協定(45年)を指す。だが、日本が参加も調印もしていないヤルタ協定に拘束される法的根拠はない。日本が連合国の前に放棄した「千島列島」に北方四島は含まれず、そのソ連による占拠は、連合国側が「領土不拡大の原則」をうたった大西洋憲章(41年)やカイロ宣言(43年)にも反する。
旧ソ連・ロシアでは対ドイツ戦(41~45年)が「大祖国戦争」と呼ばれ、その5月9日の戦勝記念日は最も重要な祝日とされてきた。独裁者スターリンによる判断ミスや大粛清の影響で緒戦に大敗北し、2700万人ともされる犠牲者を出す総力戦となったためだ。
これに比べ、ロシア側の情報でも死者8200人という「対日戦争」はロシア社会での認知度も圧倒的に低かった。今回可決された法案は“格下”の記念日とはいえ、ナチス・ドイツと日本を同一視して「戦勝」を内外に誇示するものだ。
「戦後65年がたち、退役軍人らの高齢化も進んでいる。この節目をとらえることが政権には重要なのだろう」と日露関係筋はみる。
米ソ冷戦時代の「超大国」の地位から転落したロシアにとって、国連安保理常任理事国に代表される「戦勝国」の地位は大国路線の“生命線”だ。内政面でも、今のロシアには過去の戦勝以外に国民を統合する理念がない。
ロシアは昨年5月、治安・武力系省庁の代表者らによる大統領付属の「反歴史捏造(ねつぞう)委員会」を設立し、日露関係を含む国定史観の宣伝に躍起だ。有力関係者の一人は「日本の領土要求には全く法的根拠がない」と断じる。
今年5月9日にはモスクワで対独戦勝65周年を祝う大規模な軍事パレードが行われ、中国や旧ソ連諸国など約20カ国の首脳が参加した。特に、中国の胡錦濤国家主席はプーチン露首相と会談し、「(対独、対日の)歴史の真実を守り抜くために連携を強める」(胡主席)ことで一致した。
一方、ロシアは2月に改定した軍事ドクトリンで「ロシアと同盟国への領土要求」を主な軍事的脅威として掲げ、日本を強く牽制(けんせい)。ロシアは「日本の民主党政権下で日米同盟が揺らいでいる」という点も見越しており、政権派の専門家からは「日本は根拠のない領土要求よりも、米国からの『独立』を選ぶべきだ」といった発言も聞かれる。
2010.7.8 20:22
http://sankei.jp.msn.com/world/europe/100708/erp1007082022007-n1.htm
ロシア下院が事実上の対日戦勝記念日を新たに制定したことは、一方的な侵略行為にすぎなかったソ連の対日参戦を「戦争の勝利」と誇大宣伝し、歪曲(わいきよく)した歴史観を固定化しようとのメドベージェフ政権の意向を反映している。ロシアの狙いは戦後65年を機に、北方領土問題をめぐる日本の主張を封じることにほかならず、「対日勝利」史観を軸に中国や旧ソ連諸国との結束も強めている。
「ソ連軍は極東で日本の関東軍を粉砕し、中国東北部と北朝鮮、南サハリン(樺太)とクリール諸島(日本の北方四島と千島列島)を解放し、それによって第二次大戦の終結を早めた」
“対日戦勝記念日”を制定する法案が可決されたのを受け、与党・統一ロシアの有力議員、サブリン氏は7日、国営ロシア通信にこう語った。同氏は「(新記念日は)祖国と連合国の責務に身をささげた同胞に関する記憶の印だ」とも言う。
そこでは、ソ連が日ソ中立条約を侵犯した事実はおろか、日本がポツダム宣言受諾を通告した45年8月14日の時点で、満州の重要都市が全く陥落していなかった事実も抜け落ちている。北方四島の占拠完了は、対日終戦記念日よりも遅い9月5日だった。
氏のいう「連合国の責務」は対日参戦を密約したヤルタ協定(45年)を指す。だが、日本が参加も調印もしていないヤルタ協定に拘束される法的根拠はない。日本が連合国の前に放棄した「千島列島」に北方四島は含まれず、そのソ連による占拠は、連合国側が「領土不拡大の原則」をうたった大西洋憲章(41年)やカイロ宣言(43年)にも反する。
旧ソ連・ロシアでは対ドイツ戦(41~45年)が「大祖国戦争」と呼ばれ、その5月9日の戦勝記念日は最も重要な祝日とされてきた。独裁者スターリンによる判断ミスや大粛清の影響で緒戦に大敗北し、2700万人ともされる犠牲者を出す総力戦となったためだ。
これに比べ、ロシア側の情報でも死者8200人という「対日戦争」はロシア社会での認知度も圧倒的に低かった。今回可決された法案は“格下”の記念日とはいえ、ナチス・ドイツと日本を同一視して「戦勝」を内外に誇示するものだ。
「戦後65年がたち、退役軍人らの高齢化も進んでいる。この節目をとらえることが政権には重要なのだろう」と日露関係筋はみる。
米ソ冷戦時代の「超大国」の地位から転落したロシアにとって、国連安保理常任理事国に代表される「戦勝国」の地位は大国路線の“生命線”だ。内政面でも、今のロシアには過去の戦勝以外に国民を統合する理念がない。
ロシアは昨年5月、治安・武力系省庁の代表者らによる大統領付属の「反歴史捏造(ねつぞう)委員会」を設立し、日露関係を含む国定史観の宣伝に躍起だ。有力関係者の一人は「日本の領土要求には全く法的根拠がない」と断じる。
今年5月9日にはモスクワで対独戦勝65周年を祝う大規模な軍事パレードが行われ、中国や旧ソ連諸国など約20カ国の首脳が参加した。特に、中国の胡錦濤国家主席はプーチン露首相と会談し、「(対独、対日の)歴史の真実を守り抜くために連携を強める」(胡主席)ことで一致した。
一方、ロシアは2月に改定した軍事ドクトリンで「ロシアと同盟国への領土要求」を主な軍事的脅威として掲げ、日本を強く牽制(けんせい)。ロシアは「日本の民主党政権下で日米同盟が揺らいでいる」という点も見越しており、政権派の専門家からは「日本は根拠のない領土要求よりも、米国からの『独立』を選ぶべきだ」といった発言も聞かれる。
2010.7.8 20:22