goo

『雪の中』(絵物語)

雪の中を、小舟が進んでいる。

船上には、女と船頭。

女は言う。私は天涯孤独の身だ、と。





「それはお気の毒に。」


「そのようなお言葉はかけて下さいますな。」

女は妙な事を言う。

「思い出されるのも嫌、ということですかな。」と船頭。

「いいえ、ちがいますとも。思い出されないのですか?」

「はて、何のことです?」船頭は、怪訝(けげん)である。

女は、声を震わせて言う。

「あなたは、わたしの両親を殺したでしょう。」



「な、何を、たわけたことを。」

「しらばっくれるでない。確かに十日前の夕暮れに、

私の親を、お前はその手で殺したではないか。そして、

事もあろうに、食うたではないか。」



船頭は、叫ぶ。



櫂(かい)を化け物に向かい振り回す。



奴は、飛び去った。船頭は一人、舟に残る。いつまでも罵(ののし)りながら。





舟は、雪の中に消えて行く。(了)
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

雪女


「むじな」を描いたので、
同じくラフカディオ・ハーンの「雪女」も描いてみました。
話はあまりにも有名ですから、いまさら語りなおす必要もないでしょうが、
絵を並べる必要上、ざっと説明します。

武蔵の国のある村に、
茂作(もさく)と巳之吉(みのきち)という木樵(きこり)がいた。
冬のある夜、吹雪に遭った二人は渡守(わたしもり)の番小屋で
夜をすごしたが、
恐ろしい寒さに震えながら眠っていると、
夜半に、白い衣を着た白い女が、
茂吉爺さんの上に覆いかぶさるようにしているのを見た。
茂吉はもう凍ったようになって死んでいる。
女は巳之吉にも同じようにしようとかがみこんだが、
ふと「おまえは若くて美しい。不憫(ふびん)だからやめる。」と言う。
しかし、今見たことを人に話したら、必ずお前を殺しに来る、と。
そして姿を消す。

助かった巳之吉は、回復すると女のことも忘れてしまう。
夢の中のことのように思えて。
そして翌年、小雪がまたちらつき始めたある日、
一人の美しい娘に出会う。
娘はお雪といい、両親が亡くなったので、遠縁のいる江戸へ行くのだという。

巳之吉は娘が好きになった。
娘も巳之吉を気に入ったらしく、とうとうそのまま巳之吉の嫁になった。
娘は十人もの子供を産んだが、いつまでも美しかった。

ある晩、子供が寝た後、巳之吉は酒を飲みながら昔話を始める。
昔俺は、お前に似た美しい女を見たことがある、と。
そしてあの夜起きたことを、初めてお雪に語るのだった。
お雪は、黙ってそれを聞いていた。

語り終わった巳之吉は言った。
「今となって見ると、あれは雪女だったのか、夢だったのか。」
その時、お雪は巳之吉に背を向けたまま、静かに言う。
「夢ではない。」

「あれは私だよ。私。
・・・あの時見たことを、たとえ母親にでも、一言でも喋ったら
お前を殺すと言ったじゃないか。
だが殺せない。
この子たちがいなければ、すぐにでも殺したものを。
この子たちを立派に育ててください。
もし子供たちを悲しませるようなことがあったら、
その時は相応のことをいたしますよ。」
そう言うなり、あの日と同じように、
激しい雪の中へ消えていった。


「雪女」は映画やテレビでいろいろ映像化されていますが、
私としては小林正樹監督の「怪談」と、
以前NHKで放送された「日本の面影」というドラマ中の劇中劇が
すぐれたものとして記憶に残っています。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )