二葉鍼灸療院 院長のドタバタ活動日記

私が日頃行っている活動や、日々の鍼灸臨床で感じたことなどを綴っていきたいと思います。

妊活と鍼灸~ストレスの軽減を考える②~

2022年01月25日 | 不妊症

 世界で、日本で、オミちゃんがお友達を増やしております

 当院の所在地、石川県でも1月25日時点で新たに354人のお友達が増えました。

 そろそろ落ち着きをみせてもいいのではないかな~と思いながら、この記事を書いております。

 

 パート①では、不妊治療の最近のトピックと不妊女性が抱えるストレスについて書かせていただきました。

 

 妊活と鍼灸~ストレスの軽減を考える①~

 

 妊活に頑張るご夫婦のために妊娠しやすい身体づくりのための鍼灸を行っておりますが、特に女性に多くの面で過剰なストレスがかかります。

 当院に訪れるご夫婦の多くは妊活を始めて年数が経過していることが多く、ご来院時点でかなりのストレスが蓄積されているケースがあります。

 過剰なストレスは妊娠ばかりではなく、様々な疾患の要因となります。そのストレスが少しでも軽減されることは、より循環がよく元気で健康な身体や心の状態にあることは疑う余地がありません。

 

 今回は、その不妊女性のストレスに対して鍼灸治療は役に立つのかをみていきたいと思います。

 その前に、皆さま「エビデンス(科学的根拠)」という言葉を聞いたことがあるかと思いますが、それについて最初に簡単に説明させていただきますね。

 

エビデンス(科学的根拠)

エビデンスの意味・・・「根拠」「裏付け」「証拠」「形跡」などの意味です。

 医療・医学で使用される場合のエビデンス・・・例えば、ある病気があるとして、そこには「効果がある」という多くの様々な治療方法があります。その病気の治療について「本当に効果があるのか」「どれくらい安全なのか」「その効果はどれくらいあるのか」ということの調査研究のことをいいます。患者さんが、より安全でより効果的な治療方法を選択できるための指針として利用される調査研究のことです。

エビデンスに基づいた医療(Evidence Baced Medicine:EBM)・・・現在、日本も含め世界の医療はこの指針をベースに進んでいます。そしてEBMを実践するうえでエビデンスというものが必要になります。例えば、①検査では異常がなかった慢性腰痛の患者さんがいます。②そこに鍼灸を行うと、③湿布と鎮痛薬の服用より効果があったとします。⑤世界中の研究や報告(論文)の①~③に近い条件のエビデンスを調査します。⑥調査したエビデンスの効果のグレードや質について検討します。⑦慢性腰痛に対して行った鍼灸を振り返り評価します。

 と言ったように、集積された研究や調査を検証され、この病気や患者さんに真に有効な治療方法かどうかの方針が決定されます。

 

 難しい話になりましたが、鍼灸治療は皮膚に触れる治療から深く骨膜に至るまで刺す、あるいは数本の鍼だけ使用する場合やハリネズミのようにたくさん鍼を刺す方法など多種多様です。

 ですが現代の医療・医学の評価基準や、患者さんのことを思えば鍼灸もエビデンスレベルをあげていくことは、鍼灸医療や鍼灸医学にとって、今後の発展という面においても必要なことなのです。

 EBMを考えると、私が修行・研修させていただいた、東洋医学研究所®所長  黒野保三先生やその弟子の皆さんが(私もほんの少し入ってますが)、膨大な鍼の臨床実践や臨床研究の集積、臨床を基に、名古屋市立大学や名古屋大学の研究員として推し進めて来られた鍼の基礎研究など「鍼灸の科学化」や鍼灸医学に対する思想や姿勢が、まさにそれであると改めて思います。このお話はまた別の機会に・・・

 

 それでは本題の、不妊女性の精神的ストレスと鍼灸についてみていきます

 

不妊女性の精神的ストレスに対する鍼は有効か?!

 明治国際医療大学 鍼灸学部 臨床鍼灸学講座の田口玲奈先生の研究で、女性心身医学雑誌(Vol.20.No.3.2017年3月)に投稿された論文を参考にみていきます。

鍼治療は女性不妊患者の精神的ストレスを緩和させるか、ストレスの感情面表出である扶南・抑うつ・気分変調などを指標に検討。

1年7ヶ月の期間に体外受精ー胚移植(IVF-ET)、顕微授精(ICSI)を行った32名を対象(31歳~47歳)。

評価 
 ①不安・抑うつ・気分変調の評価:Profile of Mood State(POMS)日本語版
 ②不安の評価:State-trait inventory(STAI)
 ③妊娠率および流産率

 鍼治療方法
 期間:3ヶ月間  頻度:週2回
 使用経穴:(目的)精神安定・ストレス緩和・補気血・血流増加
  百会、合谷、内関、帰来、足三里、三陰交、地機、血海、太衝、中髎
 使用鍼:直径0.16mm、長さ30mm(セイリン社製ステンレス鍼)
     0.30mm、長さ60mm(同上)・・・中髎のみ;仙骨骨膜面に水平に頭に向かって刺鍼
 併用治療:低反応レベルレーザーを鍼治療前後に両側星状神経節近傍に約3分間照射

 結果と考察
 平均年齢:約39歳、平均不妊治療期間:約33ヶ月、施行回数:IVF-ET  約2回 ICSI 約7回
 不妊原因:男性因子4名、卵巣因子11名、卵管因子2名、子宮内膜症6名、原因不明12名(重複あり)

 ①POMSの変化:「緊張・不安」「抑うつ・落ち込み」「怒り・敵意」「混乱」「総合的状態得点 TMD」は鍼灸後に有意に低下。
         「活気」「疲労」の項目に有意差はなし。

 ②STAIの変化:「状態不安」「特性不安」ともに鍼灸後に有意に低下。

 ③妊娠率・流産率:生化学的妊娠率9.4%(3例)、流産率0%

鍼治療は不妊患者が抱える緊張や不安、抑うつ、落ち込み、怒りや敵意、混乱するなど精神状態を緩和させる効果があることが明らかとなる。

米国では不妊女性のストレスと不安レベルが高く、不安と落ち込みの頻度も非不妊者と比べて高いことが報告。

日本でも不妊女性の不安・抑うつ測定尺度とPOMSにより、不妊女性の精神的ストレスが強いと報告。

POMSでの一般健康女性の平均点数と比較すると、抑うつ・落ち込みの数値が高値だが、その他は一般女性と一致。日常生活での精神面は比較的保たれてる状態と考えられた。

STAIでの一般健康女性の平均数値と点数と比較すると、鍼治療前の状態不安得点が高値だったことから、測定時点での不安は強い状態にあったと考える。

ARTの成績とストレスの関連については、負の相関があるという報告が多い。

ストレスの強さやストレスに対する脆弱性はIVF-ET後の妊娠の不成立と関連するとの報告あり。

採卵前のストレス・不安が多い女性では、妊娠率が低いことが示され、IVF-ET後の低い妊娠率と関係があり、リラクゼーションなどのストレス軽減は妊娠率を上昇させると結論づけた報告もある。

 最近のメタアナリシス(集めた論文を統計学的に解析すること)分析では、不妊の問題や他のライフイベントにより引き起こされた感情などの苦悩は、ARTの成績とは関係ないと示されている(2011年)。

不妊治療における精神的ストレス軽減の重要性は示されているが、ARTの成績との関連性については一定の見解は得られていない。

胚移植時や採卵時の鍼治療は妊娠率を増加させると言う報告もあるが、最近のシステマティックレビュー(対象の調査研究の論文をくまなく集めて統合し評価すること)では、鍼治療は、臨床妊娠率、継続妊娠率、出生率、流産率には影響を及ぼさないと結論づけられている(2013年)。

 不妊女性の精神的ストレスに鍼治療が及ぼす影響については、いくつか検討されており、それによると思われる妊娠結果の改善の可能性も報告されている。

鍼治療は、ストレスホルモンの一つである血清コルチゾールとプロラクチンの分泌を調整し、IVF-ETの結果を改善するとする研究もある。

鍼治療は妊娠率を増加させるが、その有効性は胚移植前後の少ないストレスと関連する可能性があるとの報告もある。

鍼治療を施行したIVF-ET患者の不安を著明に減少させたが、鍼とシャム鍼群(皮膚に刺さない方法)で臨床妊娠率には違いがないとの報告もある。

IVF-ETを施行した患者への鍼治療は妊娠率の増加とは関係しないが、リラックス効果があったとの報告もある。

ランダム化比較試験(臨床研究では最もエビデンスの質が高いとされる)による研究では、鍼治療は不妊に起因するストレスを援助するのに有効な方法であるという報告もある。

これまで鍼治療は、副腎皮質刺激ホルモンやエンケファリン、βエンドルフィン、ダイノルフィン、セロトニン、オキシトシンなどの神経伝達物質の分泌に影響することが明らかとなっている。これらの変化は、不安や抑うつなどの感情と関連が深い中枢神経系の異常状態において有益な効果をもたらす可能性が考えられる。

ストレスの軽減が間接的にARTの成績に影響を及ぼす可能性も否めない。

 まとめ

鍼治療がARTの成績に影響を及ぼさなかったとしても、妊活中の抑うつや落ち込み、月経前不快気分障害と同様に、不妊女性の精神的ストレスや抑うつなどQOLの改善に有効な治療法となり得る可能性があると考えられる。

世界では、今回のように継続的な鍼治療が妊娠率に及ぼす影響についてはまだ検討されていない。

今後、年齢や妊娠段階等に区分し、サンプル数または妊娠例数を増やすこと、また、鍼治療未施行の対照群との比較をすることによる更なる検討が必要。

治療方法に低反応レベルレーザーを使用しているので純粋に鍼治療の効果とは言えませんが、田口先生の臨床の中でレーザーと併用することが、より不妊女性のストレスを緩和し、卵子の発育や内膜の改善、着床促進につながるのであれば治療方法で併用しても問題ないですが、相乗効果があったことは考えられます。

※低反応レーザーを星状神経節へ照射することにより、従来使用されていた方法(鎮痛)での抗炎症作用の他に、交感神経が刺激され、末梢や脳への血流改善、過剰な神経伝達の抑制により神経症状を改善する可能性があり、生殖器の血流や神経機能を改善することで、卵子形成・成熟、内膜改善等の効果が期待され、ARTを補助して妊娠率を上げる一つの方法として使用されています。

 

 当院では、上記のようなことも含めながら、妊活ならびに妊娠しやすい身体づくりのための鍼灸を行っています。

 少しでも早期に天使ちゃんと出会えますように、ストレス軽減も目的の一つとして、ストレスをうまくいなして寄りきれるように、鍼灸でサポートさせていただきます。

 長くなりましたが、最後までお読みいただき、ありがとうございます

 

二葉鍼灸療院(金沢)

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