それから私は撮影のたびに彼に声をかけた。
2006年、2008年、2012年の作品でも作品中で彼の姿を確認する事ができる。
すべてちょい役とはいえ、4作品に出演してくれた人は実はそんなにいない。
出演だけでなく、スタッフとしても多くの作品を支えてくれた
それほどまでに忘れがたいのは、彼の醸す謎のオーラの作用でちょい役なのに目立つせいだ。
2006年作品での彼が私の作品ではもっとも活躍した役だろう。
何しろきちんと役名があった。しかも歴史上実在した超有名な人物を演じたのだ。彼は苦悩の表情を浮かべながら歴史を動かしたある大事件を起こすことを決意する瞬間を、表情と、溢れるようなオーラで表現してくれた。
2008年の作品では大勢の殺し屋の1人という役所ながら立ち姿が妙にキメキメで何度見ても笑ってしまう。
ヒロインの投げナイフで壮絶な最期を遂げる場面は、倒れた後の彼の無駄に長い足とともに記憶に残る。
2012年の作品では映画制作の現場での録音技師の役だったが、マイクポールを構えて立つ姿がやはり無駄にキメキメでイケてる感半端ない。しかも、パンツもブーツもなぜか無駄にかっこよかった。
彼は映画に関しては俳優以外にも才能を見せた。
私はある年にある映画祭で審査に関わった。
締め切りギリギリから少し過ぎたくらいに飛び込みで入って来た作品があった。(そう言うとルール違反だったかもしれないが、もう時効ということにさせていただきたい)
一通りの作品を見終わり、ぶっちゃけ賞はある程度目星が付き、あと入選枠に入れる何作かを選ぶ段階だった。
飛び込みで来た映画があるが一応見ようかということになった。
しかも応募者の名前は彼だった。
なんかちょっと映画にかぶれて自慢のカメラで撮った映画未満の動画だろうな…などと失礼な予想をしながら見始めたのだが…
面白かった
フェイクドキュメント映画で、よくあるといえばあるのだが、最後まで嘘を突き通したところがよかった。ギャグに走る寸前のところで止まっているところも。
あくまでもたまたまカメラを持っているときに見つけた体で風変わりな人を撮り続け、一切の説明なく終わり謎を残した。
主役の女性に決して近づかない距離感も良かった。
「あそこに行けば、あの不思議な人に会えるのかもしれない」とあるはずのない期待を抱かせる。そんなリアリティがあった。
なまじ映画であることを意識しないが故に、映画屋の想像を超えたものを創り出すことに成功していた。
私だけでなく、他の審査員もその作品を高く評価し、捨てるには惜しいということで、入選枠に見事に入った。
その作品が上映されて少したったころ彼を含めた松本の映像クリエイターたちと会食をした。
彼は大好きなカメラの話などを嬉々として語っていた
私はその時、松本を東京や大阪に負けない自主映画、芸術映画の発信地にしたいと割と本気で考えていた。彼や、色々な人の作品に、積極的に、直接間接問わず関わっていこうと思った
しかし、それから程なくして、私は生活のために松本を離れてしまうのだが
思い出した。彼から一度脚本が届いた。この本で映画を撮ってくれないか、とそんな申し出だった。
正直に言ってその脚本には満足しなかった。たしか母を亡くした男と、タイムスリップで現れた若い頃の母が会話するような内容だった。彼の優しさはよく出ていたが、ただ喋るだけの内容なので、映画としてものになるとは思えなかった。
それでもいくつか意見を言った。設定を変えて、ラストの後さらに続けてこんな展開にしては、と。
彼から返事は無かった。きっと彼なりに思い入れのあった脚本を認めてもらえず機嫌を悪くしたのだと思う。
私が松本で最後に撮った映画にも彼は関わっている。クレジットとしては「録音協力」だが、かなり頻繁に撮影現場に来て色々と手伝ってくれた。
その映画のクライマックスで、ヒロインの部屋を震度5強想定の地震が襲うのだが、よーく見ると棚を揺らしている彼の手が見える
女性が彼氏の死を乗り越えるその物語で、そのキッカケとなる地震を起こしたのが、彼だ。彼と映画製作における最後の関わりとなった
彼と最後に交わしたやり取りは半年くらい前2017年の秋か冬だ。直接の会話ではなく、メッセンジャーでのやりとりだった。
私はデジタル一眼カメラ用スタビライザーを購入した。中国製の、低価格だが、高性能のものだ。
その写真や動画を嬉々としてツィッターに投稿したら彼から連絡が来た。
そのスタビライザーは彼も狙っていたらしく、性能や使い勝手を熱心に聞いていたので、自慢がてら得意になって色々語った。
彼も同じものを買った。
しかしどうも「持ってない」節のある彼はカメラが斜めになってしまうのだが、そういうものか?と聞いて来た。
そんなこともないけどな〜と曖昧に答えた
どうやら彼のは初期不良だったらしく、買ってすぐ修理に出したらしい
しばらくスタビライザーを使ったと思しき映像が彼のタイムラインに流れていた
ごめんよ
実はスタビライザーは使っているのはほとんど妻で、私は買ってすぐにちょっと使ったくらいで、性能やコスパについて語れるほどじゃなかったんだ。
でも、興味津々で聞いてくるから、つい得意になってしまったんだ
彼は自分に酔う傾向があった気はする
イケてる自分、かっこいい自分、お洒落な自分をネタではなく心底信じきっていた
そして飽くなきビジュアルへの探究心と好奇心があった
彼はなぜ私の2005年の映画の現場に現れたんだろう
彼はなぜ私の映画をいつもいつも手伝ってくれたんだろう
私の映画への感想や批評は一度も聞かなかった
彼はあの人物をどんな思いで演じていたんだろう
彼はあの脚本の向こうにどんな映像を思い浮かべていたんだろう
彼はあの傑作短編映画にどんな思いをこめていたんだろう
もうそれが分かる日は来ないだろう
今後の私の映画に彼はいない
いつかどこかの映画祭で出会いたかった
でも、彼は私のいくつかの作品の一部となり、その魂はうっすらとではあるが永遠だ
2006年、2008年、2012年の作品でも作品中で彼の姿を確認する事ができる。
すべてちょい役とはいえ、4作品に出演してくれた人は実はそんなにいない。
出演だけでなく、スタッフとしても多くの作品を支えてくれた
それほどまでに忘れがたいのは、彼の醸す謎のオーラの作用でちょい役なのに目立つせいだ。
2006年作品での彼が私の作品ではもっとも活躍した役だろう。
何しろきちんと役名があった。しかも歴史上実在した超有名な人物を演じたのだ。彼は苦悩の表情を浮かべながら歴史を動かしたある大事件を起こすことを決意する瞬間を、表情と、溢れるようなオーラで表現してくれた。
2008年の作品では大勢の殺し屋の1人という役所ながら立ち姿が妙にキメキメで何度見ても笑ってしまう。
ヒロインの投げナイフで壮絶な最期を遂げる場面は、倒れた後の彼の無駄に長い足とともに記憶に残る。
2012年の作品では映画制作の現場での録音技師の役だったが、マイクポールを構えて立つ姿がやはり無駄にキメキメでイケてる感半端ない。しかも、パンツもブーツもなぜか無駄にかっこよかった。
彼は映画に関しては俳優以外にも才能を見せた。
私はある年にある映画祭で審査に関わった。
締め切りギリギリから少し過ぎたくらいに飛び込みで入って来た作品があった。(そう言うとルール違反だったかもしれないが、もう時効ということにさせていただきたい)
一通りの作品を見終わり、ぶっちゃけ賞はある程度目星が付き、あと入選枠に入れる何作かを選ぶ段階だった。
飛び込みで来た映画があるが一応見ようかということになった。
しかも応募者の名前は彼だった。
なんかちょっと映画にかぶれて自慢のカメラで撮った映画未満の動画だろうな…などと失礼な予想をしながら見始めたのだが…
面白かった
フェイクドキュメント映画で、よくあるといえばあるのだが、最後まで嘘を突き通したところがよかった。ギャグに走る寸前のところで止まっているところも。
あくまでもたまたまカメラを持っているときに見つけた体で風変わりな人を撮り続け、一切の説明なく終わり謎を残した。
主役の女性に決して近づかない距離感も良かった。
「あそこに行けば、あの不思議な人に会えるのかもしれない」とあるはずのない期待を抱かせる。そんなリアリティがあった。
なまじ映画であることを意識しないが故に、映画屋の想像を超えたものを創り出すことに成功していた。
私だけでなく、他の審査員もその作品を高く評価し、捨てるには惜しいということで、入選枠に見事に入った。
その作品が上映されて少したったころ彼を含めた松本の映像クリエイターたちと会食をした。
彼は大好きなカメラの話などを嬉々として語っていた
私はその時、松本を東京や大阪に負けない自主映画、芸術映画の発信地にしたいと割と本気で考えていた。彼や、色々な人の作品に、積極的に、直接間接問わず関わっていこうと思った
しかし、それから程なくして、私は生活のために松本を離れてしまうのだが
思い出した。彼から一度脚本が届いた。この本で映画を撮ってくれないか、とそんな申し出だった。
正直に言ってその脚本には満足しなかった。たしか母を亡くした男と、タイムスリップで現れた若い頃の母が会話するような内容だった。彼の優しさはよく出ていたが、ただ喋るだけの内容なので、映画としてものになるとは思えなかった。
それでもいくつか意見を言った。設定を変えて、ラストの後さらに続けてこんな展開にしては、と。
彼から返事は無かった。きっと彼なりに思い入れのあった脚本を認めてもらえず機嫌を悪くしたのだと思う。
私が松本で最後に撮った映画にも彼は関わっている。クレジットとしては「録音協力」だが、かなり頻繁に撮影現場に来て色々と手伝ってくれた。
その映画のクライマックスで、ヒロインの部屋を震度5強想定の地震が襲うのだが、よーく見ると棚を揺らしている彼の手が見える
女性が彼氏の死を乗り越えるその物語で、そのキッカケとなる地震を起こしたのが、彼だ。彼と映画製作における最後の関わりとなった
彼と最後に交わしたやり取りは半年くらい前2017年の秋か冬だ。直接の会話ではなく、メッセンジャーでのやりとりだった。
私はデジタル一眼カメラ用スタビライザーを購入した。中国製の、低価格だが、高性能のものだ。
その写真や動画を嬉々としてツィッターに投稿したら彼から連絡が来た。
そのスタビライザーは彼も狙っていたらしく、性能や使い勝手を熱心に聞いていたので、自慢がてら得意になって色々語った。
彼も同じものを買った。
しかしどうも「持ってない」節のある彼はカメラが斜めになってしまうのだが、そういうものか?と聞いて来た。
そんなこともないけどな〜と曖昧に答えた
どうやら彼のは初期不良だったらしく、買ってすぐ修理に出したらしい
しばらくスタビライザーを使ったと思しき映像が彼のタイムラインに流れていた
ごめんよ
実はスタビライザーは使っているのはほとんど妻で、私は買ってすぐにちょっと使ったくらいで、性能やコスパについて語れるほどじゃなかったんだ。
でも、興味津々で聞いてくるから、つい得意になってしまったんだ
彼は自分に酔う傾向があった気はする
イケてる自分、かっこいい自分、お洒落な自分をネタではなく心底信じきっていた
そして飽くなきビジュアルへの探究心と好奇心があった
彼はなぜ私の2005年の映画の現場に現れたんだろう
彼はなぜ私の映画をいつもいつも手伝ってくれたんだろう
私の映画への感想や批評は一度も聞かなかった
彼はあの人物をどんな思いで演じていたんだろう
彼はあの脚本の向こうにどんな映像を思い浮かべていたんだろう
彼はあの傑作短編映画にどんな思いをこめていたんだろう
もうそれが分かる日は来ないだろう
今後の私の映画に彼はいない
いつかどこかの映画祭で出会いたかった
でも、彼は私のいくつかの作品の一部となり、その魂はうっすらとではあるが永遠だ