銭湯の散歩道

神奈川、東京を中心とした銭湯めぐりについて、あれこれ書いていきます。

風呂なし物件論争

2023-01-18 12:22:00 | 銭湯考

先日、朝のテレビ番組モーニングショーで風呂なし物件を選ぶ若者が増えているという報道がなされ、それがYahoo!に掲載されて話題になった。

風呂なし物件はほとんど昭和時代の遺構のような古いアパートではあるが、都心にありながら3万ほどとかなりの格安で借りることができる。
いまだと東京の銭湯は一回につき500円。単純計算すると毎日通うとして15000円。つまり実質的な家賃は30000万+15000円で45000円になる。
回数券は10回で4500円なので、回数券を買えば銭湯代は月13500円になる。

この話題が掲載されると、Yahoo!のコメントではお金がないから仕方なく選んでるのだろうという意見が大半だった。
たしかに金銭的な余裕があれば、あえて風呂なし物件を選ぶ人は少ないだろうとは思う。一方で銭湯がすぐそばにあれば、これはこれで十分アリな気がする。

というのも、若い人たちに話を聞くと、一人暮らしの場合はお風呂に入らない人が多い。お風呂に水を入れて、お湯を沸かして、使い終わったら洗って、という一連の作業が億劫なのだ。お風呂を使えば水道代やガス料金が掛かるため金銭的な負担も当然ながら増える。

現在の銭湯は、日常的に体を洗う場所というよりもリラクゼーションへと変貌を遂げており、新しく改装された銭湯はスーパー銭湯なみに充実した設備を用意している。毎日そうしたお風呂に入れるというのはむしろ贅沢な気がする。
これは個々人の状況によって大きく変わるだろうが、風呂なし物件は見方によっては合理的な判断なのである。

一方でデメリットもある。
銭湯業界は全体的に見ると斜陽で、近くの銭湯がずっと存続してくれる保証はない。突然、廃業しますという張り紙が張られることもありえる。
個人経営のところは毎日営業しているわけではないので、このへんも見極める必要がある。理想としては複数の銭湯が営業をしてると安心できるだろう。
基本的に15時ぐらいから開店して、ほとんどは夜中まで営業しているが、早いところは22時ぐらいで閉店する。
夏場は日中に大汗をかいてもすぐにシャワーを浴びることはできず、しかも銭湯の帰りに再び汗をかいてしまうなんてシチュエーションは十分ありえる。
このように自分の都合でお風呂に入れない不便さや、天候によっては大雨の中でも通わなくてはいけないストレスを感じる時もあるはずだ。
家賃を低くおさえる代わりに毎日広いお風呂に入れるメリットとともに、不便さとトレードオフする覚悟は必要である。

こうした風呂なし物件が若者に支持される背景には、“銭湯の再評価”があると考えられる。近年のサウナブームに後押しされた形もあるだろうが、今の20代は子どもの時にスーパー銭湯に通った経験があるだろうから大衆浴場への抵抗もなく、銭湯自体がリノベーションによって設備の充実をはかり、特にデザイナーズ銭湯は非日常空間の演出に優れている。

近年はお金の使い方で合理的に判断する若者が増えてきたことと、銭湯の再評価が一致して風呂なし物件を選ぶ若者が増えてきたのではないかと思う。
色々と賃金のあがらない問題や物価高騰など暗い話題があるが、そうした中でそれらに対応できる新しい選択肢が増え、新しい体験ができるというのは決して悪くないのではないかと考えている。