
わかりますか?

冬にトンボの話?時期外れだと思われそうですね。ところが先日、「自然観察の森」での
定期勉強会に参加している永さんから面白い情報を得たのです。
永:前回の勉強会で、成虫の姿で越冬するトンボがいることを教えてもらったんだよ。
最初は半信半疑だったが、実物をこの目で見て納得したね。
私:エッ!トンボが成虫のまま越冬するの?
永:ビックリだろ。勉強会のあと、仕入れた知識を披露すると、アキアカネなどのアカネ
類とアオイトトンボは卵で冬を越す。幼虫(ヤゴ)で冬を越すトンボが最も多くて、
オニヤンマ、シオカラトンボなどよく知られているトンボ類のほとんどはこのタイプ。
そして成虫で冬を越すトンボはオツネントンボ、ホソミオツネントンボ、ホソミイト
トンボというイトトンボの仲間の3種類だけらしい。これらは夏に羽化した成虫が未
成熟な状態で冬を越し、翌春、交尾・産卵するから、成虫での生存期間はとても長
くて、9~10ヶ月になるそうだよ。
私:今回、見てきたトンボは?
永:ホソミオツネントンボ。「越年トンボ」と書いてオツネンと読むんだってさ。
私:できれば、私も実物を見たいな。
永:越冬中なのでまだ同じ場所にいると思うよ。これから見に行こうか。
こうして「自然観察の森」へ連れ立ってやって来た二人は、ホソミオツネントンボが越冬
しているという林に向かって歩き始めました。
永:ここだ。ここらあたりの樹木をよ~く見ると、越冬中のホソミオツネントンボが見つ
かるはずだ。しばらく時間をあげるから探してご覧なさい。
私:突き放されてしまったな。イトトンボの仲間だから細いんだよね。鳥などに見つから
ないように擬態しているんだろうから、見つけるのは難儀そうだな。
永:前回見た小枝にそのままいるから、私はもう見つけたよ。
私:懸命に探しているけど、まだ見つけられないよ。何かヒントが欲しいな。
永:透き通った羽根を折りたたんで枝にしがみついているんだ。
私:トンボの羽根がついた小枝を見つければいいということだね。
永:そういうこと。
私:さっきから一本一本の小枝を確認しているけど、見つけられない。ギブアップだ。
永:フフフ。実は、君のすぐ目の前にあるこの小枝にしがみついているんだよ。
わかった?
私:これか。体長が4cmぐらいだね。本当に小枝のように茶褐色で動かないよ。確かに
透き通った羽根が見える。それにしてもうまく小枝に擬態したもんだな。
永:冬でも暖かい日には少し動くようだね。前回見た時とは位置が少し違っている。
私:いや~、本当にいるんだね。土壌の中や木の裂け目に隠れるのではなく、寒空に身
をさらして越冬する昆虫たちにとって、擬態は不可欠だろうけど、見事なもんだ。
永:この間の大雪にも負けないで、こうして生きているのは奇跡的だと思わないかい?
私:愛おしくなっちゃうよ、あの大雪に一番もろかったのは人間だったりして・・・ネ。
ところで、トンボは益虫と言われているよね。日本脳炎を媒介するコガタアカイ
エカの主な発生源が水田で、昔の人はトンボが蚊を退治してくれることを見抜い
ていたんだね。お正月の羽子板遊びはトンボを型取った羽根を羽子板でお正月の
空へ飛ばして、健康を祈ったのが起源だと言われているよ。前進するのみだから
勝ち虫と呼ばれたりするし、トンボは人間には親しみのある生き物だ。
永:「自然観察の森」にはまだまだ知らないことがいっぱい隠れていると思うよ。
このホソミオツネントンボは成虫なので、春になって暖かくなると、トンボの仲間
の中で一番早く飛び始めるそうだ。このホソミオツネントンボとホソミイトトンボ
の2種は春になるとブルーのきれいな色に変身するけど、オツネントンボはこの地
味な茶色のままらしいね。
私:越冬トンボは「春の先駆けトンボ」ということか。飛んでいる姿も見たいから、もう少し
暖かくなったら、また二人でここに来たいね。
永:ああ、ぜひ来ような。
大雪で無残にへし折られた樹木に心を痛めながらの帰り道で、目の高さにあるカマキリ
の巣を見つけました。今年の大雪を予想してこんな高いところに産み付けたのでしょう
か。昆虫たちも精一杯の知恵を出して生き抜いているんですね。