お気に入りのセリフはあった? 私は・・・
「家にないものをデイヴィス夫人から借りたいわ。私の夫とかね」
多数のオスカー候補になったこの映画は、才能ある人間が挫折して、他者との触れ合いの中で自分を取り戻し、栄冠を手にする物語である。
あれ?じゃ、もしかして「トップガン」や「デイズ・オブ・サンダー」だってちょっと作り方を変えればオスカー候補になったんじゃ????と、いらぬことを考えてしまう。「トップガン」を引き合いに出すまでもなく、これと似通った物語構造の映画はアメリカにはいくらでもある。ましてこの映画のような偉人伝の場合、どれもこれも大同小異。この映画も凡百の偉人伝の類似品にすぎない。
・・・と、非難めいたことを先に書いたが、僕はこの映画・・・めっちゃ大好き。時代も洋の東西も問わず皆が楽しめる娯楽の定番なんだから、面白いのは当然。ただ、それだけではない魅力がこの作品にはある。キャラクター描写の細やかさ、いや正確に言うと、人間関係を深く掘り下げているところが、他の凡百の偉人伝より一歩飛び出ている。そう感じる。
さて、パンフレットの「INTRODUCTION」の記載内容にケチをつけたい。
「人間同士の絆が育まれていく過程を慈しむようなまなざしで味わい深く描き上げていく演出」
まあ、いかにも客を呼べそうな書き方ではあるが、本作のマーク・フォースター演出が秀逸だったのは、「育まれていく絆の影で、破壊され捨てられ忘れられる絆を、癒され救われる人の影で犠牲になる人を」憐憫を込めて描いている点にある、と、僕は思う。
犠牲もまあサクセスストーリーには不可欠だ。「トップガン」の事故死する相棒、「デイズ・オブ・サンダー」の夢を断たれるライバル(いちいち引き合いに出すこともない2作だが・・・)。だが「ネバーランド」では、見方によってはもっと残酷な犠牲が伴う。それがJ.M.バリーの妻だ。
バリーがデイヴィス夫人を愛し、その子ピーターと心を通わせる一方で、彼は家庭を犠牲にし、妻は夫のいない家に残される。「ピーター・パン」の成功は、バリーが自分以外の誰かのために書くことができたからだ。その「誰か」の栄誉は本来なら彼の妻に与えられるべきだった。しかしデイヴィス夫人とピーターたち四人の子供に会うまで、バリーは自分のためにしか書くことができなかった。妻だって夫を助けたかったろうが、自分にはそれができないと悟り、去っていく彼女の胸中を思うに切ない。
「ピーター・パン」の初演に、一人こっそりと観に来ていた妻。ばったり出くわすバリー。ラスト近くのこのささやかなシーンこそ、「誰もが愛する名作の誕生」と引替えの「犠牲」を僕ら観客に突き付ける、最も痛ましいシーンなのだ。僕はこのシーンで泣いた。絶対にネバーランドに足を踏み入れることのできない人間が少なくとも一人はいたのだ。
なお、前述の台詞はバリー夫人が夫の喪失を最初に予感するときのものである。言い回しがいいね。
そんなこんなで、僕の場合、デイヴィス夫人を演じたケイト・ウィンスレットより、バリー夫人を演じたラダ・ミッチェルの方がポイント高い。
ていうか、デイヴィス夫人とバリーのプラトニックな恋愛の方は、ピーター・パン誕生秘話を神格化している感じがして気持ち悪い。・・・は、言い過ぎだけど、なんか流行りの純愛映画観てるみたいでイマイチ乗れなかった。
だいたいケイトって、なんかいかにも肉体派な感じの容姿が純愛キャラには向かないのでは・・・なんて人を見た目で判断しちゃいけないよね。(いつベッドインするのだろうと期待したのは事実だが)
他に印象的な台詞をいくつか・・・
「ほんの小さな想像力でたちまち見えてくる」
誰もが持っている想像力。その無限の可能性。ストレートすぎる表現だが、いい台詞だ。
もっとも、その想像力を具現化できるのはバリーのような(あるいはマーク・フォースターのような、ジョニー・デップのような)ごく限られた天才だけなんだけど。可能性くらいはみんな秘めている。
「批評家どもは芝居を重視しすぎる。元々はなんだ?」
「Play(演劇)だ」
「そう、Play(遊び)だ」
これは翻訳の妙かもしれんけど。ダスティン・ホフマン(元フック船長)演じる興行主殿も、子供心を信じる男だったってことを匂わせるやりとり。いつの時代も子供心を忘れない大プロデューサーの存在が、才能を伸ばし、皆に夢を見せる。スピルバーグとかブラッカイマーとか。想像力と同じくらい金の力も信じてそう、特にブラッカイマー・・・。この映画はMIRAMAX社製。ふふふ、きっと試写をみたハーヴェイ・ワインシュタイン(MIRAMAXのボス)は「あのダスティンは俺さ!」と思ったでしょう。それこそ金・金・金、金さえあればネバーランドだって買える、と思ってそうな感じもする人ですが。関係ないけどネバーランド・子供・金・というキーワードからマイケル・ジャクソンがちらついてきました。危険だから次いってみましょう。
「彼は早く大人になりたがっている。大人になれば傷付かずに済むと思っている」
子供の抱く「大人」など幻想にすぎない。子供で居続けることの大切さを教えてやりたい、と願うバリーの台詞。
だからといって彼は「大人」を全否定してはいない。
デイヴィス夫人の長男ジョージの成長を讃えてこうも言う
「すごいな、たった30秒で君は大人になった」
※紹介した全ての台詞はうろ覚えです。私は英語はまったくわからんので、原語が全然違うニュアンスだったとしても私にはわかりません。
おっとっと、一人褒め忘れた。
音楽のヤン・A・P・カチュマレック。「運命の女」の時も素晴らしかったけど、今回はもっと良かった。繊細で、木管とピアノの音が、挫折した作家と気難しい少年を優しくつつみこむ。完全に彼等によりそって作られた音楽だ。「ネバーランド」は多数のオスカー候補を排出した。個人的にも大好きな映画だし、ジョニーも素晴らしかった。しかし、作品賞や監督賞は難しいだろう。主演男優賞は獲るかもしれんが、ちと微妙。しかし作曲賞は絶対受賞すると大胆にも予想しよう(外れたら恥ずかしいな)。
*********追記 05/3月********
予想通りの受賞でした!!どんなもんだい。サントラも最近買った。もう少しアクの強さがほしいけど、やっぱ泣ける曲だ。
************************
ヤン・A・P・カチュマレックはポーランドの作曲家だ。ポーランドの作曲家と言えば、ヴォイチェク・キラールもいるし、ズビグニエフ・プレイスネルもいるし、才能ある作曲家の宝庫だ。しかし困ったことに全員名前が覚えにくい・・・。
↓面白かったらクリックしてね
人気blogランキング
自主映画撮ってます。松本自主映画製作工房 スタジオゆんふぁのHP
「家にないものをデイヴィス夫人から借りたいわ。私の夫とかね」
多数のオスカー候補になったこの映画は、才能ある人間が挫折して、他者との触れ合いの中で自分を取り戻し、栄冠を手にする物語である。
あれ?じゃ、もしかして「トップガン」や「デイズ・オブ・サンダー」だってちょっと作り方を変えればオスカー候補になったんじゃ????と、いらぬことを考えてしまう。「トップガン」を引き合いに出すまでもなく、これと似通った物語構造の映画はアメリカにはいくらでもある。ましてこの映画のような偉人伝の場合、どれもこれも大同小異。この映画も凡百の偉人伝の類似品にすぎない。
・・・と、非難めいたことを先に書いたが、僕はこの映画・・・めっちゃ大好き。時代も洋の東西も問わず皆が楽しめる娯楽の定番なんだから、面白いのは当然。ただ、それだけではない魅力がこの作品にはある。キャラクター描写の細やかさ、いや正確に言うと、人間関係を深く掘り下げているところが、他の凡百の偉人伝より一歩飛び出ている。そう感じる。
さて、パンフレットの「INTRODUCTION」の記載内容にケチをつけたい。
「人間同士の絆が育まれていく過程を慈しむようなまなざしで味わい深く描き上げていく演出」
まあ、いかにも客を呼べそうな書き方ではあるが、本作のマーク・フォースター演出が秀逸だったのは、「育まれていく絆の影で、破壊され捨てられ忘れられる絆を、癒され救われる人の影で犠牲になる人を」憐憫を込めて描いている点にある、と、僕は思う。
犠牲もまあサクセスストーリーには不可欠だ。「トップガン」の事故死する相棒、「デイズ・オブ・サンダー」の夢を断たれるライバル(いちいち引き合いに出すこともない2作だが・・・)。だが「ネバーランド」では、見方によってはもっと残酷な犠牲が伴う。それがJ.M.バリーの妻だ。
バリーがデイヴィス夫人を愛し、その子ピーターと心を通わせる一方で、彼は家庭を犠牲にし、妻は夫のいない家に残される。「ピーター・パン」の成功は、バリーが自分以外の誰かのために書くことができたからだ。その「誰か」の栄誉は本来なら彼の妻に与えられるべきだった。しかしデイヴィス夫人とピーターたち四人の子供に会うまで、バリーは自分のためにしか書くことができなかった。妻だって夫を助けたかったろうが、自分にはそれができないと悟り、去っていく彼女の胸中を思うに切ない。
「ピーター・パン」の初演に、一人こっそりと観に来ていた妻。ばったり出くわすバリー。ラスト近くのこのささやかなシーンこそ、「誰もが愛する名作の誕生」と引替えの「犠牲」を僕ら観客に突き付ける、最も痛ましいシーンなのだ。僕はこのシーンで泣いた。絶対にネバーランドに足を踏み入れることのできない人間が少なくとも一人はいたのだ。
なお、前述の台詞はバリー夫人が夫の喪失を最初に予感するときのものである。言い回しがいいね。
そんなこんなで、僕の場合、デイヴィス夫人を演じたケイト・ウィンスレットより、バリー夫人を演じたラダ・ミッチェルの方がポイント高い。
ていうか、デイヴィス夫人とバリーのプラトニックな恋愛の方は、ピーター・パン誕生秘話を神格化している感じがして気持ち悪い。・・・は、言い過ぎだけど、なんか流行りの純愛映画観てるみたいでイマイチ乗れなかった。
だいたいケイトって、なんかいかにも肉体派な感じの容姿が純愛キャラには向かないのでは・・・なんて人を見た目で判断しちゃいけないよね。(いつベッドインするのだろうと期待したのは事実だが)
他に印象的な台詞をいくつか・・・
「ほんの小さな想像力でたちまち見えてくる」
誰もが持っている想像力。その無限の可能性。ストレートすぎる表現だが、いい台詞だ。
もっとも、その想像力を具現化できるのはバリーのような(あるいはマーク・フォースターのような、ジョニー・デップのような)ごく限られた天才だけなんだけど。可能性くらいはみんな秘めている。
「批評家どもは芝居を重視しすぎる。元々はなんだ?」
「Play(演劇)だ」
「そう、Play(遊び)だ」
これは翻訳の妙かもしれんけど。ダスティン・ホフマン(元フック船長)演じる興行主殿も、子供心を信じる男だったってことを匂わせるやりとり。いつの時代も子供心を忘れない大プロデューサーの存在が、才能を伸ばし、皆に夢を見せる。スピルバーグとかブラッカイマーとか。想像力と同じくらい金の力も信じてそう、特にブラッカイマー・・・。この映画はMIRAMAX社製。ふふふ、きっと試写をみたハーヴェイ・ワインシュタイン(MIRAMAXのボス)は「あのダスティンは俺さ!」と思ったでしょう。それこそ金・金・金、金さえあればネバーランドだって買える、と思ってそうな感じもする人ですが。関係ないけどネバーランド・子供・金・というキーワードからマイケル・ジャクソンがちらついてきました。危険だから次いってみましょう。
「彼は早く大人になりたがっている。大人になれば傷付かずに済むと思っている」
子供の抱く「大人」など幻想にすぎない。子供で居続けることの大切さを教えてやりたい、と願うバリーの台詞。
だからといって彼は「大人」を全否定してはいない。
デイヴィス夫人の長男ジョージの成長を讃えてこうも言う
「すごいな、たった30秒で君は大人になった」
※紹介した全ての台詞はうろ覚えです。私は英語はまったくわからんので、原語が全然違うニュアンスだったとしても私にはわかりません。
おっとっと、一人褒め忘れた。
音楽のヤン・A・P・カチュマレック。「運命の女」の時も素晴らしかったけど、今回はもっと良かった。繊細で、木管とピアノの音が、挫折した作家と気難しい少年を優しくつつみこむ。完全に彼等によりそって作られた音楽だ。「ネバーランド」は多数のオスカー候補を排出した。個人的にも大好きな映画だし、ジョニーも素晴らしかった。しかし、作品賞や監督賞は難しいだろう。主演男優賞は獲るかもしれんが、ちと微妙。しかし作曲賞は絶対受賞すると大胆にも予想しよう(外れたら恥ずかしいな)。
*********追記 05/3月********
予想通りの受賞でした!!どんなもんだい。サントラも最近買った。もう少しアクの強さがほしいけど、やっぱ泣ける曲だ。
************************
ヤン・A・P・カチュマレックはポーランドの作曲家だ。ポーランドの作曲家と言えば、ヴォイチェク・キラールもいるし、ズビグニエフ・プレイスネルもいるし、才能ある作曲家の宝庫だ。しかし困ったことに全員名前が覚えにくい・・・。
↓面白かったらクリックしてね
人気blogランキング
自主映画撮ってます。松本自主映画製作工房 スタジオゆんふぁのHP
「Play(演劇)だ」
「そう、Play(遊び)だ」
私はここが一番印象に残っています。鑑賞後はさわやかな気分で劇場を後にしましたが、すでに映画の詳細については忘れてしまいました^^;
お客さんに楽しんでもらうには、まず自分達が楽しまなきゃならない
映画も演劇もたっぷり遊んでこそいいものができるんでしょうね。多分。
ネバーランドのシーンとか、映画の作り手たちの遊びが伝わってきて心地よかったです。
長男のジョージが子供から大人になった瞬間の
あの顔が一番印象強いです。
ええ、確かにいい顔でした。
その時のジョニーの台詞
「すごいな、たった30秒で君は大人になった」
印象深かったのですが、ほんと言うと個人的には以下のように喋って欲しかったです
「すごいな、たった30秒で君は漢になった」
("漢"の上に"オトコ"とルビをふる)
かな…?
この映画は確かに音楽がよかった。サントラ欲しいと思いましたもん。
これだから地方都市は・・・
僕もビーターパンって呼ばれたいと思いました。僕も目が潤みました。
意味もシチュエーションも全く違いますが、スピルバーグはジョン・ウィリアムズをさして「彼こそE.T.だ」と言ったそうです。
こういうのに例えられるといいのですが、「あの人がプレデターだ」とか、「彼女こそ貞子さ」とか言われると微妙ですね
また古記事持ち出して、スミマセン。
心にググッとくるセリフ、ウンウンと
うなづきながら読みました。
奥さんは気の毒ですが、あそこまで
価値観が違ったら仕方ないですよ。
もともと、バリの名声に惹かれて結婚
したんですし・・・。
トップガンのデジタルリメイクは、今ナゼ
なんでしょう?