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映画ブロガーら有志23名による「10年代映画ベストテン」発表!

歩いても 歩いても [監督:是枝裕和]

2008-11-03 14:02:36 | 映評 2006~2008
個人的評価: ■■■■■■
[6段階評価 最高:■■■■■■(めったに出さない)、最悪:■□□□□□(わりとよく出す)]

めったに出さないハズの満点を日本映画から二作続けて
いいもんはいいんだから仕方ない。

のりにのってる是枝裕和の新作は期待に違わず、どころか、期待をはるかに越える傑作だった。
東京近郊欠員が舞台の三世代(欠員あり)の家族ドラマってところで小津テイストが強く漂ってくるが、ただの模倣ではない。

「ぐるりのこと。」と同様に俳優たちから芝居感が漂ってこない。自然に湧き出てくるかのような台詞や表情。あの家にお邪魔した客人の気分で、家族の駆け引きを楽しむことができる。
「ぐるりのこと。」が夫婦の10年を描いていた一方で「歩いても」は家族の一日を追う。
「ぐるりのこと。」が夫婦に寄り添い彼らの感情の機微を描き偽りのない気持ちを描いていたのに対し、「歩いても」は家族内の秘密と嘘、本音と建前が描かれる。
俳優に対する演出が似ているのに正反対と言ってもいい物語となっているところが興味深い。

わずか一日の物語の中に絆と駆け引きとの家族の姿が凝縮したものを描く。数十年かけて作られた家族というものの縮図を展開させてみたといってもいい。
見事としか言いようがない脚本である。しかもこれだけ家族の泥臭い騙し合いと隠し合いを見せつけられてもなお、家族のことを考えずにはいられない余韻があり、親孝行、家族孝行したい気分にさせてくれる。きれいごとより生々しい汚さの方が身にしみる。

「歩いても歩いても」は兄の命日に集まった老父母と次男家族と長女家族の物語だ。
父は昔気質でプライドが高く、あまり裏表はないが、小さなことにこだわったり、大人げない陰口をたたいたりする。
次男は死んだ兄と比較されることか面白くなく、できる奴を装う。彼も小さなところにこだわるところでは父と似ている。
陽気な性格の長女の夫は、場の空気を読んで雰囲気を和ませるのが得意だが、その場限りの調子のいい発言が多い。

次男の妻(死別した前夫との間に子供あり)は「義理の娘」「妻」「母」の三つの顔を使い分ける。いい娘を装うことによって生じるひずみは妻の本音となって夫に吐き出され、一方で前夫の話題は妻としての役割から夫の前では極力さけるが、子供に対しては母として前夫の話題をにこやかに喋る。
一番強烈なのは母親で、優しい母を装いながらもその裏に様々な本音が隠されていてぞっとする。
そんな中で長女はもっとも裏表の差が小さく、比較的誰にでも本音で接しているように見えてこれはこれで印象深い

そうした家族を演じた、阿部寛、樹木希林、原田芳雄、夏川結衣、YOU、高橋和也はまとめてアンサンブル演技賞か何かの名目で讃えたい。

そうした、演出・脚本・俳優が見事にかみあった映画にはさらにもう二つ賞賛すべき仕事がある。
老父母の実家のセットの見事さ。
そして本年度に私が観た映画(洋画含む)の中でダントツに美しい映像。ワンショットワンショットの陰影の深さと、奥行きが美しい。全カットから静止画一枚ずつ抜き出して写真集にしてほしい。それくらい美しく、それを見るだけでも映画館に行く価値がある。

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2 コメント

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TBありがとうございました。 (sakurai)
2008-11-04 08:36:59
家族のやなものを見たけど、やはり家族を思わないわけにはいかない。
その思いが見事に出てました。
傑作だったと思います。
監督は、階段が好きなんですね。
階段もいっぱい出てました。
原田芳雄の不器用な父親はわが父と完全に重なっていました。
返信する
コメントどうもです (しん)
2008-11-09 14:23:28
>sakuraiさま
私の父とも重なっていたんですね、これが
ああいう父親って日本に多いんでしょうかね
返信する

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