
老夫婦が歩く散歩道には野球場や梅園などがある大きな公園もありますが、お気に入りは
オシドリたちも飛来してくる大沼を水源とする広い湿地帯です。その脇に整備された遊歩
道はジョギングやウォーキングそしてバードウォッチングにと多くの人々が行き交います。
冬の楽しみは遠来の冬鳥たち、春はスプリング・エフェメラルな花たちや樹木の花々、夏
は深緑と木陰そして秋には紅葉とキノコたちが目を楽しませてくれます。そんな素敵な環
境ですが、お目にかかれないものがあります。それはタヌキやウサギなどの小動物たちで
す。タヌキの目撃情報はあるし、ウサギは過去に1回だけ目撃したことがあるので、この
湿地帯で生活していることは間違いありません。でも、タヌキは夜行性が強く、ウサギは
滅多に人前には出てこないので、明るい時間帯に散歩するお二人さんは出会う機会がない
のです。
妻:この池も冬の間に睡蓮やアヤメのコーナーが整備されてとてもきれいになったわね。
今ではカワセミも来るようになったから、カメラマンがとても増えたわ。
夫:池の周りに咲いている紫色の花はアヤメだよね。カキツバタや花菖蒲との区別はどこ
を見たらいいのか忘れてしまったな。
妻:池の周りで満開に咲いているのはアヤメで間違いなし。良く見て、花弁の中心に、編
み目模様=文目(アヤメ)模様が見えるでしょう。それが名前の由来だから、3つの
中では一番判別しやすいわね。花の色は見た通りの紫色で、稀に白色がある。カキツ
バタは池の中の囲いの中で咲いている花がそうよ。花の根元を見ると白い細長の模様
が見えるでしょう。あれが特徴ね。花菖蒲はノハナショウブの園芸種で花の根元が黄
色い細長の模様なの。白と黄色の違いね。そこで識別できるわ。
夫:花菖蒲は昨日の菖蒲湯で使った菖蒲とは違うんだよな。
妻:菖蒲湯の菖蒲は葉菖蒲と言ってショウブ科なの。葉菖蒲は香りがあって、花も蒲
(がま)の穂みたいな黄色い花。花菖蒲はアヤメ科だから別物よ。花菖蒲には香りが
ないし、花は大きくて形や色も様々で観賞用ね。菖蒲という漢字が同じだから混乱す
るわね。
夫:よく覚えているね。昔、記憶したことがあるけど、もう忘れてしまっていたよ。
二人は満開のアヤメを堪能してから、湿地帯に向かって歩き始めました。入り口付近には
個人が開墾した畑があります。二人がなにげなくその畑に目を移した時です。
妻:あの茶色いのは何?あら、ウサギだわ。野ウサギが藪の中から顔を出している。あっ、
畑に出てきた。シャッターチャンスだ。動かないで。しゃがんで。静かに!
夫:(小声で!)気付かれると藪の中に逃げ込まれるから、連続シャッターでバチバチ撮
れよ。
妻:言われるまでもないわ。枚数制限なんて考えないわよ。
夫:おっ、まだ、逃げないぞ。こちらに気付かないとは思えないから、この距離間はセフ
ティー・ゾーンと考えているな。それなら俺たちと暫く付き合ってくれよ。いいな!
妻:跳ねた。逃がすものか。写真の撮りまくりだわ。
夫:ビデオを持ってくれば良かったな。俺のデジカメじゃアップが効かないよ。おっ、
止まった。足で顔をかいている。安心している様子だね。この道で野ウサギを目視で
きたのは2回目だな。今回は長い時間見られて嬉しいね。
妻:最近この畑で足跡を見たの。本物に会えて嬉しい。案外スマートな体型をしているの
ね。あの体型が普通なのかしら?それとも食べ物がなくて痩せているのかしら?
夫:この時期に食べ物がないというのは考えられないから、あれが普通なんじゃないかい。
妻:畑の中を移動していくわ。こんなシャッターチャンスはないわね。これは奇跡よ。
夫:あっ、又、どんどん動き始めた。
妻:ウサギさん、待って!もっと写させてよ。あ~、藪の中に入っちゃった。残念。
夫:また、出てくるかもしれないからここで暫く動かずに待ってみようよ。
残念ながら野ウサギが再び顔を出すことはありませんでした。野ウサギとの遭遇時間は
2分ぐらいの出来事だったと思います。二人はそれぞれのカメラの液晶画面を見ながら、
興奮のひと時を振り返っています。
妻:バッチリ撮れたわよ。見て、見て!いい写真でしょう。家に帰ってパソコンの画面で
確認するのが楽しみだわ。短い時間だったけど、興奮した時間が過ごせてよかった。
夫:俺のコンパクトデジカメは望遠があまり効かないのでアップして見るとブレてるな。
妻:いい写真が多いわ。嬉しい!偶然の出会いに感謝ね。
夫:ブログでウサギの「ミミ」、キツネの「コン太」そして狸の「ポン吉」を主人公にし
た「動物村の仲良し3人組」のシリーズを書いているから嬉しい出会いだ。キツネに
は滋賀県の伊吹山山頂のお花畑で遭遇しているし、今回はここで野ウサギに出会えた。
何とか次は狸の「ポン吉」に会いたいな。
妻:今日はブログで書いてきたことへのご褒美に出てきてくれたのかもしれないわね。
実物の日本野ウサギをじっくり見たから、これからの挿絵のミミちゃんはもっとスマ
ートに書いてあげなければいけないわね。
夫:足跡を見たと聞いていたから期待していたんだ。この明るい時間帯に姿を見せてくれ
たことに感謝したいね。充実のひと時を過ごさせてもらった。
日本野ウサギは別段珍しいものではありませんが。老夫婦にとってはまだ2回目の出会い、
興奮のひと時だったようです。野ウサギが藪に入り姿が見えなくなった後も、その場に立ち
止まり、液晶画像を見ながらのウサギ談義で盛り上がっていました。この日は帰り道でも同
じ畑でキジのペアに遭遇しました。またもや、シャッター音はキジたちの姿が消えるまで途
切れませんでした。家に帰ってからの編集が大変でしょうね。