
動物村の仲良し3人組は好奇心旺盛で怖いもの知らず。動物村の浜辺に漂着してきたボー
トが今の関心事です。村の長老からは「このボートに乗って沖へ出てはいけない。海に
は「うみおばけ」がいて、ボートをひっくり返して、お前たちを海の中の深い底に引き
ずり込むのだぞ!」と強く言われています。うみおばけは怖いけれど、それでも長老も
知らない水平線の向こうの世界が見てみたいという好奇心は日増しに強くなるばかりで
す。3人組は連日、砂浜のボートに乗り込んでは、オールを使って漕ぐ真似をしながら、
海の向こうの世界のことを話し合っています。
コン太:今日も海は穏やかだよな。これならあそこに見える水平線まで行けるんじゃな
いか。
ポン吉:長老はうみおばけが出ると言ったけど、見たことがないらしい。どんな姿をし
ているのかな?僕たちを怖がらせるための作り話じゃないのかな。
ミミ :私もそう思いたいの。私たちをボートに乗せないために言っているのよ。水平
線の向こうには美味しい食べ物がいっぱいある島があると思うのよ。
コン太:ミミは食べ物にしか関心が無いんだな。
ミミ :失礼ね。食べ物だけじゃないわよ。でも、食べたことがない美味しい物が食べ
られたら素敵じゃない。
ポン吉:やはり、食べ物の話に戻っちゃうね。ハッハッハ
ミミ :二人してからかうなら帰る。怒ったわ。
コン太:ごめんよ!実は僕も同じことを考えていたんだよ。だから許してな。
ポン吉:考えることは皆同じだね。僕もだよ。
ミミ :そうだったの、それなら許してあげる。怒って損しちゃったみたい。
こうして3人組は水平線の向こうにある見えない世界に想いを馳せていましたが、ある日、
とうとう我慢ができなくなって、ボートを海まで押し出して乗り込んでしまいました。
ポン吉:とうとう、海に出てしまった。フワフワと波間に漂うのは気持ちがいいね。
コン太:こんなに穏やかな海なのだから、うみおばけなんて出ないよ。
ミミ :もう少し、沖に行かない。水平線の近くに行ったら島が見えるかもしれないわ。
3人組は海の上でのオールの使い方にも慣れてきて、上手にボートを操れるようになり
ました。こうして、自信を付けた3人組はボートを少しずつ、沖合に見える水平線に向
かって進め始めました。
ポン吉:あれを見て!海の中から何かが飛び出してきた。海の上を飛んでいるよ。あそ
こでもいっぱい飛んでいる。どんどんこちらに向かって来るぞ。
コン太:あれはどう見ても魚だぞ。うみおばけではないようだ。
ミミ :速い。どんどん近づいてくる。来た!キャー!ボートに飛び込んできた。やっ
ぱり魚よ。びっくり、これを見て!魚に羽根が生えているわ。海の上を飛ぶ魚
がいるなんて知らなかったわ。
飛び魚たちはボートを追い越して見えなくなりました。3人組はうみおばけでないこと
でホッとしましたが、想像もできなかった飛ぶ魚を見て、ますます、水平線の向こうの
世界に興味が湧き、オールを操る手に力が入りました。
ポン吉:今度は何が出てくるのかな?海には僕たちが知らない不思議な世界があるんだね。
コン太:やっぱし、うみおばけは長老の脅かしなんだよ。
ミミ :でも、長老は絶対にウソは言わないわ。気を付けることに越したことはないわ
よ。もうすぐ、美味しい食べ物がある島が見えるかもしれないわね。
その時です。遠くの水平線の方で「ザボ ザボ ザブ~ン」と大きな音がしたかと思うと、
海が大きく二つに割れ、その割れ目から大きな、大きな一つ目のうみおばけが、現れて立
ち上がりました。3人組を乗せたボートは大きく揺れて大ピンチです。3人組は怖くて声も
出せず、ボートにしがみついていました。
うみおばけ:(雷鳴がとどろくような大きな声で)「お~い!ボートに乗せてくれ!」
3人組はボートにしがみつきながら、顔を見合わせていましたが、突然ミミが勇気を出し
てうみおばけに向かって言いました。
ミミ :いいわよ。
ポン吉:勝手に何を言いだすのだ!ダメだよ、絶対にダメ!あんなに大きなものが乗った
ら、ボートが転覆しちゃうよ。
コン太:ダメだ、ダメだ、逃げるのが先だ!あいつは「うみおばけ」だぞ。早く逃げない
と海に引きずり込まれてしまう。
ミミ :ここは私に任せて!考えがあるの!断ったら何をされるかわからないわ。
うみおばけさん、「ボートに乗れるくらい小さくなって、ここまで泳いで来たら
乗せてあげるわ」。
うみおばけ:本当に乗せてくれるのだな。ヨ~シ、分かった。
うみおばけは3人組が見ている前で、どんどん小さくなって「エッコラ、エッコラ」とボ
ートに向かって泳いできます。
ミミ :今よ!みんなで力を合わせて、力いっぱいボートを漕いで浜辺に戻るの。
ポン吉・コン太:分かった。これからは俺たちの番だ。力いっぱい漕ぐぞ。
エイサー、エイサー・・・
3人組は後ろも振り向かずにボートを漕ぎ続けて、やっとの思いで浜辺にたどり着きまし
た。海に向かって振り返えると、うみおばけはいつの間にか消えていました。
一人で沖へ出ると「うみおばけ」がでるぞ!