以下は11月12日の産経新聞「正論」からである。
私が何度も言及して来た、日本が生んだ真の偉大な学者である梅棹忠夫は、突然、安保反対で登場して来た、本当にどうしようもないほどに愚かな学者たちの対極にいる本物の学者である。
その梅棹忠夫の名前が見えたので、私は読みだした。
南シナ海に「近代」の価値を問うと題した、東洋学園大学教授 櫻田 淳の論文である。
文中強調は私。
前文略。
振り返れば、過去数年の国際政治の緊張点は、梅棹忠夫(民族学者)が著書『文明の生態史観』で提示した「日本/『中国世界』十『インド世界』」の境界領域、あるいは「西ヨーロッパ/『ロシア世界』十『地中海・イスラム世界』」の境界領域に集中している。
「中国世界」からの深刻な挑戦
梅棹は日本と西欧諸国の「近似性」として、中世の封建制を経て近代社会への脱皮を成し遂げた軌跡を指摘している。
その「近似性」の故にこそ、日本は西欧諸国と同様に、「自由」「民主主義」「人権」「法の支配」といった西欧由来の「近代の所産」を、自らのものとして奉ずることができている。
2010年代という現在の時代は、そうした「近代の所産」を永らく奉じてきた日本、西欧諸国、そしてその文明上の後嗣としての米豪両国の流儀が、梅棹の言葉にある「中国世界」 「ロシア世界」、さらには「地中海・イスラム世界」から深刻な挑戦を受けている最中であると説明できよう。
その挑戦によって招かれた国際政治上の緊張が具体的に現れている風景こそ、東にあっては、東シナ海や南シナ海における海洋「紛争」であり、西にあっては、たとえばウクライナ紛争に加え、シリア内戦が促したイスラム国(IS)の擡頭や欧州諸国への難民流入である。そこでは、前に触れた 「近代の所産」が明白な脅威にさらされているのである。
この稿続く。