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ALIQOUI film 制作作品公開 『Soulmate』 (2008年作品 18分)

2020-04-15 16:48:39 | ALIQOUI Film制作自主映画の紹介
コロナで外出自粛の昨今だから、過去作品Web公開
第4弾は

『Soulmate』
2008年作品 18分



第1回商店街映画祭ALWAYS松本の夕日 最優秀賞受賞

監督 齋藤新/齋藤さやか
脚本 齋藤さやか
撮影 齋藤新/齋藤さやか
音楽 竹内賢太郎/齋藤新
出演 加藤真記/じゅにあ(宮沢ヨウコ)/西村宗基


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2007年の秋か冬くらいだったか、妻が松本で行われる映画祭が作品募集をしているというニュースを聞きつけた。
商店街映画祭と銘打たれたそのコンペは、松本市の縄手商店街または中町商店街でロケを行うことを条件とした新作映画のエントリーを求めているという。商店街ロケ許可証も発行するという(ただし商店街内の各店舗内でのロケは各自で交渉が必要)
未発表作品で10分以内。賞金は50000円とのことだった。
(ちなみに商店街映画祭は第2回目からは松本での撮り下ろし新作に限らず広く全国から集めるようになった。)
 
 
妻はほぼ反射的にエントリーしていた。
 
これがその後長く深いお付き合いとなる商店街映画祭実行委員(現松本映画祭プロジェクト)の方々との出会いにつながった。
 
 


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この映画は私の映画作家復帰作だった。
実はこれにエントリーするほんの少し前まで、仕事を2ヶ月以上休んでいて、社会復帰したばかりだった。
果たして以前のように映画撮れるのだろうか、という不安もないではなかった。
だが結果として、この映画のおかげで自分は本当の意味で復活できたような気がする。

脚本は妻が書いた。
「未来から商店街を救うためにタイムスリップ」という基本ラインはごく初期の段階から一貫していた。ただし最初期の段階ではターミネーターのような未来から殺しの任務を帯びた者が来るという構想だった。よくここまでほのぼの路線に修正できたものだ。
 
 
ともかく色々検討した結果、前世の自分に会うためにタイムワープしてくる23世紀の女子大生という設定に落ち着く。前世の自分はカエルを絶滅から救い、カエルをシンボルとしていた商店街も救うことになった23世紀では偉人と讃えられている女性。
しかし実際に会ってみると生まれ育った商店街を捨てて東京に行こうとしている悩める弱気な女性だった・・・

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「前世の私」であるミウラサエコは、最初から宮沢ヨウコさんを想定していた。前作『猫とり名人』のネズミの奥方様役の演技が素晴らしくて、もう一回一緒にやりたかったのである。
問題は他の2名の主要キャラで、未来の女子大生ユメナス(自称ユメコ)と、未来のアンドロイド科学者ラル。
全くアテがなかったので、私たちは例によってあの人に相談した。
リコさんだった。
前々作、前作と出演およびキャスト集めに奔走してくれたリコさんはこのころ、「またいい人がいますよ旦那」って感じで時々私に役者情報を展開してくれていた。

ただ『Soulmate』のプロジェクトを始動したころ、彼女はすでに劇団「れんげでごはん 」を立ち上げていたころだったと思う。そちらが忙しくなっていたころだった。
それでも彼女はまた素敵な役者を紹介してくれた。それが加藤真記さんだった。

この映画に魂を入れてくれたのは間違いなく真記さんだ。ユメコは彼女が演じたというよりも創作したと言ってもいいレベルで、ある意味計算外だった。
そこにいるだけで楽しくなるし、ハラハラが伝わるし、ちょっとした仕草がいちいち面白かった。90年代のエマ・トンプソンみたいだと思った。
真記さんと一緒に撮ったのはこの一作だけだ。非常に残念ながら。いつかまた一緒にやりたいとずっと思ってる。
  
  
もう一人、アンドロイドのラルは「れんげでごはん 」の西村宗基君に演じていただいた(ラルという名前は妻がつけたのだが、このころ結構二人でガンダム見てたころだったのでランバ・ラルからとったのだと思う)。もちろんリコさんからの斡旋だった。
彼は後々「れんげでごはん 」の主要俳優になっていく。そこはかとなく漂ういい人っぽさが魅力だ。しかしこの映画は感情のないアンドロイドで私としてはT800型ターミネーターみたく演出しようと思った。ただ確か西村君がその辺のハリウッドSFにあまり造詣が深くないことが打ち合わせの中でわかり、私は彼との共通言語を探った。
好きな映画は?と聞くと「ジブリ」と言ったので、「悪になる前のムスカみたいに」と注文つけたような覚えがある。なんだろそれ。
  
  
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正直いうとこの映画では随分遊んだ。
未来っぽいロケ地として松本市美術館にロケを頼んだりした。
そんなことより、中町の居酒屋「Bun」のシーンだ。
ここは小津の『東京物語』の笠智衆と東野英治郎の二人の居酒屋のシーンを調べてカット割りもかなりそれに寄せた。音楽もポルカにした。小津オマージュの塊みたいにして撮った。
そのシーンの中に、ヨウコさんが体ごとカメラの方を向いてから喋り出す、というカットがあるのだが、何テイクか撮った後にあまりにも完璧に小津っぽい所作になったので、最高だったのに笑ってしまった。「何かまずかったですか?」と不安そうに聞くヨウコさんだが、いや完璧でした、完璧すぎて笑っちゃいました、と答えたが、怪訝そうな顔をしていた。ごめんなさい。
  
  
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今回公開しているのは長尺の18分版だが、映画祭の規定は10分だった。そこでいろんなシーンを削りに削った。もうこれ以上削れないくらい削ってもまだ12分くらいだったので、最後の手段でいくつかのシーンを少しーだけ早送りしてなんとか10分に収めたバージョンを提出した。
  
  
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映画祭当日。
会場だった中町蔵シック館に行くと、その時多分初対面、じゃなくてもそれに近いくらいだった映画祭スタッフのカヨさんがいきなりユメコのセリフで語りかけてきたので、逆に固まってしまった。
その日はゲスト審査員の山崎貴監督も来場されていた。ちなみに監督ご本人が映画祭当日に会場に来たのはこの第1回と第10回だけで、今から思うととてもレアな体験だった。
エントリー作品10作くらいが紹介された。この時上映された映画祭実行委員長の河西さんが自ら監督したワンショット映画「ラブラブ商店街縄手」に、これが最優秀ではないか?と危機感を感じたことを思い出す。タイトルからエンドロールに至るまで全部ワンショットで完全無編集のその映画は今でもすごいと思っている。
そして市内の高校生が撮った映画も二作品ありどちらも面白かった。『町のお菓子い屋さん』は山崎監督がとても気に入ったようで褒めていた。
そんなわけで自分の映画の受賞はないだろうと思っていたのだが、結果は『Soulmate』の最優秀賞だった。
そう、実はこれが自分の人生で初の「最優秀賞」とか「グランプリ」とか「ベストワン」とかその類のものだった。
ロベルト・ベニーニみたいに大はしゃぎすれば良かったかもしれないが、なんだか変にクールに対応してしまい、いけすかない印象を与えてしまったのかもしれない。(反省して第二回の時は大はしゃぎする心の準備をしていたのだが、その時はノミネート止まりだった)
  
  
でも、おかげで映画祭実行委員の河西さんとカヨさんとつながりが生まれた。お二人はのちにご結婚され、結婚披露宴で上映するビデオの撮影もすることになった。河西さんは結構最近まで歴代商店街映画祭の個人的ベストワンは『Soulmate』だと仰ってくれていた。
それから商店街映画祭とは深い付き合いが始まり、商店街映画祭(のちの松本映画祭プロジェクト)主催の映画ワークショップで講師をさせていただいたりもした。
また第3回以降は私が作品募集担当となって、知り合いの映画作家に作品応募を頼んだりするようになったり、何度かは審査員としても参加させていただいたりもした。私が一本釣りした監督の多くが商店街で賞に輝き、そうした監督とは今も作品制作や上映で協力しあったりしている。
結果として『Soulmate』はそれからの私の自主映画制作に非常に大きく影響を与えた作品となった。
  
  
商店街以外にも随分応募したけど他には1つもかすりもしなかった。けれども、たくさんの映画祭で評価されるよりずっと多くのものを商店街映画祭からもらえたと思っている。

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