教育史研究と邦楽作曲の生活

一人の教育学者(日本教育史専門)が日々の動向と思索をつづる、個人的 な表現の場

教育実習先としての幼稚園の減少―実践力ある保育者の養成の困難

2011年07月09日 02時17分00秒 | 教育研究メモ

 先日7月6日、政府が「子ども・子育て新システム」に関する中間報告を発表しました(yahoo!ニュース(毎日新聞)2011.7.6分)。幼稚園・保育所をこども園に統一し、企業運営の保育施設参入を認め、幼稚園を待機児童の受け皿として位置づけて、待機児童の解消を図ることを考えているようです。

 公費節減と待機児童解消が求められる現在、幼稚園が待機児童の受け皿になるのは、仕方ないかもしれません。実際、幼稚園の中には、集団保育がままならないほど定員割れする園も少なくありません。また、保育所の中には、子ども一人ひとりに応じた保育が不可能なほど定員超過する園もあります。幼稚園では園児数を適度に増やして集団保育の質を高め、保育所では園児数を適正な数に抑えて保育の質を高める必要があります。子どものよりよい発達のためにも、園児数の配分はある程度調整される必要があるでしょう。

  幼稚園は定員割れしているところが少なくないと言いましたが、幼稚園は、困難な状況のなか、どこもがんばっています。しかし、毎年毎年、園児数が減り、園数が減少しているのは、紛れもない事実です。なかには、幼稚園を廃園して、保育所に社会資源を一点集中したり、保育所型の認定こども園に切り替えてしまうところも出てきました。時代の要求に合った体制を模索するのは結構なことですが、その際には、公費節減や待機児童解消という観点からだけではなく、幼稚園独自の役割を考慮していただきたいところです。

 幼稚園は、幼児教育施設であるとともに、教育実習を実施する場でもあります。教育実習は、幼稚園教諭免許取得の必修科目です。幼稚園数の減少は、実際のところ、教育実習先を減少させ、教育実習の実施を困難にし、保育者養成の充実を圧迫しています。
 教育実習の実施が困難になるということは、保育者志望者が、教育(発達促進)を実践的に学ぶ機会を確保しにくくなるということです。それは、行政や国民の求めている、実践力ある保育者の養成が困難になるということです。そして、子どもや保護者にとっては、質の高い教育を行える保育者が得られなくなるということです。子どもたちの福祉(よりよい発達)のためにも、ゆゆしき事態なのです。
 建物や収容施設を確保しただけでは、幼児教育・保育はできません。質の高い力量を有する保育者が絶対に必要です。教育実習先を確保しなければ、質の高い保育者は得られません。幼稚園をこども園にするとしても、どのように教育実習をするのか。そこのところをはっきりさせなければ、こども園で実習しても教育実習の単位を認めてもらえないので実習先を選定できない、ということになりかねません。

 教育実習先としての幼稚園が減少し、保育者の実践力を養成するのが困難になると、誰が困るのか。もちろん、養成校は十分な保育者養成をできずに困ります。ですが、困るのは養成校だけではありません。
 発達を十分に支援してもらえず、子どもが困るのです。
 子どもを十分に発達させてもらえず、保護者が困るのです。
 将来の国民へ十分に教育をしてやれず、国民が困るのです。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする