
カメラを携えて散歩を楽しむご夫妻にとって、花の少ないこの時期の楽しみは野鳥観察で
す。今日も300mmの望遠一眼レフを首にかけて散歩に出かけました。
妻 :今日はいい天気だから、学校裏の田んぼ道を通って、ヘビ沼の遊歩道まで足を伸ばし
ましょうよ。学校の裏に行けばジョウビタキたちに会えると思うの。今年は庭に来な
いから寂しい思いをしているのよ。
夫 :確かに今年は庭で見ていないね。今日は無風だからバードウォッチに最適だ。
妻 :今は樹木の葉がないから鳥の姿を見つけやすいし、それに冬を日本で過ごす「冬鳥」
が飛来しているから種類も多いし、珍しい鳥に出会える楽しみがあるわ。冬に見られ
る鳥の2割は冬鳥だと聞いたことがあるけどもっと多いと思うな。
夫 :渡り鳥以外にも、秋冬は山から低地に下りてくる鳥も加わるために賑やかになるんだよ。
妻 :野鳥たちは虫が主食よね。冬に里山で多く見られるということは、冬の里山には彼ら
を養える虫が冬でもいるということなのかしら。虫はほとんど見かけないけどな。
夫 :実は本来虫を主食にしている鳥も、虫の少ない冬は、木の実などの植物質のものを食
べるように食性が変わるんだよ。小鳥の平均寿命は一年半程度と言われているけど、
それは冬を生きのびるものが少ないためらしいんだ。寒さや食糧難などの厳しい季節
を乗り切ったものだけが、春を迎えて子孫を残すことができるんだね。
妻 :鳥たちが卵をいっぱい産む理由もそこにあるのね。ちょっとしんみりしちゃったな。
夫婦は学校裏の広い田んぼに出ました。ノリ面に植栽された桜やクヌギなどの枝は、この時
期の野鳥たちにとって、縄張りを主張する最高のポジションのようです。
ほら、野鳥の声が聞こえてきましたよ。
夫 :野鳥たちを逆光で見ると黒いシルエットになって、何の鳥か分からないけど、この場
所は散歩の時間帯が、ちょうど木々を照らす順光になるのでいい場所だね。
おっ、電線に留まっているのはジョウビタキだ。
妻 :あら、ジョウビタキのメスが近くの枝にいる。写すからそこでストップ。ジョウビタ
キはオス・メス共に羽根に白い斑点があるのが特徴ね。それにオスのオレンジ色のお
腹はよく目立つて可愛いわ。オスは散歩道で会える野鳥の中で最も美しいわね。それ
に人をあまり怖がらないから写真を撮りやすい冬鳥の代表よね。
夫 :ジョウビタキは、チベットから中国東北部あるいはロシア南東部で繁殖して、非繁殖
期になると日本などに渡って来る。ちょっと古い記事だけど、2010年12月の富山新
聞のネットニュースに、10月にロシアの沿海地方で足環を付けて放たれたジョウビタ
キが、11月富山県氷見市で捕獲されたという記事が乗っていたそうだよ。
あの小さな体ですごい飛行距離だね。驚くよ。確か寿命は4~5年と書かれていたな。
妻 :私もそうだけど、ジョウビタキを知ったことによって、野鳥観察が好きになる人が多
いそうよ。まさに、バードウォッチを始めるきっかけをつくってくれる、「きっかけ
鳥」といった感じね。
夫 :確かにそうだね。大きさはスズメより少し小さいけど、スズメだと思って見過ごして
いる人も多いだろうね。でもスズメとの違いに気づいた時、その人の野鳥観察への関
心の扉が開かれるんだろう。
妻 :あら、モズがいたわ。かなり前だけど、カエルを串刺しにした「モズのはやにえ」を
見つけたことがあったわね。
夫 :モズは留鳥だけど冬になると山里に下りてくるから見られる鳥だね。「モズのはやに
え」の習性から江戸時代は凶鳥として嫌われていたらしいね。
二人はヘビ沼につながる遊歩道へやって来ました。この歩道の脇には広い湿原があり、野鳥
の楽園です。今日も顔馴染みの男性が高級なカメラをセットして周りを眺めていました。
妻 :こんにちは!今日はどんな鳥を狙っているのですか?
男性:マヒワですよ。冬鳥ですが、このあたりが南限らしいです。頭と羽根が黄色い、スズ
メより小さい鳥です。あそこに好物の木の実があるから、かならずやってくると思っ
て待っています。
夫 :今、足元に群れている鳥は何ですか?
男性:「アオジ」ですね。お腹が黄色い羽毛なのが特徴です。アオジには留鳥も冬鳥もいる
そうです。この場所では春や夏には見かけないから彼らは冬鳥だと思いますよ。
妻 :見て、あの木にコゲラを見つけたわ。コゲラは神社の林でもよく見かけるわね。コゲ
ラは留鳥ね。
男性:先ほどまで「カシラダカ」がいましたよ。よく「ホオジロ」と間違えられるんですが、
カシラダカは「頭高」という名前のとおり、冠羽があるのが特徴ですが、冠羽はいつ
も逆立っているとは限らないのです。ホオジロとカシラダカを見分ける大きなポイン
トは、お腹の色です。お腹の色が茶色なのがホオジロ、白いのがカシラダカです。そ
して、カシラダカは冬鳥でホオジロは留鳥です。
夫 :あの遊歩道にいる鳥は歩き方から見てツグミでしょうかね。
男性:ツグミですね。あれも冬鳥です。秋に飛来してきて鳴くけど、夏には口をつぐんだよ
うに聞こえなきなるから「ツグミ」という名になったと聞いたことがあります。
夫 :鳥の名前の由来を調べるのも楽しいかもしれませんね。
妻 :最近ではメジロを見ているけど、まだホウジロ・シメそして大好きなルリビタキを見
ていないわ。でもこうして散歩していれば必ず会えるわよね。
今までスズメだと思っていた鳥が実はジョウビタキやホオジロだったとわかると、探鳥が楽
しくなります。そして次にウグイスのさえずりやツバメの飛来に、季節の移ろいを感じるよ
うになってきたら、鳥を通じて自然とのつながりが生まれてきます。それこそが野山の鳥を
観察する醍醐味ですね。今年の春の訪れは、鳥たちの美しいさえずりを聞きながら迎えまし
ょう。