すずしろ日誌

介護をテーマにした詩集(じいとんばあ)と、天然な母を題材にしたエッセイ(うちのキヨちゃん)です。ひとりごとも・・・。

ふたりのばあやん

2006-09-04 20:01:38 | むかしむかし
 むかしむかし、あるところにばあやんと意地悪ばあやんがおった。
二人は実の姉妹じゃったが、性格は全く似ておらなんだそうじゃ。
 二人にはそれぞれ跡取りの他に、遠くで暮らす息子がおった。ばあやんは息子が帰るたび、まるで戦地から戻ったがごとく喜び歓迎したが、意地悪ばあやんはあまり嬉しい顔は見せなんだ。
 戦後の物のない時代に、それぞれの息子は母親のために珍しい魚や菓子を苦労して手に入れ、持ち帰った。ばあやんはそれを頭の上に捧げては
 「もったいない。こんな高価な物を」
というのであった。
 一方意地悪ばあやんは、土産を一瞥するなり
 「別に欲しくもない・・・。」
とぶっきらぼうに言うのであった。
 こんな風に全く性格の違う姉妹であったが、同じところがひとつだけあったのじゃ。困ったことに、二人ともせっかく持ち帰った土産を食べようとはしないのだった。
 ばあやんは勧められるままに一口食べると
 「ああ、もったいない、まるで円札をかみしめるような贅沢じゃ。」
そう言って、みんな孫たちに食わせてしまうのじゃ。
 一方意地悪ばあさんは、嫌そうに一口食べるなり
 「ああ、まずい。こんなものは食えた物じゃない。」
そう言って、これまたみんな孫たちに食わせてしまうのじゃった。
 そうなのじゃ。意地悪ばあさんは、「美味しい」と言えば「母さんが食べてくれ」と言われると思い、わざと悪口を言っていたのじゃ。素直になれない母親の性格を見抜いておった息子は、じゃからこそ意地悪されても意地悪されても、「そうかい」と受け流して、また食べ物を運ぶのじゃった。少しでも母親の口に入れたくてな。


 以上、いつの時代にもいる不器用者の話である。まあ、同じなら「うれしい、おいしい」と言ってもらいたいですよね。息子は分かっていたけれど、お嫁さんはきつかったらしいし。でも、ちょっとかわいい。どんな顔で孫に食べさせていたんだろう・・・。2006/9/4の記事
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足の早いおじさん

2006-08-21 23:25:25 | むかしむかし
 むかしむかし、ある田舎にたいへん足の速い、腕白坊主がおった。村でもかけっこは負けたことが無く、いたずらでも負けたことはなかった。あまりの腕白ぶりに、ようじいさまに説教を食らったが、そのげんこつが振り下ろされる前には、正座したまま後ろに火鉢を飛び越えて逃げるといった有様で、まるで忍者のようじゃった。
 その腕白坊主が、ある日不思議な男と出会った。身なりはどこにでもおるおやじであったが、何しろ足が早いのじゃ。それは風のように早く、もっと驚いたことには、その男は四つん這いで駆け抜けるのじゃった。
 「おっちゃん、ごっついなあ!」
感動した坊主じゃが、足の早いのが自慢だったのだから、悔しゅうて仕方ない。見よう見まねで、両手をついて走ってみたが、どうしても上手く走れないのじゃ。
 そんなことがあってから、どれくらい経ったじゃろう。ある祭りの日、坊主は母親と神社に来ておった。そこで、坊主はあの男に再会したのじゃ。
 「あ、おっちゃんじゃ」
坊主は走り方を教わりたくて、思わず男に駆け寄った。
 「あかん!」
すると、すぐに母親に腕を掴まれたのじゃ。訳の分からぬ坊主に、母親はこう言うた。
 「あの人はな、犬神さんに憑かれとるんじゃ。」
 どうりで足が早い訳よなあ。


以上、所謂キツネ憑きの話である。私はあんまり近くでは見たくないなあ・・・。でも、ほんと、めちゃめちゃ早かったらしい。「この人変だ」と思わずに、「すっげ~」と思ってしまうあたりが、子供よねえ・・・。
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ねえやんの干し芋

2006-08-17 23:31:50 | むかしむかし
 むかしむかし、ある貧しい家にツヨシという少年がおった。たくさんの兄弟の末っ子じゃったツヨシは、ある時から、親類の家に「口減らし」に出されたのじゃ。かといって、親類のおじさんもおばさんも決して裕福だった訳ではなく、ツヨシは朝から晩まで働かされたが、ろくろく飯も食ってはおらなんだ。
 どうにも空腹に耐えかねたツヨシは、ねえやんの家に向かった。ねえやんはツヨシの一番上の姉さんで、近くの家にお嫁に来ていたのじゃ。
しかし、「お腹がすいた」と言えば、ねえやんに心配をかける。じゃから、ツヨシはどうしても、「食わせてくれ」とは言えなんだのじゃ。
 ねえやんの家までくると、軒にたくさんの干し芋や干し柿が吊してあった。それをすばやくもぎ取ると、わざと大きな声で、
 「おおい!ねえやん!取ってやったぞ!」
と、いたずら坊主を演じたのじゃった。
 「こら!」
怒って出てくるねえやんに、あっかんべーをしながら、ツヨシは精一杯走った。あんまり顔を見ていると、涙が出そうだったのじゃ。
 ねえやんの家が見えないところまでくると、ツヨシは泣きながら夢中でそれらをむさぼり食った。
 「ごめんよ、ねえやん」
と繰り返しながら。
 それからも、どうにも腹が減った日は、同じようにいたずら盗人を決め込んだ。しかし、ツヨシは知らなんだのじゃ。ねえやんがとっくに気づいていることを。
 ある日、いつものように家に近づくと、ねえやんとねえやんの婿さんの話が聞こえてきた。
 「おい、そろそろツヨシが来る頃やろ。」
 「ごめんなさい・・・。」
 「かまうか。それより、早うツヨシ来る前に、下げてやらんか。」
 そうなのじゃ。ねえやんとねえやんの婿さんは、ツヨシが取りやすいように、低いところに芋や柿を下げてくれとったのじゃ。
 ツヨシはその日、袖口をかみしめて、声を出さずに泣いたのじゃった。


以上、貧しかった時代の実話である。2006/8/17の記事
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タヌキの提灯行列

2006-08-14 11:46:02 | むかしむかし
 むかしむかし、ある山に大変いたずら好きなタヌキがおった。このタヌキ、姿は見せないがあらゆるところでいたずらをしおった。
 ある時、じいさまが向かいの山を何気なく見ると、道があるはずもないところに、提灯行列が行進しておった。それはそれは見事な出来で、向かいの山の木々がくっきりと分かるのじゃ。その木々の間を、見えつ隠れつ提灯の明かりが続いておった。
 じいさまは「ははあ、こりゃタヌキじゃな」と思ったが、床机に腰掛けたまま、
 「おお!見事じゃ見事じゃ!」
と誉めたそうじゃ。
 するとどうじゃろう、突然提灯行列の長さが倍になったのじゃ。おかしくなったじいさまはさらに誉めてやった。すると調子に乗ってどんどん行列は長くなるのじゃった。
 じいさまはその行列を眺めながら、足下にかすかなぬくもりを感じておったが、うっかり顔を見たらだまされるので、知らんぷりをきめこんだのじゃった。

 以上、なんともかわいいタヌキのいたずらの話である。徳島はタヌキの話がいたるところに残っている。田舎でなくとも、それこそ市内では有名なタヌキ合戦の話がある。(宮崎監督のアニメ、ぽんぽこにも登場した金長だぬきと、六右衛門だぬきの悲しいお話)漫画家の水木しげる氏によれば、徳島は妖怪の宝庫らしいが、すべて「タヌキじゃ」で済ませてきたらしい。う、ありえる・・・。
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引き潮の舟

2006-08-14 06:02:00 | むかしむかし
 むかしむかし、あるところに藤吉じいさんというおじいさんがおった。このおじいさん、いたく信心深く兼ねてから「わしは死んでも仏にはならん。」が口癖じゃった。(まあ、早い話が神道やね)
 この藤吉じいさんが、ある日突然、家族を集めてこう言った。
 「わしは明日の朝の引き潮に乗って、あの世に旅立たねばならない。みんなにあいさつせないかんので、集めてくれ」
まあ、こんなにぴんぴんしとるのに、何を言いよるのだ・・・と家族は思うたが、あまりにじいさんが真剣なので、親類を集めて、宴を催した。 夜更けまで、存分に語り合い呑み交わし、じいさんの話はともかく、こうして久しぶりに集まるのもいいもんだと、みんな思いよった。
 ところがじゃ。夜明け前になって、にわかにじいさんが慌て始めた。
 「いかん。夜が明ける。舟が迎えに来る。腹ごしらえをしないと、三途の川を渡れん。片栗を練れ!」
そう言われても、ばあさんはすっかり油断していたものじゃから、湯など間にあわん。
 「ええい、水でええ!急げ!」
言われるままに、水で練った片栗を差し出すと、じいさんはそれをかき込み、
 「ごちそうさん。」
そう、言い残して、ぽっくりとこの世を去ったのじゃった。

 以上、ぎりぎりセーフであの世に行った、うちの曾爺ちゃんの話である。ちなみにこのじいちゃん、困ったことがあったら名前を言えば必ず助けてやると言ったそうで、父は何度も助けてもらったらしい。私はと言えば、不信心が祟るのか、じいちゃんと面識がないからか、試しに爺ちゃんの名前を唱えると必ず失敗する。・・・、自力で頑張るしかないのね・・・。
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