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ブログ版 シュプリッターエコー

時が熟し始めた――田波克己個展

2008-02-23 19:07:38 | 美術
 神戸・三宮のギャラリーあじさいで神戸の画家・田波克己さんの個展を見ました。
 田波さんは人物やガラス器を独特の形態で描くひとです。
 ゆがんだり、ねじれたり、伸縮したり…、裸婦像やワイングラスがダイナミックに変形したかたちでカンヴァスの上にあらわれます。

 不思議なのは、どれも現実にはありえない姿なのに、すべてが強いリアリティー(実在感)を持って、そこに登場しているということです。
 まるで絵の中にはこちらの世界とは違う特別な物質の法則があって、田波さんの人物像や静物はその向こうの特別な法則にのっとって強力にそこに出現しているような感じです。

 今度の個展で初めて知ったことですが、田波さんはモデルをデッサンするあいだ、見つめているのはモデルのほうだけで、カンヴァスで動かしている手のほうは見ないそうです。
 すべてを目にたよるような描き方でほんとうにものの本質をつかむことができるのか、そこにこのひとの疑問があるというのです。

 目で見て、それを体全体、五感のすべてを働かせながら描く。
 そういうことができないか、懸命に試みているのです。
 モデルが変形していくのも、モデルが五感を通っていくうちに、部分部分の手ごたえに従って、そのように形が定まっていくからだともいえるでしょう。

 とくに今回は絵に温かさ、豊かさがあらわれているように見えました。
 デッサンの線が非常に厳しい画家ですが、そこに、なにか心にしみるものが漂い始めているのです。
 花がほころぶときのような…。
 時が熟しかけているようです。

 個展は2月24日(日)まで。ギャラリーあじさいは078.331.1639