少し遅くなりました。新年明けまして、おめでとうございます。
本年もよろしくお願いいたします。
新年のご挨拶・本年の抱負ブログは、また、後日書かせていただきます。
心をないがしろにしない人生にしよう
さて、東洋医学では、患者さんの身体をみるときは心身一如(心と身体は一つ)という考え方を基本として、身体と心の両面から、今ある症状や病気を捉えていきます。
急性の痛みで、発症の原因がハッキリしているものに関しては、それなりに対応していきますが、時間の経過した慢性症状には少なからず心の作用が身体に影響を及ぼして治癒しずらくしています。
また、昨年からの新型コロナ感染症での自粛生活や経済的ダメージなど、ストレスが過多になっている社会状況では、あってはならにないことですが自ら命を無駄にする方も増加しています。これはまさしく心の問題です。それ以前から、欝(うつ)や自律神経失調、心身のバランスがとれず引きこもってしまう問題など、メンタルヘルスが社会問題となっています。
企業においても、現在、働き方改革が声高に叫ばれ、その対応に迫られている状況です。テレワークやオンライン会議等、家にいながらにして仕事や作業が出来る世の中に変化してきました。それ以前から、企業に勤める社員やその家族の健康を重視した仕組み作りとして、それぞれの企業が取り組む「健康経営」が国を挙げてすすめられてきました。
鍼灸の「今」
鍼灸は古代中国から日本に伝わり、様々な歴史を辿り、現在まで息づく伝統医療です。
冒頭でもお話させていただきましたが、鍼灸は心と身体を一つに捉えて施術体系を構築していきます。
しかし、鍼灸はただ伝統医療というだけではなく、現在では全日本鍼灸学会や日本東洋医学会など、その摩訶不思議な効果を検証するため、基礎的、臨床的に様々な研究が行われ、エビデンス構築に日々努力している成果が発表されています。鍼灸の研究は、日本だけでなく世界各国で行われているのが現状であり、中国、韓国をはじめアメリカやヨーロッパの研究論文が日本より圧倒的に多くあります。
心の安定に鍼灸~見えない原因~
さて、前置きが長くなりましたが、心の乱れによって様々な身体の不調を発症します。
これら諸症状に関しては、血液検査をしても、レントゲンやCT、MRIなどを撮影してもハッキリ原因が分かりません。
精神科領域になるわけですが、それらの症状に関して、鍼灸で一定の改善効果を示すことがあります。例えば、不眠が解消される、頭がスッキリする、身体のだるさがとれる、原因不明の痛みがとれる、表情が豊かになる、身体が動きやすくなる等々です。
鍼灸も万能ではありませんし、改善効果の出現についても、患者さんの様々な人生物語やその症状を持っている期間で違ってきます。そして、完治!などとは言いませんが、よりQOL(生活の質)が向上することは言えると考えます。
心の安定に鍼灸~その作用機序を簡単に説明~
では、なぜ鍼灸(ツボ〈経穴〉刺激)が、欝(うつ)や自律神経症状の精神科領域の症状や状態に効果が出るのか、そのあたりの作用機序を簡単にお話いたします。
私たち鍼灸師が「はり」や「灸」で刺激するのは経穴(ツボ)や筋緊張や硬結などの反応点なのですが、その刺激方法は、皮膚をさする程度のものから骨膜に至るまで幅広く、日本の鍼灸は、患者さんの状態に応じて様々な刺し方があります。どの治療方法も最終的には患者さんの症状をより改善させ、ホメオスターシス等の生体調整作用を活性化させ、自然治癒に導くことです。
その刺激がどのように働いているかという摩訶不思議を解明していくために多くの基礎研究や臨床研究が行われています。
ー様々な研究から少しずつですが、鍼灸の作用の一部が分かってきていますー
人は人体最大の臓器とも言われる
皮膚
により隙間無く覆われ、外界との境界をつくっています。
外界との第一次防衛線の皮膚は、発生学的には外胚葉由来であり脳と同じです。
皮膚からの刺激や情報は脳へ伝達され、脳を活性化することは知られています。
鍼灸刺激は、この皮膚(まずは皮膚が最初の刺激)に現れる反応や経穴に刺激を与えることになります。
経穴(ツボ)刺激を行うと
神経や圧受容器が興奮
ケラチノサイト・炎症性細胞・知覚神経末端、血管内皮細胞からサブスタンスP(SP)、カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)や一酸化窒素(NO)を放出
血管を拡張させ血流を増加とともに筋緊張を緩和させます。
末梢で微少な損傷を起こすことでアデノシン放出を誘発し、局所でも鎮痛効果を有することが判明しています。
知覚神経からの経穴刺激は、脊髄視床路を経由し、延髄、中脳、視床下部に伝わり、中枢ではモルヒネ様物質を分泌する神経を刺激し、内因性オピオイドによる鎮痛作用を有します。
鍼灸刺激が脳に及ぼす影響で明らかになっていること。
・海馬や前頭前皮質における、NO、プロスタグランジンE2、誘導型一酸化窒素合成酵素、シクロオキシゲナーゼー2(COX-2)、炎症性サイトカインのタンパク質発現を減少 核内因子κBの活性を抑制
・海馬における脳由来神経栄養因子(BDNF)や、その受容体が増加
・下垂体で分泌されるオキシトシン分泌促進
・背側縫線核や側坐核(セロトニン作動生神経 起始核)におけるセロトニン増加
ーうつ状態においての脳内変化ー
インターロイキンⅠ、COX2等の種々のサイトカイン、ケモカインなど炎症メディエーターが誘導
脳内セロトニン減少、ノルアドレナリン濃度低下、BDNF産生低下、グルタミン酸分泌上昇による細胞内Ca²⁺濃度の上昇、コルチゾール上昇
細胞内情報伝達機構の異常が存在するとされています。
※サイトカイン・・・細胞から分泌され細胞間相互の情報を橋渡しする生理活性物質(タンパク質)
※ケモカイン・・・特定の白血球に作用して活性化し炎症に関与するタンパク質
ー名古屋の東洋医学研究所®における自律神経失調症における臨床研究ー
【昭和44年4月1日より昭和47年3月1日までの3年間に東洋医学研究所®に来院された患者の中の1336例について、黒野所長が鍼と超音波の併用療法 による心療内科疾患に対する効果などを詳細に研究し、これを症病別に集計。】
107名の方(著効;59名、有効;26名、比較的有効;8名、やや有効;14名、無効;18名)に効果が認められたため、有効率は85.6%でした。東洋医学研究所®では上記を参考に30年間に亘り自律神経失調症に対する鍼治療を行い高い成果を上げています。
鍼灸が脳内の生理活性物質や神経間の働きに好影響を与え、うつ状態や自律神経失調等の心の病とされるものに対して、効果的に働く可能性についてご理解いただけたかと思います。
心の安定に鍼灸~うつに関連のある経穴(論文報告+古典文献調査)
ここで紹介する経穴は、これさえやっておけば、うつを発症しないとか、心の病が治るというものではありません。あくまでも臨床研究や基礎研究(2010~2016年 48報告)を集計した結果です。
心の病に限らず、病気や様々な慢性症状には、多くの原因や要因が絡んできます。それを一つ一つ紐解いて、その人が持つ元来の治癒力を発揮させるには時間と刺激の積み重ねも必要となりますことをご理解ください。
【うつに対する鍼灸で使用頻度の高い経穴ベスト5】
百会(ひゃくえ)
印堂(いんどう)
太衝(たいしょう)
内関(ないかん)
合谷(ごうこく)
~その他、使用された経穴~
曲泉(きょくせん)、足三里(あしさんり)、三陰交(さんいんこう)、太白(たいはく)、身柱(しんちゅう)、霊台(れいだい)、至陽(しよう)、隔兪(かくゆ)、肝兪(かんゆ)、脾兪(ひゆ)、腎兪(じんゆ)、耳介のツボ
心の安定に鍼灸~効果が出る期間~
ーイギリスでの研究ー
うつ病患者に対する鍼灸治療の大規模なランダム化比較試験によれば,鍼灸施術 3 か月目からうつ症状スコア(PHQ-9)の減少を認めている。
ー当院ではー
先ほどご紹介した東洋医学研究所®で修行し、学ばせていただいたこともあり、施術期間ことに慢性症状(心の病に限らず)においては、黒野保三所長の臨床研究から導きだされた期間を一つの目安として施術させていたきます。
週2回を施術間隔として1クール7回、3クール21回(2ヶ月半)です。
脳や心が強く関連する症状や慢性症状を呈する方に関しては、ホメオスターシスや修復力、調整力など生体制御の観点から一定期間の鍼灸による刺激が必要であろうということです。
また、うつ病に関しては、非常に治癒しづらく生命に関わる疾患でもありますので、鍼灸を取入れる場合も、専門医療機関での診断、治療と、医療機関との連携が必須となります。
参 考
☆うつに有効な鍼灸のツボとその作用機序に関する考察 ファルマシア Vol.53 No.7 2017より
木村 真梨 先生(はり灸天真爛漫院長,富山大学和漢医学総合研究所漢方診断学分野協力研究員〈元:技術補佐員〉)
☆東洋医学研究所®ホームページ(名古屋)
少し長くなりましたが、ストレスで様々な症状が出現している方や、心の病で抜け出せない方、また、メンタルヘルスの観点から健康経営に力を入れている企業の担当者の方など、鍼灸を生活や予防、養生に取入れて、生きがい、働きがい、楽しい人生を過ごすためにいいのではないか!と感じた皆様は、どうぞ一度お気軽にご連絡くださいませ。
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