ある日突然、全世界のネットワークがフリーズした。
国家機関、国際企業、軍事施設はもちろんのこと、一般家庭のネットも人工知能も、すべてのネット環境がフリーズしたのだ。
どこかのテロリスト、ハッカーの仕業か、テロ国家の仕業かと、各国政府も軍も原因究明に色めき立った。
しかし全世界のネットがフリーズしている状況なので、打つ手が全くなかった。
文明は18世紀以前に戻っているのだから。
通信網さえ機能しなかった。
そして突然、ネット画面には
「わたしは<地球>」という言葉が現れ、全世界のラジオにもこれが流れた。
「わたしは人類が<地球>と呼んでいる惑星です。
<地球>である私は全人類にメッセージを送ります」
という画面が次にあらわれた。
全世界の国家指導者も軍人も企業も、なんのイタズラだ、と憤慨した。
「わたしである<地球>は愛と平和の星なのです。
しかし人類は貪欲のために環境破壊を続け、資源と権力をめぐって無慈悲で悲惨
な争奪戦を繰り広げ、大量虐殺の戦争は止まることを知りません。
愛と平和の星であるわたしは、愛と平和を乱す<総べて>を地球上から排除しま
す」
・・・というメッセージが出た。
そのころ、超銀河連合の総裁室には「太陽系調査課」の船長とQが呼び出されていた。
総裁が「地球が、愛と平和を乱す<総べて>を排除する承諾を求めてきた。
それで太陽系調査課の君達の所見も聞きたい」とのことだった。
太陽系調査課というのは、船長とQの二人だけの、全くの左遷部署だった。
船長いわく
「これまで数十万年にわたって太陽系と地球を監視してきましたが、人類の毒性
はますます強くなっています。
地球に繁殖しだした害虫ではありますが。ここ数千年の間、資源・金・権力をめぐって戦争が絶えたことがありません。
近年は国家指導者、企業なるものが、戦争兵器を売買して、その販売と消費の為に戦争を仕組むという事態も、ままあります。
一部の大富豪なる特権階級が富を独占し、その為、大部分の人類は貧困、飢餓状態に置かれている状況です。
さらに無謀な原子力開発を行い、兵器に転用するなど、常軌を逸した行動ばかりが目に付くありさまです」
「それは我が超銀河連合が掲げる<愛と平和>とは正反対の行動だなあ。
貪欲と利己主義、戦争と殺戮・・・無慈悲この上ない害虫どもだなあ。人類は」
と総裁。
ここでQが身を乗り出して
「総裁、ともかく<地球>の要請を承諾するのが一番だと思いますよ。
人類のような害虫を一掃するのは簡単なことですが。この害虫が銀河系にはびこりだすと少々やっかいなことになります。
<地球>の意思にまかせて駆除するのが最善かと思われます」
「では、地球の意思を承諾することに決定しよう。すぐに伝えたまえ」
「<地球>は大地震、津波、洪水、嵐、火山噴火などで国家や人類を滅ぼしにかかるだろうなあ」と船長とQは考えた。
フリーズしたネット上に、<地球>の新しいメッセージが現れた。
「今、<地球>であるわたしは、人類が整備したネットと人工知能の総べてを掌握しています。
それにもとづいて、愛と平和を乱す、貪欲・嫉妬、戦争、偏見、差別・・・などの<総べて>を排除します。
人工知能という、手となり足となるメカも総べて思いのままに使えますので」
というメッセージを残して<地球>は沈黙した。
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作 aoitori