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首都圏に住んでいる高校の同級生3人が古稀を迎えたことを契機に始めた街歩き。首都圏
を中心に歴史探訪・文学散歩を楽しんでいます。今回の舞台は横浜。JR根岸線・石川町
駅に集合しました。
ノブ:横浜の観光スポットといえば、みなとみらい・赤レンガ倉庫・中華街などがお決ま
りだけど、山手地区には歴史的に価値のある七つの西洋館が無料で公開されている
んだ。今日は異国情緒を肌で感じながら横浜・西洋館めぐりをしよう。
ヒデ:幕末の開港から近年まで、横浜の歴史の変遷を見届けてきた洋館が、この地区には
残されているということだね。
ノブ:残念ながらそれは違う。実は関東大震災で震災以前の西洋館はもうないんだよ。案
内するのは震災以降から昭和初期の西洋館をここへ移築したものが主流だ。それで
も大正末期から昭和初期の西洋館だから、その外観や内装品を見ると、あの当時の
日本に住んでいた外国人の暮らしぶりがわかるよ。
ヤス:横浜は幕末のペリー提督の来航が契機で開かれた横浜港が、当時、日本の輸出品の
70%を占めた生糸を独占的に取り扱ったことで発展したんだよね。
ノブ:その通りだ。世界遺産の富岡製紙場の生糸もここから出ていった。この山手地区に
はこの貿易を巡って多くの国の居留地が集まっていたから、異国情緒たっぷりな街
だっただろうな。それも関東大震災による壊滅的ダメージでその役割を神戸に移転
してしまった。ここに西洋館が誘致されたのもそんな哀愁の背景があるのだろう。
最初の目的地は山手イタリヤ山庭園。歩きながらの会話は幕末・日本のうんちくでした。
ノブ:着いたぞ。ここが「ブラフ18番館」だ。震災直後に建てられたオーストラリア人貿
易商バウデン氏の邸宅だ。その後、山手教会の所有を得て横浜市に寄贈された。館
内は震災復興期の外国人住宅の暮らしが再現されているんだ。
ヒデ:内部をじっくり見てきたけど、ベイウインドウ・上げ下げ窓・バルコニーサンルー
ムなど外国人住宅らしい造りだ。こんな洋館が大正末期に建てられていたんだね。
ノブ:次は「外交官の家」だ。明治43年築。日本人のために建てられた西洋館で、東京渋
谷にあった明治の外交官・内田氏の邸宅を移築したものだ。重要文化財だよ。いず
れは嫁に行く娘のために和館が併設されていることが面白い造りだ。
ヤス:色合いのきれいな洋館だね。1階の広い食堂やゆったりとした客間そしてお供の人の
控室を見ると、ここで外国人の要人を招いて晩餐会を行っていたことがうかがえるね。
次に向かったのは外国人墓地のある元町公園。道の途中には昭和8年築のネオ・ゴシックス
タイルで尖塔のある「カトリック山手教会」、テニスのクラブハウスとして利用されている
西洋館「旧山手68番館」そして「金星太陽面経過観測記念碑」がありました。この碑は明治
7年に、太陽と金星と地球が一直線に並ぶ現象が日本で観測されたため、世界の天文学者が
日本の各地で観測した記念碑です。この観測の成功で太陽と地球の距離が正確に測れたそう
です。ここはメキシコ隊の観測地でした。明治7年のまだ混とんとした時代に、グローバル
な人材が集い観測されたことは驚きです。さすが紀元前から行われていた天文学です。
ノブ:ここが現存する戦前の西洋館としては最大規模の建物「ベーリック・ホール」だ。昭
和5年築で、イギリス人貿易商ベーリック氏の邸宅だ。ここも宗教法人の所有を経て
横浜市に寄贈されている。スパニッシュスタイルを基調とし、玄関の3連アーチや小
窓・煙突など多彩な装飾が施されている。
ヒデ:大きくて重厚だね。内部も広いリビングルーム・装飾されたダイニングルーム・白と
黒のタイル床など建築学的にも価値ある建物なんだろうね。
ノブ:次は「エリスマン邸」だ。ここは震災直後の築造で、スイス人貿易商エリスマン氏の
邸宅だ。マンション建設で解体されたが市民の声でここに移築された。ここのカフェ
は生プリンが有名だよ。
ヤス:暖炉のある応接室、庭を眺めるサンルームがよかった。それに生プリンは美味い。
3人は道の途中にある、人気の洋館カフェ「えの木てい」、外国人用のアパートメントハウ
ス「山手234番館」、木製西洋館の「山手資料館」、そしてペリー艦隊の水兵の事故死の埋
葬地が始まりである「横浜外国人墓地」などを一つ一つ巡りながら、「港の見える丘公園」
に向かいました。
ノブ:ここが英国の威厳を感じる「横浜イギリス館」だ。昭和12年築。建材は上海から取
り寄せられ、英国総領事館公邸として建てられた。昭和44年に横浜市が取得してい
る。市の指定文化財だ。震災後の建築なので重厚でどっしりとした造りと、旧英国総
領事公邸であった由緒が残されているのが特徴だ。
ヒデ:明るく開放的な設計と高い天井や重厚なドア、美しい寄せ木の床面など、確かに英王
室の威厳を感じ取ることができるね。
ノブ:最後の7番目の西洋館になるけど、ここがローズガーデンを見下ろせる「山手111番
館」だ。大正15年築のアメリカ人ラフィン氏の邸宅だ。とても個性的なので驚くよ。
家具なども昭和初期の洋館を体験できるよう配置している。
ヤス;なるほど、シャンデリアが輝く吹き抜けのホールとそれを囲む回廊にはテンションが
上がったよ。とても個人の家だったなんて思えないほど贅沢で開放的な造りだね。
ノブ:回廊を支える柱がないことで広々としたホールになっている。それに傾斜地にあるの
で表からは2階建てだけど、裏から見ると3階建てに見えるんだ。
3人は西洋館めぐりを終えると、大佛次郎記念館、ローズガーデンを見学して、横浜ベイブ
リッジを望む絶好のビューポイント「港の見える丘公園」にやってきました。
ノブ:7館の横浜・西洋館めぐりはここまでだ。西洋館めぐりと言えば神戸の商館が有名だ
けど、見学はどこも有料だよね。ここは建物が横浜市の所有であること、気付いたと
思うけど、各館内にはカフェを併設していることで維持費を確保しているから無料な
んだよ。
ヒデ:各館ともに管理が行き届き、街もきれいで歩いていて楽しかったよ。市の税金とカフ
ェの売り上げで維持されているんだね。俺が生プリンを食べたのも貢献しているんだ。
ヤス:西洋館以外にも史跡や名所が充実しているコースだったね。NHKの「西郷どん」で取
り上げられる薩英戦争の引き金となった「生麦事件」のイギリス人犠牲者も、この横
浜・外国人墓地に眠っているとは知らなかったな。
ヒデ:もう一つ、金星太陽面経過観測が行われたことも知らなかった。明治維新がもう少し
後だったら、日本での太陽距離観測はなかったのだろうね。
3人は西洋館を後にして、関東大震災のがれきの埋め立てでできた「山下公園」に向かいま
した。
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