全く期待していなかった映画が予想以上に面白かった時、その映画のほめ方は少々過剰になってしまうものだ、と前置きしておく。
すんげー面白かった。さすがブラッカイマー。最高に心が躍った。
カット割はオーソドックスでアクションシーンは月並みながらも、この映画を力強いものにしているのは、キャラクター造形にある。登場人物みんなが生きる意味は何だ?今の俺は崇高に生きているのか?と絶えず悩み葛藤しながら物語を進めていく。ヒーローのアーサーも、取り巻きの騎士たちも、ヒロインも、さらには敵までも!!肝心なのは敵の描き方だ。
ブリテン侵略のため数千のサクソン人が上陸する。サクソン人の王は、ブリテン人の女をレイプしている部下を、「決して交わってはならん!弱い子供が生まれる!!」と言い放ち斬り捨ててしまう。犯されていた女は「ありがとうございます!」と泣きながら感謝の言葉を言うが、サクソン王はその女も「殺せ」と部下に命じる。冷酷な男だが、残忍ではない。甘い正義感や倫理観など侵略軍の王には不要であるということをよく判っており、彼なりに己を律し美学のようなものを貫いている。
彼にとっての戦争はいかに自分の美学をを貫くかであり、それを持たない者は敵も味方も軽蔑していたのだろう。そしてクライマックスの直前。数千のサクソン軍によって包囲されたローマ軍の砦に、たった一人で残り迎え撃とうとするアーサーに対して、サクソン王は自ら軍使となり降伏勧告の交渉に赴く。
サクソン王「降伏するならひざまずき許しを乞うのだ」
アーサー「フッ…、私はお前の顔を見にきたのだ。戦場でお前を探しやすいようにな。お前もこの顔をよく覚えておくがいい。次にこの顔を見た時、それが、お前の生涯最後に見る顔となる。」
そしてアーサーは悠然と(一人の味方もいない)砦に引き返していく。サクソンの王は叫ぶ。それは侮辱されたことに対する怒りの叫びではない。歓喜の叫びなのだ!!
サクソン王「うぉぉ!!ついに出会ったぞ!!殺すに値する男に!!」
単純明快を好むハリウッドの娯楽作においては、通常悪役はひたすらに悪く、残忍であり、人間的な要素はめったに見せない。それがこの映画、しかもブラッカイマー映画において(!)、悪役がこれほど魅力的に描かれるとは!!
ま、このシーンの後は、円卓の騎士たち(すでに自由を手に入れ、万が一の勝ち目もない戦場に戻るはずのない円卓の騎士たち)が、全員戻ってきたり(当然戻ってきた時、アーサーも騎士も何も言わずニヤっと笑う)、それまで敵だったブリテンの原住民たちが加勢したりと、お決まりにもほどがある展開となるのだが…
ここでもサクソン王は無様な戦いはせず、円卓の騎士の一人をぶち殺し強さをアピールすることも忘れない。(またこの時、殺される騎士が最期に見る大空が…泣かせるんだなぁ)
ちなみにサクソン王を演じたのはスティラン・スカルスグールド。北欧系の俳優で最近ではラース・フォン・トリアー作品の常連だ。ヨーロッパのアート系映画でつちかった彼の演技力がこの役に深みを与えている。
サクソンの王についてばかり書いたが、この映画は登場人物たちの口からでる台詞が一々名台詞であり、心が躍る。
「みんな聞くのだ!!人はみな生まれながらに平等なのだ!!」
「なぜ神にばかり語りかけ、友である俺には語りかけない?!」
「俺はもうローマを信じない。だが、お前のために戦おう」
「我らの敵はローマだった。お主ではない。お主になら、我が民は従うだろう」
「頼む、友情のため、俺たちと逃げてくれ!」「友情を感じるなら、戦わせてくれ!」
…どれもこれも、ウヒーっと鳥肌が立つかっこよさである。
さらにいかにもなキャスティング。ヒーロー、円卓の騎士など強い奴は男前。強いヒロインはスタイル抜群の美女。ローマ人のずるがしこく悪い奴はデブだったりハゲだったり醜悪系。次期教皇候補とも言われる聡明な少年はもちろん美少年。原哲夫の漫画か!!?
これといったスターはいないが、みんな最高にかっこいい奴らなんだ!!
どこを切っても熱い騎士の血が流れているこの映画。監督はアントワン・フークア。ユンファのハリウッド第ー作「リプレイスメント・キラー」を撮っている。
スラム出身の黒人監督でデンゼルのオスカー主演賞作「トレーニング・デイ」ではスラム育ちを生かして実際の黒人ギャングたちに出演交渉したり、デンゼルに黒人の悪いイメージそのまんまの役をさせたり、もしかして社会派系アート作品で出世するか…と思わせて、昨年「ティアーズ・オブ・ザ・サン」でメジャー系大味戦争映画を撮ってしまう。大予算で却って才能を潰されていく運命かと思ったら、「キング・アーサー」
そういえば「ティアーズ…」の映評で「七人の侍」との類似性を書いた覚えがあるが、「キング・アーサー」のパンフを見てびっくり。フークアは黒澤の大ファンで「キング・アーサー」についても弱きを守り戦う騎士たちは侍をイメージしてるとかなんとか。
ユンファ映画を撮り、黒澤ファンの黒人監督が、ヨーロッパ史のヒーローをアジア臭むんむんの暑苦しい男として描いたことに何の不思議もなく、黒人と東洋人の精神的絆を見た思いだ。
すんげー面白かった。さすがブラッカイマー。最高に心が躍った。
カット割はオーソドックスでアクションシーンは月並みながらも、この映画を力強いものにしているのは、キャラクター造形にある。登場人物みんなが生きる意味は何だ?今の俺は崇高に生きているのか?と絶えず悩み葛藤しながら物語を進めていく。ヒーローのアーサーも、取り巻きの騎士たちも、ヒロインも、さらには敵までも!!肝心なのは敵の描き方だ。
ブリテン侵略のため数千のサクソン人が上陸する。サクソン人の王は、ブリテン人の女をレイプしている部下を、「決して交わってはならん!弱い子供が生まれる!!」と言い放ち斬り捨ててしまう。犯されていた女は「ありがとうございます!」と泣きながら感謝の言葉を言うが、サクソン王はその女も「殺せ」と部下に命じる。冷酷な男だが、残忍ではない。甘い正義感や倫理観など侵略軍の王には不要であるということをよく判っており、彼なりに己を律し美学のようなものを貫いている。
彼にとっての戦争はいかに自分の美学をを貫くかであり、それを持たない者は敵も味方も軽蔑していたのだろう。そしてクライマックスの直前。数千のサクソン軍によって包囲されたローマ軍の砦に、たった一人で残り迎え撃とうとするアーサーに対して、サクソン王は自ら軍使となり降伏勧告の交渉に赴く。
サクソン王「降伏するならひざまずき許しを乞うのだ」
アーサー「フッ…、私はお前の顔を見にきたのだ。戦場でお前を探しやすいようにな。お前もこの顔をよく覚えておくがいい。次にこの顔を見た時、それが、お前の生涯最後に見る顔となる。」
そしてアーサーは悠然と(一人の味方もいない)砦に引き返していく。サクソンの王は叫ぶ。それは侮辱されたことに対する怒りの叫びではない。歓喜の叫びなのだ!!
サクソン王「うぉぉ!!ついに出会ったぞ!!殺すに値する男に!!」
単純明快を好むハリウッドの娯楽作においては、通常悪役はひたすらに悪く、残忍であり、人間的な要素はめったに見せない。それがこの映画、しかもブラッカイマー映画において(!)、悪役がこれほど魅力的に描かれるとは!!
ま、このシーンの後は、円卓の騎士たち(すでに自由を手に入れ、万が一の勝ち目もない戦場に戻るはずのない円卓の騎士たち)が、全員戻ってきたり(当然戻ってきた時、アーサーも騎士も何も言わずニヤっと笑う)、それまで敵だったブリテンの原住民たちが加勢したりと、お決まりにもほどがある展開となるのだが…
ここでもサクソン王は無様な戦いはせず、円卓の騎士の一人をぶち殺し強さをアピールすることも忘れない。(またこの時、殺される騎士が最期に見る大空が…泣かせるんだなぁ)
ちなみにサクソン王を演じたのはスティラン・スカルスグールド。北欧系の俳優で最近ではラース・フォン・トリアー作品の常連だ。ヨーロッパのアート系映画でつちかった彼の演技力がこの役に深みを与えている。
サクソンの王についてばかり書いたが、この映画は登場人物たちの口からでる台詞が一々名台詞であり、心が躍る。
「みんな聞くのだ!!人はみな生まれながらに平等なのだ!!」
「なぜ神にばかり語りかけ、友である俺には語りかけない?!」
「俺はもうローマを信じない。だが、お前のために戦おう」
「我らの敵はローマだった。お主ではない。お主になら、我が民は従うだろう」
「頼む、友情のため、俺たちと逃げてくれ!」「友情を感じるなら、戦わせてくれ!」
…どれもこれも、ウヒーっと鳥肌が立つかっこよさである。
さらにいかにもなキャスティング。ヒーロー、円卓の騎士など強い奴は男前。強いヒロインはスタイル抜群の美女。ローマ人のずるがしこく悪い奴はデブだったりハゲだったり醜悪系。次期教皇候補とも言われる聡明な少年はもちろん美少年。原哲夫の漫画か!!?
これといったスターはいないが、みんな最高にかっこいい奴らなんだ!!
どこを切っても熱い騎士の血が流れているこの映画。監督はアントワン・フークア。ユンファのハリウッド第ー作「リプレイスメント・キラー」を撮っている。
スラム出身の黒人監督でデンゼルのオスカー主演賞作「トレーニング・デイ」ではスラム育ちを生かして実際の黒人ギャングたちに出演交渉したり、デンゼルに黒人の悪いイメージそのまんまの役をさせたり、もしかして社会派系アート作品で出世するか…と思わせて、昨年「ティアーズ・オブ・ザ・サン」でメジャー系大味戦争映画を撮ってしまう。大予算で却って才能を潰されていく運命かと思ったら、「キング・アーサー」
そういえば「ティアーズ…」の映評で「七人の侍」との類似性を書いた覚えがあるが、「キング・アーサー」のパンフを見てびっくり。フークアは黒澤の大ファンで「キング・アーサー」についても弱きを守り戦う騎士たちは侍をイメージしてるとかなんとか。
ユンファ映画を撮り、黒澤ファンの黒人監督が、ヨーロッパ史のヒーローをアジア臭むんむんの暑苦しい男として描いたことに何の不思議もなく、黒人と東洋人の精神的絆を見た思いだ。