おかげさまでいくつかの映画祭に参加することができ、そこで数々の面白い自主映画とめぐり合えました。
すごい才能の持ち主、情熱の持ち主たちに刺激をうけた一年でした
鑑賞作品数33にものぼり全ては紹介できないので、10作品にしぼって紹介してみたいと思います
仇討ち
監督:谷口未央 (富山短編映画祭にて)
別に時代劇ではなく青春もので、剣道に励む中学男子が憧れのおねえさんを傷つけた男に制裁加える話です。見事仇討ちを果たしたというのに、おねえさんは去り道場もつぶれ少年にのしかかるのは敗北感。
中学生という大人でも子供でもない微妙な年頃だけに傷ついた心を自分でどうすることもできないかのように、ただぼんやりと電車の窓の外の風景を眺めつづけるラスト。役者たちの芝居の見事さもあって胸にキュンキュンくる映画でした。
A LITTLE WORLD
監督:藤井道人 (ダマー映画祭inヒロシマにて)
恋にも友情にも仕事の関係にもカラダの関係にもならず、たった一晩だけ夜の渋谷を一緒に過ごして別れる男女。
キスはおろかメアドや電話番号やtwitterのIDの交換もせず、もしかしたら本名も知らないまま別れたのかもしれない。だからfacebookでもつながらないだろう。
ひょっとして10年後二人は再会するかもしれない。ああ、あの時のなんて言って、そこから恋に発展するかもしれない。そんな二人の10年後に思いを馳せれば、それは逆に観客の心のどっかにある、あの日あの時ちょっとだけいい感じだった気がしないでもなかった人の記憶をくすぐる。
もちろん二人はその後会うことはないだろう。でも人生の一瞬を占めるいい思い出はずっと残る。
演技も映像も素晴らしかった。
けれども「仇討ち」も「A LITTLE WORLD」も素晴らしいけど、自分はこういう映画は撮らないだろうなと思う。だからこそ愛しく思える映画なのかな。
色声
監督:八幡貴美 (ダマー映画祭inヒロシマにて)
自分では撮らないというか、どんなことしても絶対に考え付かない映画。例えばこの脚本と充分な資金を頂いたとしても絶対にいい映画にできないと感じる映画
自分の想像力の及ばない映画というか、全く違うタイプの想像力をもっている監督だと思う。
声にだけ性的興奮を覚える女性が、次第に男の苦痛の叫びに快感を味わうようになって、声に対する欲求をエスカレートさせていく。この設定自体かなり奇抜なのだが、さらに声による興奮を視覚化した妙な胎内みたいなセットで裸の男がのたうつ映像は、自分にとって想定外の映像体験。
こういうオンリーワンな感性の監督は応援したい。
声フェチ女性を演じた女優さんは、今年の私的アカデミー賞自主映画部門の主演女優賞。
ただひとつ判らない点。ラスト、男はなぜあれほど無抵抗だったのだろうか?
金魚姫の恋
監督:大池雅 (第4回商店街映画祭にて)
色声と同様に自分と違う感性を感じた映画。
商店街映画祭でも無冠だったし、他の映画祭でも見た覚えがないから、残念なことにあまり評価はされていないみたいだが、私はとってもとっても好きなのである。
ガールズラブの話。まくしたてるようなモノローグで綴られる女の子の切ない気持ちにセンスのいい映像がのっかって、心地いい世界に浸れる。なんといっても女の子が恋するダンサーの女性の優雅な動きをきちんと美しく撮っているのがいい。
すくいの手
監督:宮岡太郎 (富山短編映画祭にて)
上記4作品はすごいないいなと思っても、自分が目指すタイプの映画ではないと思うが、この映画は明らかに自分が目指したい路線の凄さを感じた。
記憶喪失という設定は物語作りにおいてとっても便利なので私もちょくちょく使うのだけど(例えば「罪と罰と自由」とか)、他人の作品で観ると、なんか都合いいよねなどと思ってしまう。けれども、後半の逆転逆転また逆転のまさに怒濤の展開と、主演女優の強烈に心のストッパー外して狂いまくる芝居の力強さは少々の欠点も問題点も軽く吹っ飛ばす。思わず身を乗り出してしまいそうになるほど引きつけられた。
脚本もすごいけど、昼間の室内を恐怖の空間にした映像も素晴らしい。オープニングの荒涼とした砂地のイメージシーンも、ツカミとしての役割完璧。二人の女のエゴのぶつかりあうマインドバトルのこの映画を熱く熱く支持します
円罪
監督:中泉裕矢 (富山短編映画祭にて)
「すくいの手」と同様に、サスペンスの面白さを堪能した一品。
えげつないイジメ描写で激しい嫌悪感をかき立てるフラッシュバックと、現在シーンの好青年ぶりとの対比の凄さ。ある脚本についての本で、フラッシュバックとはただ過去の出来事を再現するものではなく、現在の登場人物の心を表現するものでなくてはならない云々と書かれていて、なるほどこの映画のフラッシュバックは主人公の元いじめられっこの現在における心境を表現していて上手いと思った。フラッシュバックは客観視点でなく主観視点だし。
そしてフラッシュバックでちらちらと見せてきた色んな事を反復するように凄惨な復讐へとつなげる脚本の上手さ。
いいと思う映画は全部そうだが、主演の演技が素晴らしい。この映画のイジメ被害者と加害者の気合いの入ったネガティブ演技もまたとても印象深い。
テンロクの恋人
監督:渡辺シン (第4回商店街映画祭にて)
第一話は商店街映画祭グランプリを受賞。主人公のテンコを演じる宇賀仁美さんがとってもチャーミング。彼女のかわいさを引き立てる脚本とかスタッフ全般のグッジョブな仕事っぷり。
さらに後日、第2話~第4話まで鑑賞。トータルで100分くらいの超大作。第2話の誘拐事件、第3話で失恋するテンコのふすまから漏れる泣き声と、それを聞いても何もできない父親・・・っていうシーンが一番好き。
第4話でまさかの特撮スペクタクルに発展し、一体どうすんだこれってくらいスケールでかくしておいて、ラストは「家族」っていう着地点にぴったりと降下。見応え充分、大満足の娯楽作品。
僕だけの宿題
監督:耳井啓明 (日本芸術センター第4回映像グランプリにて)
夏休みのラジオ体操。皆勤賞を狙う子供たち。男子と女子の反目。男子同士の喧嘩。そして夏休みが終われば去ってしまう女の子への恋。子供ものに必要な要素のぎっちりつまった清々しい作品。
主人公の少年、ヒロイン、喧嘩する友人、友人の好きな女の子、みなこれでもかというくらい演技が自然で引き込まれる。
ついに夏休み最後の日。告白しようとヒロインのバスに向かうが一歩を踏み出せない主人公。行け! 走れ! 今しかない! と昔の自分を重ねて応援したくなるシチュエーションに手に汗握った。
子供もの映画いいですよね。
もうひとりのルームメイト
監督:中村公彦 (富山短編映画祭にて)
ホラーでファンタジーでサスペンスな映画。
主人公にしか見えない座敷童。母親の衝撃告白でかわいい座敷童が恐怖の対象に一変するあの展開。ええッッ!!ってマジ声上げました。「シックスセンス」よりびっくりしました。決してオチは言わないでください系映画。
門
監督:チャン・ゾンジェ (ダマー映画祭inヒロシマにて)
台湾の作品。とにかく美術の仕事っぷりがいい映画。家の写し方がとてもきれい。パントマイムにより気持ちを伝える「もの言わぬクライマックス」が心に響く。お国が変わっても文化が異なっても、家族というテーマは万国共通。殺伐とした作品が多い自主映画の中で、こうした静かな映像詩的な作品は大切だと思いました。
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他にも「Faint Light」「The Venus + Flytrap」「夜を翔る」などかなり好きです
来年も素晴らしい自主映画に、情熱を頂きたいと思います。
ありがとうございました
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スタジオゆんふぁ制作の自主映画
罪と罰と自由
日本芸術センター映像グランプリ受賞
ダマー映画祭inヒロシマ 入選
2013年2月9日開催 いわきぼうけん映画祭 にて上映決定です
すごい才能の持ち主、情熱の持ち主たちに刺激をうけた一年でした
鑑賞作品数33にものぼり全ては紹介できないので、10作品にしぼって紹介してみたいと思います
仇討ち
監督:谷口未央 (富山短編映画祭にて)
別に時代劇ではなく青春もので、剣道に励む中学男子が憧れのおねえさんを傷つけた男に制裁加える話です。見事仇討ちを果たしたというのに、おねえさんは去り道場もつぶれ少年にのしかかるのは敗北感。
中学生という大人でも子供でもない微妙な年頃だけに傷ついた心を自分でどうすることもできないかのように、ただぼんやりと電車の窓の外の風景を眺めつづけるラスト。役者たちの芝居の見事さもあって胸にキュンキュンくる映画でした。
A LITTLE WORLD
監督:藤井道人 (ダマー映画祭inヒロシマにて)
恋にも友情にも仕事の関係にもカラダの関係にもならず、たった一晩だけ夜の渋谷を一緒に過ごして別れる男女。
キスはおろかメアドや電話番号やtwitterのIDの交換もせず、もしかしたら本名も知らないまま別れたのかもしれない。だからfacebookでもつながらないだろう。
ひょっとして10年後二人は再会するかもしれない。ああ、あの時のなんて言って、そこから恋に発展するかもしれない。そんな二人の10年後に思いを馳せれば、それは逆に観客の心のどっかにある、あの日あの時ちょっとだけいい感じだった気がしないでもなかった人の記憶をくすぐる。
もちろん二人はその後会うことはないだろう。でも人生の一瞬を占めるいい思い出はずっと残る。
演技も映像も素晴らしかった。
けれども「仇討ち」も「A LITTLE WORLD」も素晴らしいけど、自分はこういう映画は撮らないだろうなと思う。だからこそ愛しく思える映画なのかな。
色声
監督:八幡貴美 (ダマー映画祭inヒロシマにて)
自分では撮らないというか、どんなことしても絶対に考え付かない映画。例えばこの脚本と充分な資金を頂いたとしても絶対にいい映画にできないと感じる映画
自分の想像力の及ばない映画というか、全く違うタイプの想像力をもっている監督だと思う。
声にだけ性的興奮を覚える女性が、次第に男の苦痛の叫びに快感を味わうようになって、声に対する欲求をエスカレートさせていく。この設定自体かなり奇抜なのだが、さらに声による興奮を視覚化した妙な胎内みたいなセットで裸の男がのたうつ映像は、自分にとって想定外の映像体験。
こういうオンリーワンな感性の監督は応援したい。
声フェチ女性を演じた女優さんは、今年の私的アカデミー賞自主映画部門の主演女優賞。
ただひとつ判らない点。ラスト、男はなぜあれほど無抵抗だったのだろうか?
金魚姫の恋
監督:大池雅 (第4回商店街映画祭にて)
色声と同様に自分と違う感性を感じた映画。
商店街映画祭でも無冠だったし、他の映画祭でも見た覚えがないから、残念なことにあまり評価はされていないみたいだが、私はとってもとっても好きなのである。
ガールズラブの話。まくしたてるようなモノローグで綴られる女の子の切ない気持ちにセンスのいい映像がのっかって、心地いい世界に浸れる。なんといっても女の子が恋するダンサーの女性の優雅な動きをきちんと美しく撮っているのがいい。
すくいの手
監督:宮岡太郎 (富山短編映画祭にて)
上記4作品はすごいないいなと思っても、自分が目指すタイプの映画ではないと思うが、この映画は明らかに自分が目指したい路線の凄さを感じた。
記憶喪失という設定は物語作りにおいてとっても便利なので私もちょくちょく使うのだけど(例えば「罪と罰と自由」とか)、他人の作品で観ると、なんか都合いいよねなどと思ってしまう。けれども、後半の逆転逆転また逆転のまさに怒濤の展開と、主演女優の強烈に心のストッパー外して狂いまくる芝居の力強さは少々の欠点も問題点も軽く吹っ飛ばす。思わず身を乗り出してしまいそうになるほど引きつけられた。
脚本もすごいけど、昼間の室内を恐怖の空間にした映像も素晴らしい。オープニングの荒涼とした砂地のイメージシーンも、ツカミとしての役割完璧。二人の女のエゴのぶつかりあうマインドバトルのこの映画を熱く熱く支持します
円罪
監督:中泉裕矢 (富山短編映画祭にて)
「すくいの手」と同様に、サスペンスの面白さを堪能した一品。
えげつないイジメ描写で激しい嫌悪感をかき立てるフラッシュバックと、現在シーンの好青年ぶりとの対比の凄さ。ある脚本についての本で、フラッシュバックとはただ過去の出来事を再現するものではなく、現在の登場人物の心を表現するものでなくてはならない云々と書かれていて、なるほどこの映画のフラッシュバックは主人公の元いじめられっこの現在における心境を表現していて上手いと思った。フラッシュバックは客観視点でなく主観視点だし。
そしてフラッシュバックでちらちらと見せてきた色んな事を反復するように凄惨な復讐へとつなげる脚本の上手さ。
いいと思う映画は全部そうだが、主演の演技が素晴らしい。この映画のイジメ被害者と加害者の気合いの入ったネガティブ演技もまたとても印象深い。
テンロクの恋人
監督:渡辺シン (第4回商店街映画祭にて)
第一話は商店街映画祭グランプリを受賞。主人公のテンコを演じる宇賀仁美さんがとってもチャーミング。彼女のかわいさを引き立てる脚本とかスタッフ全般のグッジョブな仕事っぷり。
さらに後日、第2話~第4話まで鑑賞。トータルで100分くらいの超大作。第2話の誘拐事件、第3話で失恋するテンコのふすまから漏れる泣き声と、それを聞いても何もできない父親・・・っていうシーンが一番好き。
第4話でまさかの特撮スペクタクルに発展し、一体どうすんだこれってくらいスケールでかくしておいて、ラストは「家族」っていう着地点にぴったりと降下。見応え充分、大満足の娯楽作品。
僕だけの宿題
監督:耳井啓明 (日本芸術センター第4回映像グランプリにて)
夏休みのラジオ体操。皆勤賞を狙う子供たち。男子と女子の反目。男子同士の喧嘩。そして夏休みが終われば去ってしまう女の子への恋。子供ものに必要な要素のぎっちりつまった清々しい作品。
主人公の少年、ヒロイン、喧嘩する友人、友人の好きな女の子、みなこれでもかというくらい演技が自然で引き込まれる。
ついに夏休み最後の日。告白しようとヒロインのバスに向かうが一歩を踏み出せない主人公。行け! 走れ! 今しかない! と昔の自分を重ねて応援したくなるシチュエーションに手に汗握った。
子供もの映画いいですよね。
もうひとりのルームメイト
監督:中村公彦 (富山短編映画祭にて)
ホラーでファンタジーでサスペンスな映画。
主人公にしか見えない座敷童。母親の衝撃告白でかわいい座敷童が恐怖の対象に一変するあの展開。ええッッ!!ってマジ声上げました。「シックスセンス」よりびっくりしました。決してオチは言わないでください系映画。
門
監督:チャン・ゾンジェ (ダマー映画祭inヒロシマにて)
台湾の作品。とにかく美術の仕事っぷりがいい映画。家の写し方がとてもきれい。パントマイムにより気持ちを伝える「もの言わぬクライマックス」が心に響く。お国が変わっても文化が異なっても、家族というテーマは万国共通。殺伐とした作品が多い自主映画の中で、こうした静かな映像詩的な作品は大切だと思いました。
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他にも「Faint Light」「The Venus + Flytrap」「夜を翔る」などかなり好きです
来年も素晴らしい自主映画に、情熱を頂きたいと思います。
ありがとうございました
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スタジオゆんふぁ制作の自主映画
罪と罰と自由
日本芸術センター映像グランプリ受賞
ダマー映画祭inヒロシマ 入選
2013年2月9日開催 いわきぼうけん映画祭 にて上映決定です
東北圏内だったら、今年からだったら行けそう。