茨城県で最も有名なりんごの産地は県北にある大子町。ここではりんごを品種名ではなく
「奥久慈りんご」というブランド名で呼んでいます。大子町には観光りんご園が約40あり、
秋になると多くの家族たちが訪れる名所になります。私も大子町のりんご狩り体験者です
が、本当にここのりんご園で味わうりんごは、ここでしか味わうことのできない美味しさ
です。その秘密は樹上完熟にあります。「奥久慈りんご」を紹介します。
稲や野菜は、種をまいてから1年間で収穫できますが、りんごは樹の形をつくるだけで
4~5年を要し、1本の木が最大の収量となるまでには10年程度かかります。また、その
間に1年でも間違った管理をすると元に戻るまで数年かかります。そして、ほとんどが手
作業です。こうした地道な管理の積み重ねを1年1年続けているのが「りんご栽培」です。
<日本のりんご栽培の歴史>
りんごは、ヨーロッパで4000年程前から栽培されており、アダムとイブや、ウィリアムテ
ルなど、りんごに関する伝説やエピソードも多く残っているように、古くから極めて身近
な果物であったようです。そして、今のようなりんごが日本でつくられ始めたのは、まだ
130年ほど前のことです。1871(明治4)年に北海道開拓使次官がアメリカから持ち帰った
75種の苗木を、内務省勧業寮試験場が中心に全国に配布し、各地で試作が行われました。
その結果、りんごは信州や東北地方などの比較的冷涼な地域に適していることが分かり、
冷害でお米が実らない年でも立派に実をつけたことから、寒冷地での重要な作物として
普及しました。
<青森県でのりんご栽培の歴史>
りんごの収穫量ランキング(2020年)では、青森県が断トツ1位(60.7%)、2位長野県
(17.7%)、3位岩手県(6.2%)です。豪雪の地、青森県がりんご栽培で日本一の生産量
を長年維持し続けている背景を紹介します。実は明治時代になって、武士の失業対策のた
めに全国で果物の栽培が計画されました。そして、日本政府から上記の入手経路で得た、
さまざまな果物の苗木が都道府県に支給され、その中にあった3本の西洋りんごの苗木が
青森県りんごの始まりとされています。当時のりんごは希少価値が高く、りんごの木が
1本あれば田んぼ一反(330坪)に匹敵する収入になったそうです。
明治の世となって、自分たちの仕事がなくなってしまった津軽藩士たちは、彼らの象徴
である刀を剪定鋸や鋏に持ち替えて、生業としてりんごを栽培することを決めたのです。
しかし、本州の最北端に位置する青森県は豪雪地帯で、気象条件だけでも世界で最もりん
ごが栽培しにくい環境と思われました。寒さに凍えながら育てても、実がまったくつか
ない年もあったと言います。この不可能と思われた栽培を可能にしたのは津軽藩士たちの
「他に負けない、優れたものを作りたい」という武士としての誇りと責任感、そして津軽
人の「じょっぱり(諦めない、頑固な)魂」で、失敗を繰り返しても栽培を続けたからと
伝えられています。もし、苗木が武士にではなく農民に託されていたら、今の「りんごの
王国」はなかったかもしれないとまで言い残されているのです。侍たちのプライドをかけ
た、たゆまぬ努力と卓越した栽培技術は時代とともに引き継がれていき、現在も青森県は
生産量・栽培面積ともに日本一のりんごの県として名を馳せているのです。
<茨城県大子町でのりんご栽培の歴史>
大子町でのりんごの本格生産は昭和19年から始まりました。県内で全く生産のなかったりん
ごを、現在の黒田りんご園の歴代の園主たちが、方々を駆け巡り、技術を習得し栽培に成功
しました。黒田りんご園には、今でも日本で最古の陸奥(むつ)、のりんごの木があります。
現在では中心産地の大子町以外の周辺地域でも栽培されています。茨城県の生産量ランキン
グは13位(0.2%)です。茨城県は低地におけるりんご栽培の南限の地といわれていますから
これは仕方ないですね。
<りんご園内に実る主なりんごの品種>
りんごの品種は世界では約15,000種、日本では約1,500種類あるそうです。品種による味、
大きさ、食感など、それぞれの違いを楽しんでみてはいかがでしょうか。大子町には約90
種類も栽培しているりんご園もあります。代表的なりんごの品種です。
1.シナノスイート:果汁が多く酸味が少ないため甘味良好。
2.秋映:果肉は硬く、果汁がたっぷりで、ほど良い甘酸っぱさ。
3.紅玉:アメリカ原産。生食、加工両方に適した世界的な品種。
4.奥久慈宝紅:「こうとく」と「ふじ」を掛け合わせた大子町オリジナル品種。
蜜が入り果汁も多く。パリパリとした食感。糖度も高く、濃厚な食味を感じる。
5.ぐんま名月:蜜が入っておりしっかりとした果肉。良好な香り。
6.シナノゴールド:肉質が非常に良く、最近各地で注目されている黄色い有望品種。
7.こうとく:小玉だがたっぷり蜜が入っている。生産量が少なく稀少。
8.ふじ:蜜が入っており、甘味が強く果汁も多い。奥久慈大子の代表的なリンゴ。
全ての名前を知っていたら、あなたは「りんご博士」です!
<リンゴの栄養価と効能>
りんごは、「りんごが赤くなると医者が青くなる」などの言葉があるほど、古くから健康
に良い果物として知られています。りんごには、動脈硬化、糖尿病、高血圧など生活習慣
病の予防に効果がある「ペクチン(水溶性食物繊維)」や「カリウム」が多く含まれます。
ペクチンは、リンゴの果実だけでなく皮部にも多く含まれており、腸内の環境を整える作
用などがあります。また、カリウムには、体内の塩分を排出する働きがあるといわれ、高
血圧を改善する効果があります。1日1個のりんごを食べましょう!
<保存方法>
収穫されたりんごは、温度差のある場所を嫌うので、冷蔵庫など温度の安定している涼し
い場所に保存します。りんごからは“エチレンガス”がたくさん発生するため、他の野菜や
果物に影響しないよう、冷蔵庫に入れる場合はポリ袋などに入れ、口をしっかりしめて保
存しましょう。また、キウイフルーツや西洋梨など、収穫後に追熟させたい果物は、りん
ごと一緒にポリ袋に入れておくと、追熟がより進みます。
<りんごの豆知識>
1.りんごの選び方:りんごを引っくり返して下の部分を見ると少しへこんでいます。
へこんだ部分が、奥の方まで赤くなっているものがよく熟したりんごです。
2.リンゴは輪切りが美味い:りんごは芯や種の周辺部分の中心に栄養がつまっているため、
輪切りが適しているそうです。(農林水産省)ぜひ輪切りで食べてください。
3.「ツル割れりんご」は美味い:りんごのツルもとに亀裂が入っているのは、見た目は悪
いが美味しいです。健康優良児で育ったから服が破けたようなものです。
4.リンゴの蜜は甘くない:りんごの蜜自体が周囲の果肉部分よりも甘いということはあり
ません。蜜の入ったりんごは完熟した美味しいりんごだからです。
5.リンゴは丸かじりが一番: りんごの皮にはビタミンや食物繊維が全体の30~40%が含ま
れており、「りんごは皮ごと」という食べ方が理想的なのです。(文部科学省)
りんごの収穫時期は品種により異なりますので、りんご園は9月中旬から11月下旬までオー
プンしています。現地に何度も足を運んで品種の違いを楽しんでください。
<奥久慈りんごの美味しさの秘密>
奥久慈りんごは、樹の上でりんごを完熟させてから収穫します。これは、流通にはのらな
い貴重な「樹上完熟りんご」。観光型栽培ゆえの特長といえるでしょう。この樹上完熟を、
一戸一戸の栽培農家が徹底して管理しているので 、 完熟のりんごの美味しさを誰もが体
験できるのです。大子町には、山々のなだらかな傾斜を利用したりんご畑がたくさんあり
ます。園内に実るりんごの品種、味、大きさなど、それぞれの特徴をつかんで、手でもぎ
る楽しみを味わえる観光りんご狩りは大好評。主力の 品種は、11月に収穫する「ふじ」で
すが、開園期間を長くして、集客するために、9~10月に収穫できる品種も、りんご園ごと
に選定して栽培しています。
大自然の中で、もぎたての新鮮なりんごをたっぷり味わえる、大子町のリンゴ園に是非お
越しください。その美味しさは絶対に期待を裏切らないですよ!