東京より早く、蓼科高原映画祭にて上映。既存の映画スタイルをぶち破る壮絶な作品。したがって100%一般受けはしないだろうし、間違ってもヒットはしないだろう。しかし、この作品は個人的には今年のベストのかなり上位にしたい。1981年に作られた8mm映画「闇打つ心臓」のリメイクである本作は、単なるリメイクに留まらず、オリジナルとリメイクと続編とメイキングが同居する、異様な構造となっている。
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<<<映画の構造>>>
この映画は1981年に長崎俊一監督が、内藤剛志、室井滋の主演で撮った8mm映画「闇打つ心臓」のリメイクである。
私はその映画を見ていない。販売もレンタルもされていないらしい。例えばこの2005年版がDVD化される時に特典映像として付くのでは・・という期待もあるし、実際そのような話もあるらしいのだが、8mm版で使用している音楽の著作権の問題で簡単にはいかないそうである。以上の話は映画祭の打ち上げで長崎監督本人(けっこう酔っぱらっていましたが・・・)から聞いた話である。
8mm版「闇打つ心臓」は、自分たちの子供を殺してしまった若い夫婦が隠れ家代わりのアパートの一室で一晩を過ごす・・・というシンプルな物語(らしい)。ラストで2人は部屋を出て行き、その後どうなったかは語られない。
以上の映画を2005年の今、若い俳優を使ってリメイクする。これが映画の骨格となる。
ところが、映画が始まるといきなり、ビデオ映像で監督、プロデューサーと内藤剛志が打ち合わせをしている模様が映される。その打ち合わせで内藤剛志が言う。
俺は自分の子供を殺して逃げていったあの男を許せない。だからこのリメイクで俺は主人公を殴りたい。今の俺があの時の俺を殴るんだ。
・・・そして内藤剛志と室井滋のリメイク版出演が決まる。
2人の役は8mm版の主人公のその後。20数年を経て再会した2人の物語が、若い夫婦の物語と同時並行で進む。
さらに、若い夫婦の物語の随所が、81年版「闇打つ心臓」の映像にさし変わる。
おまけにリハーサル風景や撮影風景のメイキング風映像も所々でインサートされる。8mm版の「俺」を演じる、若い男優(本多章一)は、なぜ内藤に殴られなければならないのか理解できないし、彼の態度に内藤剛志は腹を立てるし・・・で、波乱の舞台裏が描かれる。
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オリジナルとリメイクと続編とメイキング・・・観客を喜ばすより、自分を納得させようとする私映画。よく言えば実験的で野心的、悪く言えばスケールの小さい自主映画。
とはいえ、リメイクするって何なんだ?との疑問を自分なりに考え、考えた結果より考える過程そのものを映画にしたような本作は、"映画"という漠然とした表現媒体と取っ組み合う作り手の姿勢をかいま見れるようで面白い。
映画とは何か?を考えるのと併せて、俳優が役を演じるとは何か?というところまでこの映画は思考する。
8mm版と05年版では、男と女の役割が一部入れ替わっており、20数年を経て監督の男女の役割に対する考え方が変わったとも考えられるのだが、さらに映画が進むと05年版における主役2人の台詞を入れ替える。男が女の台詞を喋り、女が男の台詞を喋る。共演者はどのような気持ちで演じているのかを役者に体感させ、メイキング映像における殴る殴らないの問答とあわせて、物語上の登場人物への感情移入と、俳優本人への感情移入が入れ混じる
8mm版ではラストだった、アパートを去るシーンの後、映画はさらに続く。まだ内藤剛志は本多章一を殴っていないのだから、終わる訳にはいかない。8mm版の主人公2人は、20数年前の出来事で心に傷を負っており、お互いワケ有りなこともあって再び逃避行に出る。そしてアパートを出た若い2人と出会う。
二組のカップルはどうなるのか?という期待と不安。同時に内藤剛志は本多章一をいつ殴るのか?という期待と不安。映画の混沌とした世界にはまったまま、感情移入の仕方まで同時進行させられる。一粒で二度おいしいとはまさにこのことだ。
長崎俊一監督といえば「8月のクリスマス」も公開中だが、きっとこちらは無難な"リメイク"なんだろう。見比べてみるのも一興と思いつつ、もう上映終わっちゃったかな?
でもプログラムピクチャーより、こういう実験映画みたいのを撮って、手探りの映画探しを続けてほしいと思った。
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最後に、観た人みんなが感じるであろう疑問。
あのメイキング映像は、ドキュメンタリーなのか? あるいは脚本どおりで演出されたものなのか?
正直どっちだっていい。リメイクすることを考える映画であり、演じることを俳優に考えさせる映画であり、"映画"を模索する映画を作るために、「メイキング映像をさしはさむ」というアイデアが凄いじゃないですか。嘘でも真でもいいんです。
けれども実は、上映後の監督と出演者(本多章一と江口のりこ)の舞台挨拶で、その疑問についての回答ははっきり聞いております。でも書かない。
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自主映画撮ってます。松本自主映画製作工房 スタジオゆんふぁのHP
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<<<映画の構造>>>
この映画は1981年に長崎俊一監督が、内藤剛志、室井滋の主演で撮った8mm映画「闇打つ心臓」のリメイクである。
私はその映画を見ていない。販売もレンタルもされていないらしい。例えばこの2005年版がDVD化される時に特典映像として付くのでは・・という期待もあるし、実際そのような話もあるらしいのだが、8mm版で使用している音楽の著作権の問題で簡単にはいかないそうである。以上の話は映画祭の打ち上げで長崎監督本人(けっこう酔っぱらっていましたが・・・)から聞いた話である。
8mm版「闇打つ心臓」は、自分たちの子供を殺してしまった若い夫婦が隠れ家代わりのアパートの一室で一晩を過ごす・・・というシンプルな物語(らしい)。ラストで2人は部屋を出て行き、その後どうなったかは語られない。
以上の映画を2005年の今、若い俳優を使ってリメイクする。これが映画の骨格となる。
ところが、映画が始まるといきなり、ビデオ映像で監督、プロデューサーと内藤剛志が打ち合わせをしている模様が映される。その打ち合わせで内藤剛志が言う。
俺は自分の子供を殺して逃げていったあの男を許せない。だからこのリメイクで俺は主人公を殴りたい。今の俺があの時の俺を殴るんだ。
・・・そして内藤剛志と室井滋のリメイク版出演が決まる。
2人の役は8mm版の主人公のその後。20数年を経て再会した2人の物語が、若い夫婦の物語と同時並行で進む。
さらに、若い夫婦の物語の随所が、81年版「闇打つ心臓」の映像にさし変わる。
おまけにリハーサル風景や撮影風景のメイキング風映像も所々でインサートされる。8mm版の「俺」を演じる、若い男優(本多章一)は、なぜ内藤に殴られなければならないのか理解できないし、彼の態度に内藤剛志は腹を立てるし・・・で、波乱の舞台裏が描かれる。
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オリジナルとリメイクと続編とメイキング・・・観客を喜ばすより、自分を納得させようとする私映画。よく言えば実験的で野心的、悪く言えばスケールの小さい自主映画。
とはいえ、リメイクするって何なんだ?との疑問を自分なりに考え、考えた結果より考える過程そのものを映画にしたような本作は、"映画"という漠然とした表現媒体と取っ組み合う作り手の姿勢をかいま見れるようで面白い。
映画とは何か?を考えるのと併せて、俳優が役を演じるとは何か?というところまでこの映画は思考する。
8mm版と05年版では、男と女の役割が一部入れ替わっており、20数年を経て監督の男女の役割に対する考え方が変わったとも考えられるのだが、さらに映画が進むと05年版における主役2人の台詞を入れ替える。男が女の台詞を喋り、女が男の台詞を喋る。共演者はどのような気持ちで演じているのかを役者に体感させ、メイキング映像における殴る殴らないの問答とあわせて、物語上の登場人物への感情移入と、俳優本人への感情移入が入れ混じる
8mm版ではラストだった、アパートを去るシーンの後、映画はさらに続く。まだ内藤剛志は本多章一を殴っていないのだから、終わる訳にはいかない。8mm版の主人公2人は、20数年前の出来事で心に傷を負っており、お互いワケ有りなこともあって再び逃避行に出る。そしてアパートを出た若い2人と出会う。
二組のカップルはどうなるのか?という期待と不安。同時に内藤剛志は本多章一をいつ殴るのか?という期待と不安。映画の混沌とした世界にはまったまま、感情移入の仕方まで同時進行させられる。一粒で二度おいしいとはまさにこのことだ。
長崎俊一監督といえば「8月のクリスマス」も公開中だが、きっとこちらは無難な"リメイク"なんだろう。見比べてみるのも一興と思いつつ、もう上映終わっちゃったかな?
でもプログラムピクチャーより、こういう実験映画みたいのを撮って、手探りの映画探しを続けてほしいと思った。
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最後に、観た人みんなが感じるであろう疑問。
あのメイキング映像は、ドキュメンタリーなのか? あるいは脚本どおりで演出されたものなのか?
正直どっちだっていい。リメイクすることを考える映画であり、演じることを俳優に考えさせる映画であり、"映画"を模索する映画を作るために、「メイキング映像をさしはさむ」というアイデアが凄いじゃないですか。嘘でも真でもいいんです。
けれども実は、上映後の監督と出演者(本多章一と江口のりこ)の舞台挨拶で、その疑問についての回答ははっきり聞いております。でも書かない。
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